第4話 田中さんは優しい!
突然だが(part2)、男が女の子に惚れる時はいつだろうか?
まぁ、チョロイ奴は顔を合わせた瞬間に一目惚れすることもあるだろうが、その他の奴は大体が優しくされた時だろう。
机から落としてしまった消しゴムを拾ってもらった。
教科書を忘れた時、教科書を快く貸してくれた。
授業中に先生に当てられて困ってる時、答えを教えてくれた。
バレンタインで義理チョコをくれた。
こんな時に俺達は相手のことを好きになる。
好きになる基準がちょろ過ぎるって?うるせぇ!
だいたい男はこういう生き物なんだよ!
『ちょっと優しくされるだけで、ワンチャンあるんじゃね!?』って勘違いしてしまう愚か者なんだよ。
相手が美少女であろうとなかろうと男は単純だから好きになってしまうことがある。
だが、その確率は相手が美少女である方が高いのは言うまでもないだろう。
元々魅力に溢れている美少女が更なる魅力を見せつけてくるのだから仕方ない。
しかし、あまりの魅力に当てられて勢いで告白してくる馬鹿が多いのは難点なのかもしれない。
『ねぇねぇ、それ一人は大変じゃない?私も運ぶの手伝おっか?』
『あ、ありがとう
『いえいえ、困った時はお互い様だよ』
そんなわけで、この高校で最も告白されているのは四季姫の中で最も気遣い上手で優しい
誰か助けに来て欲しいなと思ったタイミングで桃髪ショートボブの可愛らしい美少女が現れるのだ。
男なら誰だって勘違いを起こすだろう。
まぁ、俺は転生者だから元々春野に海星という本命がいることを知っているので勘違いは起こさなかったが。
「おっ、中山君。どうしたの?珍しく落ち込んで。良かったら相談に乗るよ?」
ただ、そのおかげというか何というか、人畜無害な奴だと春野に認識されているようで実はそこそこ仲が良かったりする。
なので、俺が必死に落ち込んでいることを隠していたのにあっさり見抜かれてしまった。
「別に大丈夫だ」
しかし、田中さんの胸をガン見していたことがバレた話など恥ずかしくて話せるはずもない。
同じ女性の春野には特に。
だから、俺は春野の好意をあえて受け取らず拒否した。
「全然大丈夫じゃなさそうだから聞いてるんだけど……。へへっ、他人に言うことで楽になることもありますぜ兄貴」
「誰が兄貴だ。嫌だ。絶対話さない」
「えぇ〜、いいじゃんいいじゃん。教えてよぉ〜〜!?」
「おい、止めろ!服を引っ張るな!?」
だが、春野は何の琴線に触れたのかしつこく迫ってくる。
その結果、俺と春野の取っ組み合いが発生。
「嫌だ」
「話してよ」
「嫌だ」
「話せ〜!」
子供のようにいがみ合っていると「なんだ?」、「中山が春野さんとなんか喧嘩してるみたい」、「おい、中山!春野さんと手を繋いでるんじゃねぇ!?殺すぞ」と周囲のクラスメイトが騒ぎ出した。
これはかなり面倒なことになった。
「おい、春野放せ!お前のせいで変な勘違いされちまってるじゃねぇか!?」
俺はすぐに春野へ手を引くよう警告した。
「ふんっ、中山君が素直に白状しないのが悪いんだから。さぁさぁ、この状況から早く抜け出したくば話すしかないよ」
「くそっ。だぁぁぁー、分かったよ!話すから先に早く収集を付けてくれ」
「やった!はいはい、お任せあれ。あっ、でも約束を反故にしたらあることないこと言いふらすから。逃げないでよ」
「へいへい」
しかし、強かな性格をしている春野は逆にそれを利用してきて、最終的に俺の方が折れる形で決着が付いた。
その後、春野がクラスの奴らに「ごめんごめん。中山君とは戯れただけだから気にしないで。いやぁ、手押し相撲って久々にやると白熱するねぇ〜」と意味の分からないことを言って落ち着けると、俺達は揃って廊下に出た。
「で、何を落ち込んでいたのかな?中山少年」
「実は──」
そして、人気が少ない場所まで移動すると俺は渋々ながらに何故落ち込んでいたのか説明するのだった。
「なるほどね〜。好きな子に胸を見てるのがバレちゃってた、と。やっちゃったね〜中山君。女の子は視線に敏感だから男子がいくらバレないようにやってても気が付いちゃうよ。まぁ、ドンマイ。この反省を生かして新しい子を探そう」
「おい!そこは嘘でも励ませよ」
全てを聞き終わった春野の答えはあまりに無慈悲なもので、俺は思わず抗議の声を上げた。
「えぇ〜。でも、わざわざ言ってくるってことは不快だからでしょ。少なくとも好感度はかなり下がってると思うし、そんな子と付き合うのはかなり現実的じゃないと思うけど」
「うぐっ」
けれど、すぐに春野の正論パンチが飛んできて、俺はそれ以上何も言い返すことは出来なかった。
ある程度分かっていたことだが、やはり実際に言葉にされるとくるものがある。
それが田中さんと同性の春野からだと尚更だ。
「はぁ、最悪だ」
「まぁ、恋に失敗付きものだから仕方ないよ」
この世の全てに絶望した俺はその場に座り込むと、春野が肩に手を置き励ましてくれた。
流石はメインヒロイン本当にいいやつである。
「さすが何年も片思いをしている幼馴染へのアピール失敗し続けてる奴の言葉は染みるな」
「ねぇ、中山君喧嘩売ってる?珍しく私本気ぷっつんきちゃったよ」
「いてぇっ!おい、俺が悪かったから!ひっかくな!」
「ふしゃーー!」
俺は春野の言葉に深く感銘を受けたのだが、それを伝える際にうっかり地雷を踏んでしまったらしい。
その後、休憩時間が終わるギリギリ荒ぶる春野を落ち着かせるため奮闘する羽目することになるのだった。
「あの、中山君。頬の傷大丈夫ですか?」
俺が自分の席に戻って教科書を机から引っ張り出していると、隣の田中さんが声を掛けてきた。
どうやら、嫌いな相手だとしても心配になってしまうほど春野につけられたひっかき傷は酷いらしい。
俺は頬を触ると、痛みはさほど感じなかったが手に血が少しついた。
(アイツ加減ってやつを知らねぇのか。暴力ヒロインは最近需要ねぇぞ)
「まぁ、こんくらい大丈夫」
俺は心の中で春野へ文句を言いながらも、田中さんに問題ないことを伝えた。
おっぱいをガン見してきた変態を心配してくれるとは本当田中さんは良い人である。
俺は田中さんから視線を外し教科書を机から出そうとしたところで「これ使ってください」と、隣から声が聞こえてきて目の前に大きめの絆創膏が出てきた。
「えっ?くれるのか?」
「はい、勿論です」
俺はまさかこんなことをされると思っておらず、恐る恐る確認すると田中さんはいつもと変わらぬ微笑みを浮かべ絆創膏を机の上に置いた。
田中さんの気遣いはとても嬉しい。
けれど、嫌な思いを我慢してまでして欲しくはない。
「あの、田中さん?別に無理しなくても良いんだぞ」
「無理、ですか?別にしてませんけど。その絆創膏ならまだ沢山持ってますし」
なので、俺は直接そのことを伝えたが色々すっ飛ばしたせいでちゃんと伝わらなかったらしい。
田中さんは不思議そうに目をパチクリとさせている。
「いや、そういうことじゃなくてだな。田中さんって俺のこと嫌いなんじゃないのか?」
そのため今度はあまりしたくは無かったが直接的な言葉を使って田中さんに改めて質問すると、予想外の答えが返ってきた。
「えっ?私が中山君のことが嫌い?そんなわけ無いじゃないですか。私は中山君のことをとても良い人だと思ってますよ」
「えっ?でも、胸を見られて不快だって言ってなかったか?」
「それは違います!私は中山君に見られるのが不快だから言ったわけではなく、純粋に恥ずかしかったからで……。中山君は良い人なので言えば次から直してくれると思ったから伝えたのです。胸を少し見られたからって嫌いになったりしませんよ」
「マジ?」
速報。
胸をガン見していた変態の俺、田中さんに嫌われてなかったらしい。
むしろ、胸を見ている事に気が付いていたというカミングアウトは田中さんからの信頼の表れだった。
「はぁ〜、良かった〜〜」
その事実が分かった途端、真っ先に来たのは安堵だった。
好きな人に嫌われたと思っていたら嫌われてなかったのだから当たり前だ。
「すいません。私が変なこと言ったせいで要らぬ勘違いをさせてしまったみたいで」
「別にもう気にしてないからいい。でも、田中さんは優し過ぎる。俺がもし悪い人だったら大変なことになるぞ?」
その次にやって来たのはやはり心配。
こんな変態に温情を与えてしまうほど優しいと将来何処かしらで酷い目に遭いそうだ。
だから、俺は田中さんに喚起を促すと「ちゃんと人は選んでいるので大丈夫ですよ。これでも人を見る目には自信があるんです」と、田中さんは自信満々にそう言いきった。
「本当かぁ?」
「本当ですよ!」
だが、俺というクソ野郎を良い人だと見誤っている手前素直に信じられず、疑いの眼差しを向けると田中さんは心外だと言わんばかりに頬を不満気に膨らませるのだった。
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