「醜いであろう」


 皇帝様の言葉にハッとして、目の前の痣を改めて見る。

 健康的な色の肌と、筋肉質な身体に巣食ったそれは、邪悪なようで、神秘的にも感じる。


「醜いとは思いません、だけど痛そうで……大丈夫ですか?」

「……大丈夫ではないゆえ、貴様ら民に声をかけたのだろう」

「そっ、そうですよね、ごめ……申し訳ありませむ」


 確かにその通りだ。

 トンチンカンなことを言ってしまった。


「医者にかかっても、薬をしても治まらぬ、それどころか日に日に悪化してくる始末だ」

「いつからで……」

「もう半年ほどになる」

「痛みは?」

「大したことはない、稀にズキリとするくらいだ」


 皇帝様はそう言うけど、この痣を見る限り、とても痛そうだ。もしかしたら、我慢強い人なのかもしれない。

 そう思いながら、そっと両手を近づける。

 癒しの力は、触れることで発動する。

 目を閉じて、心を集中させて、念じる。

 そうしたら、傷や病を治す光が、手から溢れるんだけど――。


「……どうした、もう終わったのか?」

「あ、いえ、もう少し待ってください」


 やっぱり発動しない。

 都合よく今、力が目覚めるわけもなかった。

 両手が震えて、嫌な汗が出てくる。

 お願いだから、光、出て。

 癒しの力で、この痣を消して。

 必死に心で唱えながら、皇帝様の肌に手のひらを寄せるけど、なにも変化はない。

 このままじゃいけない。

 なにか、上手く切り抜ける方法を考えなきゃ。


「……す、少し今、調子が悪い、みたいで」


 結局あたしの口から出たのは、子供騙しの言い訳。

 今度こそ、首を刎ねられても不思議じゃない。

 こめかみに滲む汗が、つうっと頬を伝った。


「そうか、長旅であったしな、よい、今宵は休め」


 沈黙を破った言葉に、あたしはポカンと口を開けた。


「……え……」

「聞こえなかったか、静養せよと申しておる」


 そう言いながら、はだけた衣装を整える皇帝様。

 生首が床に転がる想像をしていたあたしは、ずいぶん優しい対応に、拍子抜けした。

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