第10話 田中さんは家族想い!
「あの、聞きそびれていたのですが中山君は何でここに?」
十数秒後。
未だほんのりと顔を染めた田中さんがそんなことを聞いてきた。
「そういえば言ってなかったっか?俺は母さんの誕生日が近いからなんか良いものがないか探しに来た感じ」
出会ってから少し時間が経っているため、てっきり話していたとばかり思っていた俺は何をしていたのか話した瞬間、田中さんが顔を輝せた。
「そうなんですか!奇遇ですね。私の方も実はお姉ちゃんの誕生日が近くてプレゼントを探していたところなんです」
神の気まぐれか田中さんも家族の為にプレゼント選びをしていたらしい。
「あの、良ければ一緒に選んでくれませんか?一人だとどうも自信が持てず決めきれなくて」
そして、プレゼント選びの方が難航していたらしくおずおずと一緒に選んで欲しいと頼まれる。
これは、まさかデートのお誘い!?うぉぉぉーー!!生きてて良かったぁぁぁぁぁぁーーーー!!
突然、降って湧いてきた幸運に俺は心の中で大はしゃぎ。
しかし、それを表に出すと間違いなく引かれてしまうため「……別に良い構わないぞ」と慎重に返事を返し、田中さんと一緒にプレゼントを選ぶことになった。
「田中さんのお姉さんってどんな人なんだ?」
プレゼントを選ぶに当たって人となりを知っておいた方がいいと思った俺は、田中さんのお姉さんがどんな人なのか尋ねた。
「一言で言うと凄い人です。運動も勉強も料理も音楽も何もしなくても人並み以上に出来るくらいの凄い才能がある美人さん。だから、小学校の頃からずっと男の子から人気で良く告白されてましたね。でも、気持ちは良くわかります。お姉ちゃん美人ですけど、それと同じくらいかっこいいし可愛いので。例えば、包丁使いとかプロ並みなんですけど、玉ねぎを切るのがどうしても苦手でいつも泣きながら切ってるところとか特に可愛いんですよ。性格も気さくで、優しくて周りの人を明るくしてくれる太陽みたいな人なんです」
すると、珍しく饒舌に語り出す田中さん。
その姿はまるで推しを語るアイドルオタクのようで、よほどお姉さんのことを慕っているのが伺えた。
「へぇ〜、良いお姉ちゃんなんだな」
「はい、私の自慢のお姉ちゃんです!」
俺がお姉さんのことを褒めるとまるで自分のことのように嬉しそうな顔をする田中さん。
可愛い。
前まででも充分可愛く素敵な属性で溢れていたのに、まさかシスコン属性まであるとは最強過ぎるだろ!
あぁ!早く付き合いてぇ。
そんで、彼氏ラブ属性付与して毎日甘えて欲しい!
一生甘やかしたい!
「……ただ、物欲が殆どないので今年も何でも良いって言われちゃって困ってます」
俺が田中さんの新たな一面を知ってテンションが上がるのとは反対に、プレゼント選びの話に戻ったところで田中さんの声が急激に沈んだ。
確かに何でも良いというのはプレゼント選ぶ側からしたら面倒この上ない。
何故なら、どんな物でも喜んでくれると分かっていてようとも、好きな人には良いものを上げたいと思ってしまうのが人間という生き物なのだから。
もし、俺が田中さんのプレゼントを選ぶとしたら一ヶ月は余裕でかけられる自信がある。
ちなみに田中さんの誕生日は十月なのでまだまだ時間はあるが、てか、これを機にそれとなく好みを探っておいた方がいいな。うん。
「そうか。じゃあ、とりまなんかピンと来るとのがあるまで色々回ろうぜ」
「はい。よろしくお願いします」
俺はそんな下心を隠したまま田中さんを励まし、プレゼント選びを開始した。
「おっ、このタオルとかどうだ。ずっとふわふわで使えるらしいぞ」
「あっ、それ知ってます。美琴ちゃんのお気に入りなんですよ。たまに触らしてもらいますけど、本当に触り心地いいんですよ」
「へぇ〜、最近使ってたタオルがゴワゴワし出したから試しに一枚買ってみようかな」
『私きれい?』
「ひっ!?」
「どうかしたか?あぁ、ホラー映画の番宣か。もしかして、田中さんってこういうの苦手なの?」
「そ、そんなことはないですよ。ちゃんと夜一人でも眠れますから」
「うん。それ言う時点で絶対得意じゃないな」
「うわぁ〜!?この時計可愛くないですか!小さなウサギさん達が時計を支えてる姿が最高です」
「確かにいいな。値段はっと。げっ!?」
「どうしました?に、一万円。これはちょっと手が出せませんね」
「中々決まらないな」
「一応何個か良いものはあったんですけどね」
「そういうのに限ってちょっと予算オーバーするんだよなぁ」
「どうしましょうかね」
一時間ちょっと色んな店を周ってみて、田中さんの好みや苦手なものを知ることが出来たが肝心のプレゼント選びは上手く進んでいなかった。
俺の方は最悪選ばなくても良いのだが、田中さんの方は誕生日が後三日までに迫っているらしく、今日中に買わないと少々不味い。
「なんかねぇかなぁ」
何となしに俺はそう呟きながら、スマホを使っておすすめのプレゼントを調べる。
けれど、出てくるのは化粧品だとかアクセサリーとかアロマと、田中さんが昔お姉さんに渡したことがあるものばかり。
「ん?」
「どうかしましたか?」
俺は何かないかとスクロールをしていると、今まで見たことない物を見つけた。
「なぁ、これとかどうだ?」
「これは、『ハーバリウム』ですか?」
田中さんに見せて見ると彼女もどうやら知らなかったようで首を横に傾けた。
俺が見つけたのは瓶にオイルを入れて長期間花を保存できるようにしたハーバリウムというお洒落なインテリアである。
生花やドライフラワーのように入れる花によってメッセージ性が変わるので、面白そうだと思ったのだ。
「いいですね!これにしましょう」
俺がそのことを伝えると、田中さんのお気に召したようでさっそく材料を買いに行くことに決定。
とりあえず、モールから少し離れた場所にある花屋へ向かった。
「ご家族に送るのでしたらフリージアなんかがおすすめですよ。花言葉は親愛です」
「へぇ〜、すげぇ、ぴったりじゃん。しかも、色んな色があるんだな」
「はい。上手く組み合わせれば凄く映えそうですね」
二人で一つ一つ花を調べていると、それを見かねた店員さんがプレゼント用に適した花を用意してくれた。
正直に言って助かった。
俺も田中さんも花には造作が深いわけではなかったからな。
お目当ての花が見つかるまでかなり時間が掛かっていたことだろう。
「うーん?迷います」
「赤と黄色のを一本ずつ貰ってもいいですか?」
「はい、かしこまりました」
どんな色にしようか悩んでいる田中さんを横に、俺は一足先に購入へ踏み切った。
そう。田中さんに便乗する形になるが、俺も母親にハーバリウムを贈ることにしたのだ。
色違いのフリージアを持った店員さんの後を追い、レジに移動する。
「仲が良さそうでしたけど、お二人はカップルなんですか?」
「ぷっ!?」
購入を終え、店員さんが包装を待っていると突然爆弾を投げてきた。
あまりに唐突過ぎたせいで俺は取り繕うことも出来ず吹き出せば、「くすくす、その様子だとまだみたいですね。いいですね、青春って感じで」と揶揄われてしまった。
俺は顔が熱くなっているのを自覚しながら「いいから。早くしてくださいよ」と包装を終わらせるよう急かす。
「はいはい。あっ、ちょっと待ってくださいね。もう一つ入れるものがありました」
しかし、店員さんは作業の手を早めるどころか放置し、レジの外へ出て行った。
そして、すぐに戻ってきた店員さんの手には一輪の向日葵が握られていた。
「俺注文してないですよ、それ?」
絶対に買わないぞとという意志を込めて店員さん睨みつける俺。
が、またしても店員さんは気にした様子もなくマイペースに「向日葵の花言葉は知っていますか?」なんて問いかけてくる。
「知らないですけど」
俺は警戒しながらも素直に答えると、店員さんは「不勉強ですねぇ〜」とボヤく。
その後、再び包装作業に戻り、全て終わったところでまた口を開いた。
「じゃあ、特別に教えてあげます。向日葵の花言葉はあなただけを見つめる。愛慕ですよ」
「よし、決めました。店員さん赤と白を一本ずつお願いします」
「はーい」
「あれ、中山君その向日葵どうしたんですか?」
「……別になんでもねぇよ。なんか在庫が余ってるらしくてサービスで貰っただけだ」
「それは良かったですね。その向日葵はどうするんですか?」
「ついでにこいつもハーバリウムにする。後、ハーバリウムにすると六ヶ月から一年くらい持つらしいな」
「へぇ、そうなんですね。意外と長持ちさんです」
「あぁ、意外と長持ちするよな」
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