第3話 田中さんはおっぱいがデカい!
突然だが男子高校生が好きなものは何だろうか?
そう、美少女だ。顔の可愛い女の子のこと。
では、ここからさらに男子の人気を上げるためには何が必要だと思う?
そう、おっぱいだ。
顔が地味目な女の子でも巨乳というだけで需要が跳ね上がる。
つまり、美少女が巨乳を兼ね備えていれば最強ということだ。
「やっば、相変わらず冬空さんのバルンバルンしてるな」
「ありがたやありがたや」
「ぐはあっ!?こちらを睨むその目も最高ですぞ」
「くぅ〜、やっぱ美人な上に胸もでかいとかマジで最高だよな冬空さん」
その証拠に、現在行われている体育の持久走で最も声援を受けているのは四季姫の中で一番胸が大きい黒髪美少女の
まぁ、当の本人は男嫌いなためかなり鬱陶しそうにしているが、黒髪ロングの眼鏡美人さんにグラビアモデル並の大きなおっぱいが付いているのだから致し方がないだろう。
四季姫の中で見た目は一番好みだったため、俺も一年の時は騒ぐ男子に混ざって眺めていたがそれはもう過去の話。
俺の目線は他の男子とは違う方向を向いている。
「はぁ、はぁ、くるし」
そう。田中さんだ。
俺の目は田中さんに釘付けである。
クラスの奴らは体育の授業中いつも四季姫に注目していて気が付いていないが、実は田中さんは冬空よりも立派なお胸様を持っているのだ。
彼女が足を強く踏みしめる度にたゆんたゆんと揺れる爆乳は圧巻の一言。
その上、激しい運動によって赤く染まった顔はエッチ!
最高過ぎる。
何故これほど魅力がある田中さんに誰も注目しないのか?
解せぬ。
お前らが大好きな爆乳美少女だぞ!?
クラス総出で応援しろ!?
「冬空さん頑張れー!」
「春野さん後一周!ファイトー!」
しかし、心の中でそう言ってもメインヒロイン達に夢中なクラスの男子は田中さんを応援しない。
「頑張れ田中さん!」
そんな愚か者達の声で掻き消されないよう俺は大きな声で田中さんにエールを送った。
すると、俺の声が届いたのか田中さんは驚いたようにこちらを向く。
次の瞬間、田中さんは顔を綻ばせ「(はい)」と口パクで返事をしてくれた。
可愛い。
あまりの可愛さにやられた俺は、田中さんが走り切るまでその後も必死に応援した。
出来れば走り終わった後も田中さんを労いにも行きたかったが、体育の先生に「お前ら応援はそんくらいにして位置につけ」と尻を叩かれたので泣く泣く断念した。
(でも、よくよく考えみれば応援ならともかく出迎えは流石にキモいな。うん)
しかし、走る準備をしている際に冷静さを取り戻せたので結果として良かったと思う。
出迎えをしていれば田中さんに好意を持っていることがバレたかもしれないし、何よりイケメンならいざ知らず女子の集団にフツメン一人が突っ込んできても嬉しくはないどころか女好きのキモい男が来たと思われてもイメージダウン間違いなしだ。
間接的に田中さんからの好感度を下げる可能性があったので踏み止まれて良かった。
えっ?胸を見るのは良いのか?って。
馬鹿野郎!
胸を見るのは男の正常な反応だから別に良いんだよ!
それに最低限周りの目を気にして胸をガン見するタイミングは選んでいたので問題ない。
心の中でそんな言い訳をしていると「ピィ〜〜!」と持久走開始のホイッスルが鳴った。
俺は思考を切り替え走る事に集中。
いきなり集団を抜け出した。
これは別にイキっているというわけではなく、この世界の俺は運動能力がかなり高いからだ。
晩年帰宅部ながらに体力測定の結果はサッカー部や野球部の奴と同じくらいある。
それに、ここ最近は田中さんにカッコいいと思われたくて筋トレと毎朝の走り込みをしているため、かなり速いペースで走っても問題なくなっている。
「はぁはぁ、中山君凄く早くなったね」
「はぁ、まぁ、最近は鍛えてるからな」
そんな俺に付いて来ているのは陸上部二名と四季姫が
夏瀬は俺同様に帰宅部で元引きこもりなのだが、
「海星頑張れー!」
「もっとペース上げなさい。そんなじゃ一位取れないわよ」
「夏瀬君頑張れー」
「じゃあ、俺行くわ」
「えっ?ちょっ、まだ上がるの!?」
一年生の頃から同じクラスだったためそこそこ仲は良いが、やはり美少女や女の子から声援を受けているのは普通に腹が立つ。
俺は女子の前を通る度に惨めな思いをしたくないので、夏瀬を振り切るためさらにペースを上げた。
「はぁはぁ、キツ」
ただ、途中でペースを上げたせいで肺に負荷が掛かり、後一周のところで限界が来た。
後ろを向くと、夏瀬達との距離は三メートルくらいある。
ここでペースを大幅に落とせば間違いなく抜かされるだろう。
(別に一位に拘っているわけじゃないしいっか)
しかし、別にこれは体力テストや試験などではなく普通の授業だ。
だから、そんなに頑張る必要もない。
そう俺が諦め掛けた時
「中山君頑張ってください!後一周!」
と声が聞こえた。
「ッ!」
(田中さんにかっこ悪いとこ見せられないよなぁ!?)
田中さんの声援により萎えていた心が一瞬で燃え上がり、俺は地面をさらに強く踏み締めペースをさらに上げた。
体力なんて欠片も残っていないのに。
好きな女の子にカッコ悪いところは見せられないという意地だけで身体を動かす。
「ダァッシャアーー!」
そして、残りの一周を何とか走り切ったところで俺は脇に転がった。
息が苦しい。
脇腹が痛い。
口の中が血の味がする。
しかし、心の方は晴れやかだった。
(田中さんにカッコ悪いところ見せなくて良かったーー!)
大好きな子に醜態を晒さなくて良かったと心底安堵している。
空を眺めながら息を整えていると、突然影が差した。
「お疲れ様です。中山君」
「凄かったぞ〜〜中山」
「陸上部に勝つなんてやるね」
友人達を引き連れて俺を労いに来てくれたのである。
「はぁはぁ、どう、も」
感動のあまり涙が出そうだが、そんなことをすると間違いなく引かれるので俺は軽く手を上げるだけにとどめた。
「ねぇねぇ、何で今日はやる気になったの?」
普段の俺らしからぬことをしたからだろう。
田中さんの友人である
「夏瀬、が、気に、食わなかった」
俺が素直に答えると「「ぷっ」」と田中さん以外の女子二人が吹き出した。
「アハハ!なるほどね。まぁ、四季姫にあんな応援されてたら男子としては面白くないよね〜」
「キャハハ、中山って大人びてると思ってたけど案外子供らしいところあるじゃん」
「あ、あの私なんかの応援で申し訳ないです」
四季姫によく思われたい他のクラスメイトと同じだと思われたのだろう。
二人は俺の方をニヤニヤと見つめながら揶揄い出し、田中さんは申し訳なさそうに謝ってきた。
けれど、それは大きな間違いだ。
俺は田中さんによく思われたいから頑張っただけ。
田中さんの応援は何よりも嬉しく力になった。
「いや、めっちゃ、嬉しかった」
だから、俺は途切れ途切れになりながらも田中さんにそのことを伝えた。
「そう、ですか。なら、良かったです」
すると、田中さんは目を意外そうに丸め、やがて安堵したように微笑んだ。
「お前ら記録忘れないように書いとけよー」
「中山。紙どこ?その様じゃ当分動けないでしょ。ウチらが代わりに書いといてあげるよ」
その後、体育教師の指示が飛んできて気を利かせたもう一人の友人である浜口さんが、代筆を申し出てくれた。
「助かる。あっちの方に、置いてる」
「おっけー。浜ちゃん、たーちゃん行こ」
「はい。しっかり休んでてくださいね中山君」
まだまだ死に体の俺はお言葉に甘えて頼むと、田中さん達は紙を取りに離れた。
(田中さん。マジもんの天使や。可愛いし健気ぁし友人を見る目もあるしマジ最高や)
そんな彼女達の背中を眺めながら、俺は心の中で崇めていると記録を書き終えたのか田中さんが用紙を持ってこちらに駆け寄ってくる。
「中山君どうぞ」
「サンキュ」
身体を起こし、それ受け取った俺がお礼を言うと「いえいえ、これくらいお安い御用です」と田中さんは謙遜する。
用事は終わったため友達の元に戻るだろうと思っていたら、田中さんは何故か離れずこの場に残った。
そのことを不思議間に思っていると、田中さんがもじもじし始め、視線をあっちこっちにやった後やがて「あ、あの!」と意を決したように話しかけてきた。
「ん?」
「先程言いそびれましたが、私も応援してくれて凄く嬉しかったです」
「そうか。なら、よかった」
どうやら俺が応援した事についてお礼を言いたかったらしい。
ただ、普段の田中さんならこれくらいさらっと言ってくる。
俺は何を恥ずかしがっていたのだろうと首を捻っていると、答えはすぐにやってきた。
「で、でも、中山君も男の子なので仕方ないと分かっているのですが、その、胸を見られるのは恥ずかしいので今後は控えてもらえると助かります……」
「えっ?」
悲報。
俺が田中さんの胸をガン見していたことがバレていたらしい。
顔を赤ながら嗜めてくる田中さんを前に俺は完全にフリーズする。
「でも、だからといって中山君のことが嫌いになったとかそういうのじゃないのです!ただ、その恥ずかしいのと、私なんかのより冬空さんの方が形とか良いのでそっちを見た方が良いかなと思っただけで。本当それだけです。ごめんなさい!」
そんな俺に田中さんは一方的にそう言い残すと、友人達の元に戻っていた。
(やっちまったーーーー!)」
俺はそれを見届けたところで盛大に頭を抱えるのだった。
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