11月24日 日曜日 決意の香り①

 『今日、暇か?時間あったら会おうや。』


 朝起きたら楽斗らくとからこんな連絡が入っていた。メッセージの横に書かれている送信時刻は午前4時30分。あいつはなんでこんなに早い時間に連絡してきたんだろう。


 『良いけど何するの?』


 『それが何も決めてないんだよ。なんか朝早く目が覚めて暇だから連絡しただけで。今からお前の家に言っても良いか?』


 『良いよ。着いたらインターホン鳴らして。』


 『OK』


 楽斗が来るまでに軽く片付けるか。昨日の間に洗って乾かしておいた食器類をシンクしたの収納に片付ける。鍋をしまう時に思ったけどなんで僕は鍋を買ったいたんだろう。狭いワンルームのキッチン収納にこれがあると結構、邪魔なんだよな。これのおかげで先輩と鍋を囲めたのは良かったけども。


 10分もすれば片付いた。まだ朝の8時半。休日に動き出すには早すぎる時間だ。


 ピーンポーン。インタホンが鳴った。玄関を開けに行く。もちろんインターフォンは音を鳴らすだけの機能しか無いからドアスコープを覗いて確認することを忘れない。うん、間違いなく楽斗だ。


 「おはよう。」


 「おう、おはよう。お前が起きてて良かったわ。マジで早く目が覚めすぎて暇だったんだよ。あ、これお土産ね。」


 「ありがとう。ってか、早く部屋に入れよ。玄関を開けたまま話すのはさすがに寒すぎる。」


 「それもそうだな。お邪魔します。」


 さっさと暖かい部屋に戻る。


 「それでこんな朝早くから何するんだよ。」


 「それはその袋の中を見れば分かるよ。」


 言われるがままに袋の中を確認するとお酒が大量に入っていた。


 「馬鹿なのか?お前は。」


 「馬鹿じゃないよ。だって、俺たち2人とも20歳過ぎてるんだからさ。」


 「そう言う意味で言ったんじゃ無いよ。時間を見ろよ時間を。まだ、9時を過ぎたばかりなんだよ。こんな朝っぱらから酒を飲む馬鹿がどこに居るんだよ。」


 「ここに居るんだよ。」


 こいつ言い切ったぞ。このどや顔を見ていると無性に腹が立つ。


 「なんでそんなに堂々としてるんだよ。お前は本当に馬鹿だな。」


 「良いじゃないか馬鹿で。俺らは大学生なんだからさ。別に法を犯しているわけでもないし適当に馬鹿なことして遊ぼうや。」


 何故か正しいことのように聞こえてくる。もう、反論するのもめんどくさいから飲もう。


 飲みだして1時間くらい経って完全に酔いが回っている。


 「僕ら本当に朝から酔っぱらってるね。」


 「そうだよ酔ってるよ。1回、お前と酒を飲みながら話してみたかったし、この流れで昨日の事も聞きたかったからな。」


 「、、、、昨日の事って?」


 思わず口に含んでいた酒を吹きそうになる。


 「そりゃお前と松村まつむら先輩の事だよ。昨日、スーパーで一緒に買い物してただろ。」


 綺麗に見つかっていたのか。丁度、楽とも買い物をしていたとかタイミングが良すぎるだろ。


 「お前も買い物してたのか。全く気付かなかったよ。」


 「いや、買い物はしてなかったよ。」

 

 うん?どういうことだ?


 「買い物して無いのにどうやってみったんだ?」


 「俺のバイト先があのスーパーなんだよ。お前と松村先輩が支払いしてたレジの2つ隣のレジに立っててさ。お前ときたら全く俺に気づかなかったよな。まあ、松村先輩と居たからしょうがないけどさ。」


 「本当にわからなかったな。」


 「ちなみに松村先輩は俺に気づいてたと思う。目が合ったし。」


 「何で先輩がお前の事を知ってるんだ?」


 「俺の彼女の衣緒いおが松村先輩と仲が良くて3人で会ったことがあるんだよ。」


 「そうなんだ。それよりお前いつの間に彼女ができたんだよ。」


 「前にサークルの中の良い先輩に松村先輩の事を聞いたって言っただろ。その人と何回か遊んでくうちに自然とな。といっても付き合ったのは最近だけど。そんな感じでお前に言うタイミングも無くてな。」


 「とりあえず、おめでとう。良いなー、幸せそうで。」


 「実際、幸せだな。楽しいよ。そんな事言うならお前も付き合えばいいのに。松村先輩に告白したら成功しそうだけどな。」


 「簡単に言うなよ。最近、先輩との接し方がわからなくなってきたんだよ。」


 「俺から見てたら本当に良い感じだけどな。何をそんなに悩んでるんだ?」


 「怖くなってきたんだよ。この人は大丈夫って思ってこの人からは拒否されないって思えるようになるほど不安になるんだ。」


 「それは、松村先輩に対してだけか?」


 「ううん、誰に対してもだよ。だから、僕は人と仲良くなることが怖いと思ってしまってるんだ。」


 「でも、俺とは割と深く関わってくれてないか?今だって酒の力のおかげかもしれないけど本心を言ってくれてるだろ。」


 「何でかな。楽斗はある意味、僕に無関心だったからかな。ちょっと前からはそうでも無いけど、出会ってすぐの頃は話す頻度が低かったこともあるけど、あんまり僕に興味なかっただろ。楽斗がそういう人だと思ったから楽だったんだ。僕に期待をしない人だと思ったからね。」


 「それは合ってるな。初めはお前の事を面白くないやつだと思ってたからな。何の趣味も無くて話は合わないしお前の方から距離を置かれてるってわかってたから。」


 「やっぱり、バレてたか。」


 「それでも、話していくと思ってたより面白かったし、松村先輩から聞いたお前の姿は良い人間だったんだよ。だから、距離を詰めようと思って関わり続けて仲良くしようと思ったんだよ。」


 「お前は良いやつだな。」


 「いきなり何を言い出すんだよ。」


 「もう、わかんないよ。」


 酔っぱらいすぎて頭が回らなくなってきた。


 「何が言いたかったというとお前は怖がりすぎなんだよ。そりゃ、好きな人に対してだからって気持ちもわかるけどもう少し気楽に考えようや。それでダメだったならもともと無理だったって考えよう。」


 「そんな考えでいいのか?」


 「良いんだよ。人間関係なんて考えすぎる方が難しくなるんだよ。今みたいにちょっとは楽に適当にやってこうや。」

 

 もっと楽に生きても良いのかもしれない。今までは考えすぎていたのかな。頭が少しづつ軽くなっていく。


 まだ、昼にもなって無いのに眠い。でも、昨夜の眠気とは全く違いめちゃくちゃ気分が悪い。胃の辺りの気持ち悪さを我慢していると寝ていた。


 目が覚めると夕方だった。床に転がっている楽斗を横目に水を飲みにキッチンまで行く。僕が酒に弱いからか寝て起きたらアルコールが身体からほとんど抜けていて気持ち悪さも無くなっていた。


 ソファーに座ってテレビを点ける。こんな日があっても良いやと思いながら楽斗が目を覚ますのを待つ。

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