11月16日 土曜日 心急く香り②
カランカランと音を立てながら扉を開け、カフェ店内に入る。店外から見て煌びやかと感じたイメージは変わらず、他のお客さんを見ても皆どこかきらきらとしている。
「
「この雰囲気のお店で料理の量が多いんですか?」
「そうなんだよ。結構めずらしいよね。」
「僕にとっては嬉しいことですね。先輩は何を頼みますか?」
嬉しい理由は料理の量が多いことでは無いけども。
「私はこれをずっと食べてみたくてね。」
そう言って先輩が指さしたメニューは大盛のココア味のパスタの上に生クリームとフルーツが乗った物だった。見るからにハイカロリーで写真越しでもその圧力を感じる。
「じゃあ、僕はこの和風きのこパスタにします。」
このメニューもクリームが乗っていないだけで割とボリュームがある。しばらくして料理が運ばれてきた。先輩が食べきれるのか不安に思いながら食べ始める。美味い。一口食べるごとに食欲が増すような味、香り。このままでは先輩を無視してでも食べてしまいそうだから意識して食べる手を止めて先輩と会話する。
「このパスタめっちゃ美味しいです。先輩の方のパスタはどんな感じなんですか?」
「甘いよ。甘すぎるほどではないけどパスタを食べて初めてこんなに甘いと思ったよ。でも、美味しい。不思議な感じだね。」
「本当に不思議そうですね。先輩をこのお店を前から知ってたんですよね。」
「うん、このココアパスタがSNSでバズってて知ったんだよ。だけど、私の友達は小食で誘いづらくて、1人で来るにも少しハードル高くてね。今日来ることができて本当に嬉しいよ。」
「僕も先輩に誘ってもらえてうれしいです。」
「喜んでもらえて嬉しいよ。君も結構気合い入れてきてくれたようだしね。例えば、いままで見たことの無い新しい服を着ているとこや、初めて君から漂って来る香水の香りとか。」
顔の火照りを感じる。ご飯を食べて身体が温まった訳では無い。僕の心を読まれ、先輩に全部バレていたことに対する恥ずかしさによるものだ。
「まあ、友達と遊びに行くときは僕もオシャレくらいしますよ。」
「ほんとかなぁ。君の顔、少しづつ赤くなってきてるよ。正直に言ってくれた方が私は嬉しいかもね。」
「じゃあ、正直に言いますよ。先輩と遊びに行けることが嬉しくて今日のために服を買い、香水を買いました。先輩との遊びを良いものにしたかったんで。」
僕の話を聞いている先輩はニヤニヤとしている。
「へー、そんなに楽しみにしてくれてたんだ。本当に誘ってよかったよ。」
先輩が笑顔でそんなことを言う。先輩の声の調子がいつもより軽い気がする。先輩の素の部分が見えてきた気がする。先輩にこうして笑ってもらえるのなら、僕が恥ずかしい思いをすることくらいどうでもいいと思える。でも、少しくらいは言い返したい気持ちも湧いてきた。
「今日は先輩だって綺麗な服装してるじゃないですか。普段よりも可愛いですよ。」
「本当に?個人的にこの服をとても気に入っているから嬉しいよ。それに、普段よりもってことは君はいつも私のことを可愛いと思ってるのかな。」
この人はどうして自信満々にこんなこと言えるんだ?自己肯定感の低い僕とは全く別の世界に生きているように感じる。しかし、その自分との違いに忌避感は感じない。むしろ、幸福感を感じる。この人の世界を感じ取れるこの感覚の虜になってしまった。
会話が弾み、楽しい時間が流れる。気づけば自分のパスタを食べ終えていた。水を口に含みながら先輩のパスタを見ると残りはあと数口分だけだった。
「先輩って割と大食いなんですね。正直、先輩は食べきれないかもしれないと思ってました。」
「意外だったかな。高校の時も運動部でその頃からずっと食欲が収まらないんだ。そのせいで今でも運動しないといけないんだよ。」
「大変そうですね。僕は高校の部活を引退してから全く運動しなくなっちゃいました。」
「若いうちから不健康な生活はだめだよ。ただでさえ学生は不規則な生活してるんだから運動くらいはしないといけないよ。」
「まずは、散歩でも初めて見ます。続くかはわかりませんけど。」
「良い心がけだね。初める時はそのくらいの気持ちで良いんだよ。」
先輩がパスタを食べ終えた。
「次は服を買いに行こうか。ここの会計は私が出すよ。」
「僕の分は僕が払いますよ。」
「ここは先輩の顔を立てさせてよ。誘ったのは私で君は後輩なんだからさ。」
しぶしぶ納得して会計をしてもらった。
「今から行くところも私が行きたい服屋さんなんだけど本当に良かったの?」
「そうやって知らないところに行くのが面白いので大丈夫です。」
「わかったよ。君の楽しみを増やすためにも私の買う服を何着か選んで貰おうかな。」
「まじですか。それは結構面白そうですね。」
雑談しながらしばらく歩き続ける。そして、アパレルショップが多くテナントに入っている大型商業施設に入る。
「初めに行きたいお店は決まってるからまずはそこで選んでみてよ。ちなみに、あまり店員さんに話しかけられないお店の雰囲気だから安心してね。君のセンスに期待しているよ。」
こうしてドキドキのショッピングが始まった。
ぬくもりの香り noi @noinonoi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ぬくもりの香りの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます