11月24日 日曜日 決意の香り②
楽斗が目を覚ましたのは19時頃。
「おはよう。めっちゃ寝てたわ」
「寝すぎだよ。もう、完全に夜なんだよ」
「まあ、良いじゃないか。それより、腹減ったしラーメン食べに行こうや」
「ラーメンは良いけど、どの店にするんだよ。この時間だからどこも混んでるだろうけど、できるだけ並びたくないよ」
「そりゃ、家系のあそこの店しかないだろ」
ギリギリ歩いて行ける距離にある人気のラーメン屋だ。
「まじかよ、絶対並んでるよ」
「そんなことは気にすんなよ。ほら、早く行くぞ」
急いでアウターを着て家を出る。
「もう寒くなってきたな」
「そうだよ。だから、できるだけ並びたくなかったんだよ」
「でも、ラーメンが美味いから良いだろ」
若干、気乗りしないまま楽斗と2人で歩いていく。数10分歩いた後、ラーメン屋の店の明かりまでたどり着く。
「いらっしゃいませー。こちらのお席へどうぞ」
食券を買ってから席に着く。
店員に注文を伝えて一息つく。
「麺の固さは硬めが1番だと思うんだけどな。軟らかめだとすぐ伸びるし固い方が美味いだろ。」
「そうか?僕は軟らかめが1番おいしいと信じてるよ」
ちなみに、僕の注文が軟らかめ、濃いめ、多め。楽斗が硬め、濃いめ、多めだ。チャーハンと餃子は2人とも頼んでいる。
「それにしても今日は最高の1日だな。朝から酒飲んで寝て飯食って」
「こんな日も楽しいね」
朝に2人で話してからずっと頭の力が抜けている気がする。
「お待たせしました」
料理が届いた。
「いただきます」
「頂きます」
美味い。ニンニク最高。油最高。
「あ、それでさ。スキー場どこにする?」
こいつはいきなり何を言い出すんだろう。
「急にどうした?」
「朝、話してる時に言ってただろ。俺とお前と
完全に記憶に無い。
「その顔は忘れてたな。もう1回言うと12月の中旬辺りにみんなでスキー旅行に行こうって話。お前と衣緒は会ったこと無いけど大丈夫だろ。それにこの時期だと若干、スキー客も少ないだろうから初心者も練習しやすそうだと思う。スキー道具とかはツアー組んでレンタルしよう。って事だ」
「そんな話をしてたのか。ってか、僕はスキーもスノボーもやったこと無いけど大丈夫かな?」
「そこに関しては心配しなくて大丈夫。俺がスノボー滑れて衣緒と松村先輩はスキー滑れるらしいから。お前はどっちできるようになりたい?」
「そりゃスキーだよ」
「まあ、そうだよな。せっかくだし俺も衣緒にスキー教えて貰おうかな。その方がお前も気軽にゲレンデ周れそうだし。」
「ありがとう。そういやツアーってどんな感じなの?」
「いろいろだな。日帰りだったり1泊2日だったり2泊3日だったり。宿泊プランでも朝に出発して昼前に到着のもあれば夕方に出発して夜に到着のもあるよ。その辺は行くスキー場の場所によって決める感じで」
「良いね。楽しみになってきた」
「そうだろ。また、チャットのグループ作るからそこで詳しく決めてこう。そうは言っても2人には聞いていないんだけどな」
まだ、何も決まっていないスキー旅行だけど、話をしているだけでワクワクしてくる。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
2人そろって帰宅する。完全に冷え込んでいる夜の道を。
「せっかくラーメン食べて暖まった身体が一瞬で冷えてめっちゃ寒いよ」
「大丈夫。俺もだから」
何一つも大丈夫では無い。本当に寒すぎる。この道を数10分かけて歩くと考えると億劫になる。
「そういえばさ、楽斗はこの後どうするの?」
「あー、さすがに自分の家に帰るかな。風呂に入って自分の部屋で寝たい。」
「了解」
途中で楽斗と別れて帰宅する。目に入るのは少し荒れたままの僕の部屋。あいつ、あの様子だと片付けの事を完全に忘れてたな。
荒れてると言っても10数分もすれば片付け終わる範囲だったからさっさと片付ける。
そうしていると楽斗からメッセージが送られてくる。
『4人のグループをつくったから参加しといてな』
言われたとおりに参加する。グループの名前は「冬旅行」だった。
『よろしくお願いします』
ひとまずメッセージを送ってシャワーを浴びる。いや、今日は身体が冷えすぎたから湯船に浸かろう。お湯が準備できるまでは我慢しないといけないけど。身体が湯船を欲してしまったから今更、湯船を諦められない。
お湯が沸いた音が聞こえる。急いでスッポンポンになって湯船に直行する。
久しぶりに浴槽にお湯を張ってゆったりと温もる。1人暮らしで毎日お湯に浸かる人ってどのくらいいるんだろうか。毎日、湯船に浸かっている人の事を尊敬する。僕には面倒くさすぎて無理だ。
風呂に浸かりながら考えっていると頭の中がスッキリとしてくる。
明日か明後日。時間がかかったとしてもささっての朝までに松村先輩に告白をする。正直、成功するだろうと分かっている。
楽斗とから聞いた話だと松村先輩も僕に好意を持ってくれているから。
もっと簡単に考えろとか言われたけど難しいよ。1番身近にいた女性は母親だった。その人が当時32歳の父が年を取って顔が悪くなったとか言って家から出て行った。こんな馬鹿みたいな事が幼い頃に本当に起こってしまった。
本当の理由は他にあったんだと思う。両親の気が合わなくなったとか僕を育てる事に疲れたとか。そういう不満が爆発する最後の理由として父の顔があったんだろう。
それでも、母が僕に対して言った事が
「あの人のように汚い顔にならないでね」
だった。
今は自分の顔に自信を持っている。例え、衰えたとしてもこれが父から受け継いだ僕の顔だ。
母の面影が浮かんで嫌な気分になることがあっても受け入れることが出来ている。
だけど、どうしてもこの顔にたかってくる人間は嫌いだ。人と関わるときに見た目が大きな要素になっているのは分かっている。ただ、時間をかけて関わっていているとそういう奴らが顔の良い人間と仲が良いという事をステータスにしているだけだと透けて見えてくる。
松村先輩や楽斗は違う。松村先輩は僕と関わっていても顔について何も言ってこない。楽斗からは多少言う事があっても僕を羨んだり利用する事が無い。
僕の考え方はひねくれている。顔に寄ってきた人間の中にも純粋で悪気の無かった人もいたんだと思う。それでも、僕が信用せずに自分から距離を置いていた。
裏切られるくらいなら1人で過ごしていた方が楽に幸せに暮らしていけると思っていたから。
そんな考えだったのに心を許せる人と関わる暖かさを知ってしまった。
2人の信頼のできる人間がいる。なら、僕も安心してもう少し色んな人に心を開いてみようかな。
風呂から出て火照った身体のまま寝間着に着替えてベットに入る。昼頃にも寝たはずなのに寝ころんだだけで自然と眠くなってくる。そのまま入眠した。
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