二
木の上に身を潜めてほどなく、翠玉の推測は、現実のものとなる。
数人の気配と足音を察知した翠玉は、いっそう身体を縮め、緑の葉と細い枝に同化するように殺気を消した。
息を潜め、一番そばに来る瞬間を待つ。
やがて翠玉の目に映る、小さな家のような形をした乗り物。
金色の飾りをつけた紅色の輿が、翠玉のいる木の下の方にやって来た。
こんな夜更けに、輿に乗って後宮に来るなんて、そんな人物は一人しかいないだろう。
だが、翠玉は慎重だった。
標的を間違えたなどと、暗殺者にあるまじき失敗をしないため、まずは足止めを行う。
胸元から出したのは、丸い桃色をした飴玉のようなもの。
翠玉はそれを、輿に向けて軽く落とすように投げた。
すると、その道具は輿の天井に当たるなり、濃い桃色の煙を放出し始めた。
「なっ、なんだこれは……!?」
輿の四隅を持っていた宦官たちは、皆そんなことを言いながら狼狽する。
咄嗟に口を塞ごうにも、輿に手を使っていたため、間に合わない。
混乱しながらも輿を落とさないよう、地面に持ち手を置いた辺りで、次々と倒れてゆく。
輿を大切に扱う様から、いかに身分の高い者が乗っているか推測される。
やがて桃色の煙幕が収まった頃、輿がカタンと音を立てた。
「どうした、なにがあったのじゃ」
突然の異変に、中にいた人物が姿を現す。
輿に手をかけ、地面に降り立ったのは、翠玉の標的に他ならなかった。
木の上からは、顔までは見えない。
だが、夜空の下でもわかるほど、珍しい髪色が視界に入ったのだ。
まさに太陽の化身のようなお方――燃えるような赤い長髪が背中を覆っている。
――わかりやすくて嬉しいわ。
クスリ、黒い布の下で微笑んだ翠玉は、ついに標的に狙いを定めた。
左手で木の枝を掴むと、身体を斜めにし、両足を木の幹につける。
そして右手を懐に忍ばせると、膝を限界まで曲げ、目を光らせる。
その姿は、野生の獣のごとく。
――ごめんなさいね、別にあなたに恨みはないんだけど。
形だけの謝罪文だけ頭に並べると、翠玉は木の幹を思いきり両足で蹴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます