ss 田中さんと友人①


 私こと法水美琴がたーちゃんと出会ったのは一年生の頃だった。

 クラスが決まって早々に行われた席替えでたまたま隣になったのである。


「はじめまして。今日からお隣になる田中です。法水さんこれから一年よろしくお願いします」

「あっそ、よろしく」


 正直、初対面の印象は良くなかったね。

 まぁ、だからと言ってたーちゃんが悪いというわけではないけど。

 むしろ、悪いのは私の方。

 当時は、高校に上がる直前にクラスメイトで良い子ちゃんを気取っていた性悪女に陥られ、危うく高校進学を取り消しにさせかけられたせいで少々人間不信気味だったんだよねぇ〜。

 だから、明らかに良い子ちゃんオーラ雰囲気を放つたーちゃんを一方的に警戒しちゃって、挨拶が凄くそっけなくなっちゃった。

 正直、私の黒歴史。

 出来ることなら、たーちゃんに失礼な態度をとった自分をぶん殴ってやりたいくらいあの時の私は嫌な奴だった。


「はい!」


 けれど、たーちゃんはそんな私に気を悪くした様子もなく、むしろ挨拶が返ってきて嬉しそうだった。

 可愛い。

 それから、高校に入って知り合いが殆どおらず心寂しいのか、たーちゃんは定期的に私に絡み続けてくれた。


「あの、選択授業は何を選ぶおつもりですか?」

「それ聞いてどうするつもり?」

「実はお恥ずかしながら知り合いが殆ど居なくて、出来れば法水さんと一緒の授業を受けたいなと」

「美術よ」

「なるほど、音楽ですね。ありがとうございます!」

「何でそうなるのよ!」


 十分休みも。


「良ければ、お昼ご飯をご一緒しても良いですか?」

「私、今から食堂行くんだけど」

「おっ、いいですね。実は私も凄く興味があったので是非お供します」

「学食は食券を買わないと入れないわよ。そのお弁当どうするの?」

「両方食べます。こう見えて私胃袋が大きいんですよ」

「あっそ」


 昼休憩も。


「一緒にペアを組みませんか?」

「何で私?他にも仲のいい子がいるでしょ?」

「それが、もう他の子同士でペアを組んじゃってて。法水さんしか頼れる人がいないんです。ほら」

「はぁ〜、仕方ない。付き合ってあげる」

「ありがとうございます!」


 授業中も。


「半分持ちますよ」

「別に良い。アンタ今から部活でしょ」

「あっ、覚えてくれたんですね。そうですけど、今日部室の鍵開け当番が私なので職員室に寄らないといけないので、これはそのついでですよ」

「あっそ。わざわざご苦労だこと」

 

 私が嫌がらないよう慎重にタイミングを見計らって話しかけてくれたり、助けてくれたりした。

 でも、私は捻くれていて素直になれずそんなたーちゃんの甘さに甘え続けた。



「ねぇ、法水さんって感じ悪いよね」

「田中さんがせっかく手伝ってくれてるのに碌にお礼も言わないのは流石にむかついちゃった。助けてもらって当たり前みたいな感じがして私嫌い。田中さんもそう思うでしょ?」


 そんなある日の放課後。

 教科書を忘れている事に気が付いた私が教室に戻ると、掃除当番の女子達が私の悪口を言っているのを目撃した。

 その中には、たーちゃんもいて私は思わず背を向けた。


『私がちょっと優しくしてあげたからって勘違いしちゃった〜?ぷぷっ、貴方が私の友達?そんなわけないじゃない。貴方は私達がやらかした時の体のいい身代わりよ。じゃあ、そんなわけでバイバーイ。私達のためにこってり絞られてねぇ〜』


 たーちゃんのことをあの性悪女と同じだと疑っていながら、それでもやっぱりたーちゃんが自分のことを悪くいうんじゃないかと思うと怖くなっちゃったんだよね。


「私はそうは思わないです」

「えっ?」


 教室を離れようとした時、たーちゃんの否定の言葉聞こえてきて私は足を思わず止めた。


「たしかに、法水さんはか確かに言葉では素っ気ないけど、私が授業で当てられて困ってたら答えを教えてくれるし、お手伝いをしたら次の日に机の上にジュースやお菓子が置いてあって、きちんとお礼もしてくれてるんです。だから、お二人が思うほど悪い人じゃなくて法水さんは良い人です。今度一緒にお話ししましょう?そうしたら、きっと誤解も解けると思います」

「そ、そうなんだ。なんか、ごめんね。法水さんのことよく知らないのに悪口言っちゃって」

「私も田中さんに沢山助けてもらってお礼を言わないのが許せなくて、つい。そっか、ちゃんとお礼をしてるんだ。なら、田中さんの言うとおり良い人なのかもね」



 別に私のことなんか放っておいて、黙って友達に合わせていた方が楽なのに。

 もしかしたらグールプの除け者になる可能性だってあるのに。

 たーちゃんはリスクを無視してでも私のことを庇ってくれたのだ。


「……はぁ〜。マジ私最低だ」


 それがたまらなく嬉しかった

 でも、何よりそんな優しいたーちゃんを疑って、危ない橋を渡らせてしまった自分が惨めで恥ずかしかった。

 だから、私は戻る事にした。

 人を信じるのに臆病になっていた今の自分を捨て、昔のように友達を信じてみる事にしたのだ。


「おはよう、たーちゃん」

「おはよう、法水さん。……たーちゃん!?急にどうしたんですか法水さん!?」

「いやぁ、まぁ、ちょっと色々思うことがあってさ。田中さんと仲良くなりたいと思って。試しに渾名で呼んでみたんだけど……嫌だった?」

「いえ、全然嫌じゃないです!凄く嬉しいです。じゃあ、私は美琴ちゃんって呼んでいいですか?」

「いいよ」


 まぁ、そんなわけで次の日。

 私はたーちゃんに勇気を持って歩み寄った。

 ちょっと中学生の頃のノリが出て勢いやば過ぎたけど、たーちゃんはそんな私を何も聞かずに受け入れて喜んでくれた。

 それから、私達は距離をさらに縮めていき晴れて友人となるのでした。めでたしめでたし。


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