「あ……わ、わかり、ました」

「わかりました、ではなく、かしこまりました、もしくは承知いたしました、だ」

「あ、かし、かしこまるまりました」

「丸まってどうする、本当になにもわかっておらぬな」


 正座した状態で深々と頭を下げる。

 復唱すらまともにできないのに、ひどいことを言われない。

 故郷では悪口言われたり叩かれたり、そんなの当たり前だったのに。


おもてを上げよ」


 壮国の言葉は難しい。

 ユニでは使わない言葉も多くて、意味がよくわからない。

 どうしようと悩んでいると、痺れを切らしたのか、皇帝様があたしの顎を持って、強引に上を向かせた。

 すぐ近くで目が合う。

 真っ白な仮面、切り込んだ穴から覗く両目。

 海みたいに深い青は、綺麗な石みたいだった。


「……貴様、名はなんと申す」

「なは、なん……?」

「名前はなんだと聞いておる」

「ぴ、ピケです」

「ピケ……名字は? 親族でともに使う、もう一つの名前のようなものだ」

「あ、そ、そういうのはないです、ユニには」

「なるほど、歳はいくつだ」

「じゅ、十八です」


 そう答えたら、皇帝様の目がほんの少しだけ驚いた気がした。


「俺と三つしか変わらぬとは……まるで赤子のようだな」


 なんと、皇帝様は二十一歳だった。

 その若さでこんなに逞しくて、大国を率いているなんて。

 それに比べてあたしは、自分の力すら発揮できず、見た目は子供と間違えられるほど幼い。

 赤子のようだなって、皇帝様の台詞がいろんな意味で的を得ていて、あたしは恥ずかしくて顔を真っ赤にした。


「……悪い意味で言ったのではない」


 皇帝様は長い指を、あたしの顎から頬に移動させた。

 顔の輪郭を撫でるみたい、くすぐったくて、パラパラ落ちてきた黒髪からは、いい匂いがした。

 しばらくすると皇帝様は手を離し、同時にくるりとあたしに背を向けた。


「行け、今宵はこれにて」


 あたしはもう一度頭を下げると、ベッドを降りて靴を履き、部屋を出た。

 まさか、生きてこの扉を開けるとは思っていなかった。

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