八
「あ……わ、わかり、ました」
「わかりました、ではなく、かしこまりました、もしくは承知いたしました、だ」
「あ、かし、かしこまるまりました」
「丸まってどうする、本当になにもわかっておらぬな」
正座した状態で深々と頭を下げる。
復唱すらまともにできないのに、ひどいことを言われない。
故郷では悪口言われたり叩かれたり、そんなの当たり前だったのに。
「
壮国の言葉は難しい。
ユニでは使わない言葉も多くて、意味がよくわからない。
どうしようと悩んでいると、痺れを切らしたのか、皇帝様があたしの顎を持って、強引に上を向かせた。
すぐ近くで目が合う。
真っ白な仮面、切り込んだ穴から覗く両目。
海みたいに深い青は、綺麗な石みたいだった。
「……貴様、名はなんと申す」
「なは、なん……?」
「名前はなんだと聞いておる」
「ぴ、ピケです」
「ピケ……名字は? 親族でともに使う、もう一つの名前のようなものだ」
「あ、そ、そういうのはないです、ユニには」
「なるほど、歳はいくつだ」
「じゅ、十八です」
そう答えたら、皇帝様の目がほんの少しだけ驚いた気がした。
「俺と三つしか変わらぬとは……まるで赤子のようだな」
なんと、皇帝様は二十一歳だった。
その若さでこんなに逞しくて、大国を率いているなんて。
それに比べてあたしは、自分の力すら発揮できず、見た目は子供と間違えられるほど幼い。
赤子のようだなって、皇帝様の台詞がいろんな意味で的を得ていて、あたしは恥ずかしくて顔を真っ赤にした。
「……悪い意味で言ったのではない」
皇帝様は長い指を、あたしの顎から頬に移動させた。
顔の輪郭を撫でるみたい、くすぐったくて、パラパラ落ちてきた黒髪からは、いい匂いがした。
しばらくすると皇帝様は手を離し、同時にくるりとあたしに背を向けた。
「行け、今宵はこれにて」
あたしはもう一度頭を下げると、ベッドを降りて靴を履き、部屋を出た。
まさか、生きてこの扉を開けるとは思っていなかった。
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