六
「……まあよい、勤めさえ果たせれば、問題なかろう」
思ってもみなかった言葉に、あたしはゆっくり顔だけを持ち上げた。
あたしのまん丸くなった瞳に、ベッドの上にいる皇帝様の姿が映る。
「貴様は口なしか、この俺が話しておるのに、返事の一つでもしたらどうだ」
また訪れた不機嫌な声に、もう一度急いで頭を下げる。
「は、はいっ、ごめんなさい」
「ごめんではない、申し訳ありませんだ」
「あ、も、申し訳がり、ありが、ませむ……」
急いで謝ろうとしたら、舌を噛みそうになった。
だけど皇帝様からお叱りの言葉はなかった。
「もういい、さっさと済ませろ」
あきれたような言い方だったけど、拳も剣も飛んでこなかった。
他国に派遣されたユニ族が、口の利き方一つ間違えただけで、首を切られたって話もあるのに。
あたしが身体を起こした時には、皇帝様はもう後ろを向いていた。
「靴を脱げ、寝所に上がる時は当然のこと」
ああ、そっか、靴を履いたままベッドに上がろうとしたから、注意されたんだ。
あたしは急いで靴を脱ぐと、ようやくベッドに上がった。
深い青色の衣装に、真っ黒な長い髪がサラサラと流れてる。
あたしの髪と違って、人間らしいというか、とっても綺麗だと思う。
ユニ族は肌は白いけど、銀髪に赤い瞳だから、悪魔って呼ばれて迫害された歴史もある。
皇帝様は帯を緩めると、青の衣装をはだけさせた。
そして艶やかな黒髪を右肩に寄せると、広い背中が露わになる。
その瞬間、あたしは息を止めた。
皇帝様の左肩から背中にかけて、濁った紫色の痣のようなものが刻まれていた。
驚くようなことじゃないかもしれない。
ユニ族はヒーリストとして、あらゆる怪我や病に対処してる。
だから、他の治療に慣れたユニ族なら、こんな動揺はしないだろう。
だけどあたしは初めてだから、想像よりずっと深刻そうな状況に戸惑ってしまった。
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