五
ドクンと心臓が跳ねる。
どうしようどうしようって、なにもできないうちに、カーテンの隙間から指が見える。
するりと髪を分けるみたいに、手の甲でカーテンが開かれる。
そして、中から現れたのは――。
「どうした、早く勤めを果たせ」
噂通りの見た目に、血の気が引いた。
催促されているのに、足がすくんで動かない。
少し離れた場所からでもわかる、目と鼻を覆い隠す、真っ白な仮面。
あの男は、不気味な仮面を被っている――。
人に見せられない、醜悪な顔つき――。
女子供も殺す、血も涙もない男――。
今まで耳にした噂が、あたしの脳内を駆け巡る。『地獄の砦』の異名を持つ、壮国、三代目皇帝、
「おい、なにをしておる」
また声をかけられ、ハッと我に返る。
気持ちを奮い立たせて、重い足を動かし、皇帝様の元に行く。
皇帝様は、ベッドに片膝を立てた状態で座っていた。
焦茶色のベッドに、白い寝具。
着物のように、斜めに合わせられた衣装には、青い生地に、金の龍の刺繍が入っている。
寝巻きなのかな、すごく豪華だって、なんとか自分の中の恐怖を逸らそうとする。
「上がれ、そこでは治療しにくいであろう」
皇帝様の長い人差し指が、ベッドを示す。
だからあたしは震えながら、そろりとベッドに上がろうとしたけど――。
「貴様、礼儀も知らぬのか」
降ってきた不機嫌な声に、ベッドに乗りかかっていた膝を引っ込める。
するとその拍子に、背中から思いきり倒れてしまった。
ドスンと派手な音がして、痛たたって小さな悲鳴をあげた。
だけどそれも束の間、自分の置かれた状況を思い出すと、急いで起き上がって土下座した。
「ご、ごめんなさいっ、あの、あたし、なにも知らなくて、なにか失礼なことを……」
「口の利き方もなっておらぬな。ユニ族は他国とも交流があるゆえ、礼儀作法に問題はないと聞いておったが」
皇帝様が言う通り、ユニのみんなは他国に行くための礼儀作法を知ってる。
だけどあたしは、全然教えてもらってない。
みんなに嫌われてたから、そういうの、まともにできないままで。
唯一の頼みの綱だったおばあちゃんは、あたしが七つの時に亡くなっちゃったし、だからあたしの知識は、僅かな本から得た一方的な情報だけ。
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