十一

「……ぴ、ピケです、名字みたいやつは、ありません」

「まあ、お名前までお可愛らしいんですねーぇ!」

「ピケ様、壮にいる間、よろしくお願いいたします」

「あ、あの、あたしなんかに、様はいいです、敬語も、もったいないので」

「そうはいきません、ピケ様は陛下を治療する大事な客人であられますから、無礼のないようにと、陛下からのお達しです」


 様なんて呼ばれたこともなければ、敬語を使われたこともないから、なんかムズムズして居心地が悪くなるのに。

 皇帝様の言いつけは絶対だから、他の人にお願いしてもどうしようもないのかな。


「後、ご存知だとは思いますが、豪龍様の病のことはご内密に」

「表向きは、浩然ハオラン様の治療ということになっていますから」


 二人が当然のように言ったことに、あたしはキョトンとするしかない。

 だって初めて耳にしたことだったから。

 そんなあたしの様子を見て、二人は不思議そうな顔をした。


「……その様子だと、ご存知なかったのですか?」

「あ、は、はい」

「変ですね、ユニ族のおさにはきちんと説明したはずなのに」


 ミハイロさんの言葉に、ドキリとして身体を固くする。

 そうだ、きっと長――ユニ族で一番偉い人には、話があったはず。

 他国の人と話をして、ユニの民の派遣を決めるのは、代表の人たちだ。

 普通はちゃんと、ヒーリストにも話を通し

た上で、他国に行く。

 だけどあたしはなにも聞いてない。

 数日前に突然、あたしのところに長様たちがやって来て、命令を下された。

 

『壮国の皇帝様からのお達しだ。お前以外に適任はいない。行ってきなさい、ピケ』


 ――とだけ言われて、今に至る。

 あの冷徹な壮の皇帝様だって。

 少しでも粗相をしたら首を刎ねられる――。

 恐ろしい、なら……死んでもいい奴を送ればいいんじゃないか――。

 ヒソヒソ話に、クスクスと混じる笑い声。

 あたしの耳に届いたのは、そんな言葉だけだった。

 だけどこんなこと、今ここで言えるはずがない。

 ヒーリストとして認められていない人間が来たなんて、役立たずだと今すぐ首を刎ねられてもおかしくない。

 そうでなくても、不要だと判断されれば、本国に強制送還されるかもしれない。

 今更ユニに戻ったところで、どんな目に遭わされるかわからない。

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