第6話 田中さんは面倒見がいい!


 突然だが(part4)、モテる人間というのはどんな奴だろうか?

 

 顔が美形な奴だろうか?

 運動が出来る奴だろうか?

 お金持ちな奴だろうか?


 人によって答えは様々だろうが俺個人の意見はこうだ。


 モテる人間は

 

 先に挙げた三つがあれば確かにモテるだろう。

 イケメンや美少女は相手の方から勝手に寄ってくるし、お金持ちも同様に寄ってくる。

 だが、それは上っ面を見ているだけで、相手は別にその人のことを全て好きになっているわけではない。

 大体の奴が、潜在的にイケメンやお金持ちと付き合っているというステータスが欲しいから言い寄ってくるのである。

 これはモテてはいるのだが、恋愛的というよりかは打算的な側面が強い。

 だから、真にモテるのに必要かと言われるとあるに越したことはないが、別にそこまで重要ではないと俺は考える。

 それよりも自分という人間を相手に知ってもらう機会を作れる能力が重要だ。

 そう。ここで面倒見の良さが出てくる。

 面倒見がいいと必然的に頼りされるし、他の人よりも少し交流する時間も長くなる。

 その間に自分のために悩んだり、力を貸してくれたりするのだ。

 人として好感を持たないはずがないし、何度もそれを繰り返せば恩義も大きくなる。

 となれば、相当な恩知らずでもない限り相手に何かを返そうと目で追うことが増え、新たな魅力に気付きやがて恋愛的な好意が芽生えるというわけだ。

 ふふん、どうだ?

 かなり説得力があるだろう。

 ……まぁ、自力で考えついたというわけではなくとある人物を見ていて気が付いたんだけどな。


「あれ、中山君どうしたんだい?こんな場所で黄昏て」

「あっ、秋月先輩。こんちゃす」


 さて、このことを俺に気が付かせてくれたとある人物とは男女合わせるとは、たった今職員倉庫の前で黄昏ている俺に声を掛けてきた紅髪のスタイル抜群な麗人。

 我が校で一番の人気を誇る四季姫の一人 秋月あきつき まどか先輩である。

 秋月先輩は目を見張る程の美少女で一見すると冷たい印象を受けるのが、見た目に反して人の懐に入るのが抜群に上手く情に厚い。

 そのため、よく人の悩みや困り事を聞き出しては問題解決のため相手に合わせた方法で力を尽くしてくれるめっちゃ良い人だ。

 だから、男子だけではなく同性の女子からも絶大な人気を博している。

 去年、秋月先輩が生徒会長に立候補した時、生徒全員の表が満場一致で彼女に集まった時は流石に笑った。


「ふふっ、こんちゃす。で、改めて中山君は何をしているのかな?」


 和やかな笑みを浮かべながら俺の真似をする秋月先輩。

 このことから何となく分かるだろうが、秋月先輩とも仲が良い。

 入学当初は学年が違うため秋月先輩とは絶対に関わることがないと思っていたのだが、文化祭の実行委員を任された時にお世話になったのをきっかけにちょくちょく仲良くしてもらっているのだ。

 まぁ、多分春野と同じで変に『流石です!秋月先輩』、『秋月先輩かっこいい』とか特別扱いしないところが気に入られているのだと思う。


「実は明日の授業に使うための教材を運んでくれって担任に頼まれたんすけど、一人で運べない奴が出て来てどうしようかと思ってたところです」

「なるほどね。じゃあ、私が手伝ってあげるよ。今日は特に生徒会の仕事もないしね」

「まじっすか!?あざっす」


 正直、頼み事をしてきた担任は急な出張で出て行ってしまって困っていたので秋月先輩の申し出はありがたかった。

 俺は頭を下げてお礼を言うと何故か恥ずかしそうに頬を掻き出す秋月先輩。


「中山君には、その、……最近色々とお世話になっているし」

「その言い回しだとなんか卑猥に聞こえるんで止めてもらっていいっすか?」

「ひわっ!?急になんてことを言い出すんだ君は!私はただ君から海星君の趣味や好物を聞いているだけだろう!」


 ただ、秋月先輩はメインヒロインの一人なため俺に好意を持っているなんてことはなく、好きな人のことを考えて乙女回路が暴走しているだけ。

 彼女の頭の中は海星のことを思い出してあんなことやこんなことをされていたらしく、案の定揶揄ってみると分かりやすく顔が赤くなる。

 このむっつりスケベがよぉ。


「はいはい。じゃあ、そっち持ってもらって良いですか?早く終わらせて帰りたいんで」

「ここ最近私の扱いが雑になってきてないかい?中山君」

「気のせいっすよ」


 後輩の前で卑猥な妄想をする変態の文句を無視し、俺達は馬鹿デカいダンボールを協力して教室まで運ぶのだった。

 

「先輩が手伝ってくれて助かりました。ジュース奢るっすよ」


 思ったよりも重量があり苦労したので、そう言って俺は鞄から財布を取り出すと、秋月先輩はゆっくりとかぶりを振った。


「別にいいよ。私がお礼をしたくてしたことだからね」

「じゃあ、俺が喉乾いたんで飲み物買うのについて来てもらって良いっすか?」


 しかし、その反応は想定内。

 いつも奢ってもらっていたつけを返そうと思っていた俺は、ちょっと前から用意していたカウンターパンチを放つ。

 俺のたくらみ通り秋月先輩は目が丸くなった。


「ふふっ、口が減らない後輩だな君は。そういうことなら仕方ない。この私、秋月円がお供してあげるよ」

 

 その後、ふわりと顔を綻ばし馴れ馴れしく肩を叩いてくる秋月先輩を連れ、外にある自動販売機のところへ向かう道すがら『〜〜♪♪』、反対にある校舎から吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。


「おっ、これは『青春の箱』の『same○lue』だね」


 何の曲か当てようとしていると、俺よりも早く秋月先輩が答えに辿り着いた。


「秋月先輩知ってるんすか?」

「うん、アニメの主題歌だよ。バトル物はあまり読まないけど『青春の箱』恋愛ものだからね。先ず、アニメを勧められてそれが凄く面白くて漫画の方も全巻買ったよ」

「へぇ〜、意外って──ほどでもないか。先輩も一応乙女っすもんね」

「一応じゃなくてれっきとした乙女だよ!?」


 オタクっぽくない先輩の口からアニメや漫画の話題を出る事に違和感を感じたが、いつぞやに見た彼女のプロフィール欄の好きなものに恋愛漫画とあったのを思い出した。


(田中さんも読んでのかな?)


 それに伴い漫画のモブだった田中さんのプロフィールはどんな感じなのか気になった。

 まぁ、もしあったらメインヒロイン以上の超絶美少女と説明が付くのは間違いないだろう。

 そんなことを考えていると、演奏が終わり反対の校舎からキャピキャピとした声が上がり出す。


「よしよし、今回はしっかり最後まで吹けたね。ミスも殆ど無かったし凄いよ」

「ありがとうございます!田中先輩が付きっきりで教えてくれたおかげです」

「私はちょっとしたコツを教えただけだよ。出来たのは浜田さんが頑張ったおかげだよ」


 視線を向けると、田中さんが後輩と思わしき女の子の頭を撫で褒めていた。


「なっ!?」

(超羨ましい!おい、一年そこ俺と変われ一億出す!)

「急にどうしたの?中山君」


 あまりの羨ましさに声を上げてしまい、秋月先輩から驚きと疑問の籠った目を向けられる。

 俺はここで田中さんのことがバレると面倒な事なると思い「何でもないっす」と誤魔化した。


「ふーん、そっか。気になるなぁ〜?物凄く気になるなぁ〜〜?」


 だが、俺が弱みを隠していると何となく察したらしく秋月先輩からダル絡みされるのだった。

 

「別に何もないっすから、マジで」

「えぇ〜、あの声と顔はなんかあった時の奴だよぉ〜。ほらほら、良い加減観念したまえ」


 それは自販機に着いても続き、良い加減鬱陶しくなってきたところで田中さんが校舎から出てきた。


「あっ、中山君。こんな時間に学校にいるのは珍しいですね。しかも、秋月会長と一緒なんて」


 田中さんは俺達に気が付くと、意外な組み合わせについて不思議に思ったのか少し躊躇いがちに尋ねてきた。


「まぁ、担任の山本にちょっと頼まれてな。色々運んだりしてたんだよ。秋月先輩がいるのはその時に手伝いをしてくれてな。今はそのお礼中だ」

「ねぇねぇ、ちょっと聞いてくれよ。中山君が中々強情だね。全く口を割らないんだ。同じクラスメイトなら何か良い方法知らないかい?」


 俺は事情を説明し終えたところで、味方を増やすチャンスだと思ったのだろう。

 秋月先輩の矛先が田中さんに向いた。


「あっ、えっと」


 急に生徒会長から抱きつかれた田中さんはたじたじ。


「田中さんこういう手合いはマトモに取り合わない方がいいぞ」

 

 俺はそんな田中さんを見かねて助け舟を出すと「酷い!もう、中山君はもっと先輩を敬う気持ちは持たないといけないと私思うんだ」と予想通り秋月先輩の矛先が俺に戻った。


「敬おうと思える人は敬いますよ」

「なに〜!?生意気な!」

「お二人は仲が良いんですね」


 秋月先輩と俺が口論をしているのを見て、田中さんがニコニコと形の良い笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。


(不味い。俺が秋月先輩に好意を持っていると田中さんに勘違いされてしまう!急いで誤解を解かないと)

「別に仲良くはないから。それより、田中さんは何でここに?」


 俺は言葉強めに秋月先輩との関係について否定し、話題を強引に変更。

 田中さんがここに来た理由を尋ねた。


「あっ、はい。頑張った後輩達を労おうとジュースを買いに来たんです」


 田中さんはそんな俺に戸惑いながらも事情を語ってくれた。


(めっちゃええ子や!すち!)


 それは大変後輩想いの素晴らしいもので、俺は改めて田中さんに惚れ直した。

 すぐに俺は田中さんに自販機を譲ると、彼女はお金を入れジュースを


「では、私はここで失礼させていただきますね」

「あっ、ちょい待ち。これも持ってきな」


 それが引っかかった俺は校舎に戻ろうとする田中さんを引き止め、先程買ったばかりでまだ口を付けていないミルクティーを投げ渡した。


「あの、これは?」


 突然のことに困惑気味な田中さん。

 俺から受け取ったミルクティーを見つめた後、こちらの意図を探るように顔色を伺ってくる。

 

「田中さんの分。田中さんも後輩が出来るように色々してたんだろ?さっき、チョロっと聞こえてきた。だから、そのご褒美」


 素直に好感度稼ぎや秋月先輩とは何もないことを信じて欲しいとは言えるはずもなく、俺は先程見た羨ま光景を参考に適当な理由をでっち上げた。

 

「……」


 すると、何故かミルクティーを見て黙り込む田中さん。

 少しして田中さんは「……ありがとうございます」とか細い声でお礼を言うと、走って校舎に戻って行った。


(ぁぁぁぁーー!ミスったーー!)


 てっきり好物が貰えたから喜んでくれるとばかり思っていた俺は田中さんの素っ気ない態度にショックを受け、その場に蹲る。


「ちょっ、中山君。急にどうしたの!?今のは何も悪いところ無かったというかむしろよか──」


 そんな俺に秋月先輩は何かを言っていたが、ショック状態の俺の耳には届かなかった。




「あっ、お帰りなさい。田中先輩それは?」

「あっ、えっと。ご褒美。浜田さん頑張ってたから買ってきたの」

「本当ですか!?ありがとうございます。じゃあ、ミルクティー貰ってもいいですか?」

「駄目!」

「うえっ!?す、す、すいません!勝手に選ぶなんて流石に図々し過ぎました」

「あわあわ、ご、ごめん。そういうことじゃなくて。これはちょっと。貰い物だから。こっちのオレンジジュースじゃ駄目かな?浜田さん好きだったよね」

「そういうことなら全然大丈夫です。今日はたまたまミルクティーの口だっただけで、オレンジジュースは大大大好物なので。むしろ覚えていてくれてたなんて光栄です」

「これくらい当然だよ。はい」

「ありがとうございます」

「いえいえ……」

「あれどうしたんですか先輩?」

「……(あ、空いてる)。きゅー」

「うわぁぁぁーー!田中先輩が倒れたーー!」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る