七
「醜いであろう」
皇帝様の言葉にハッとして、目の前の痣を改めて見る。
健康的な色の肌と、筋肉質な身体に巣食ったそれは、邪悪なようで、神秘的にも感じる。
「醜いとは思いません、だけど痛そうで……大丈夫ですか?」
「……大丈夫ではないゆえ、貴様ら民に声をかけたのだろう」
「そっ、そうですよね、ごめ……申し訳ありませむ」
確かにその通りだ。
トンチンカンなことを言ってしまった。
「医者にかかっても、薬をしても治まらぬ、それどころか日に日に悪化してくる始末だ」
「いつからで……」
「もう半年ほどになる」
「痛みは?」
「大したことはない、稀にズキリとするくらいだ」
皇帝様はそう言うけど、この痣を見る限り、とても痛そうだ。もしかしたら、我慢強い人なのかもしれない。
そう思いながら、そっと両手を近づける。
癒しの力は、触れることで発動する。
目を閉じて、心を集中させて、念じる。
そうしたら、傷や病を治す光が、手から溢れるんだけど――。
「……どうした、もう終わったのか?」
「あ、いえ、もう少し待ってください」
やっぱり発動しない。
都合よく今、力が目覚めるわけもなかった。
両手が震えて、嫌な汗が出てくる。
お願いだから、光、出て。
癒しの力で、この痣を消して。
必死に心で唱えながら、皇帝様の肌に手のひらを寄せるけど、なにも変化はない。
このままじゃいけない。
なにか、上手く切り抜ける方法を考えなきゃ。
「……す、少し今、調子が悪い、みたいで」
結局あたしの口から出たのは、子供騙しの言い訳。
今度こそ、首を刎ねられても不思議じゃない。
こめかみに滲む汗が、つうっと頬を伝った。
「そうか、長旅であったしな、よい、今宵は休め」
沈黙を破った言葉に、あたしはポカンと口を開けた。
「……え……」
「聞こえなかったか、静養せよと申しておる」
そう言いながら、はだけた衣装を整える皇帝様。
生首が床に転がる想像をしていたあたしは、ずいぶん優しい対応に、拍子抜けした。
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