皇帝様の部屋の前には、案内の人が待機していた。

 扉から出てきたあたしを、横目でチラッと確認する。

 透明感のある、綺麗な緑の瞳だ。


「どうぞ、こちらへ」


 そう言って、歩き出した彼についていく。後ろを歩いていると、緩くウェーブした長い髪を、低い位置で束ねているのがわかった。

 薄暗い中でもわかる、金色の髪だ。

 壮国の人は、瞳の色はさまざまだけど、髪の色は黒だと聞いていた。

 皮膚の色は白くも黒くもなく、健康的な肌色だって。

 だけどこの人は、肌がとっても白いみたい。

 途中で人が入れ替わったのかな?

 いや、もしかしたら最初からいたのかも。

 朝からずっと緊張していて、人の顔を気にする余裕なんてなかったから。

 とりあえず今日を乗り切れたことで、ほんの少し気持ちが緩んだみたいだ。

 長い長い階段を下りて、来た道を戻る。

 案内の人が立ち止まったのは、あたしが最初に連れてこられた、角部屋の前だった。

 案内の人が扉を開けると、すぐに中の様子が違うことがわかる。

 さっきよりもずっと明るくて、人の気配がした。


「あっ、ちょうどよかった」

「今、お部屋が整ったところです」


 扉が開いたことに気づいた二人が、パッとこちらを振り返った。

 衣装はやっぱり上は白くて、下は深い青色の袴に、龍の刺繍が入っている。

 どうやらこの服装が、壮国にお仕えする人たちの正装みたい。今まで会った人は、みんな同じものを着ていたから。

 二人はタッタッとあたしに駆け寄って、綺麗にお辞儀をした。

 二人とも真っ黒な髪を二つにまとめて、高いところでお団子にしてる。可愛い。


「ユニ族の方ですね、お初にお目にかかります、私はうー雹華ひょうかと申します」

「私はうー雷華らいかです。陛下より、身の回りのお世話を仰せつかっております」


 身の回りのお世話なんて、自分でするものだと思ってた。

 他国の人……それも、ユニなんて小さな民族にも、気を回してくれるなんて。

 壮国の皇帝様は、ちゃんとしてる気がする。

 あれだ、礼儀ってやつを、きちんとわかってる。

 育ちがいいんだ。高い教育を受けてる。

 あたしなんかと違って。

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