第26話 『魂』の自我

『ワシ、降臨!』


 あー、正二さん昔はこんなんだったのね。



 つばの付いた帽子にジャケット、色違いのスラックスにネクタイ、そしてステッキを持った壮年の男性がそこに立っている。


 チャップリンかな?


 それともスキャットマン?



 昭和初期のファッションってこんなかんじだったんだー。



 っていうか、ツッコむところはそこじゃない。


 確か、正二さんは人型活動機体に『トランス』していたはずだよね?


 だったら、そこに存在するのはヒト型の機械なはずだよね?


 なのに、なんで実体化しちゃってるの?


 しかも若返った状態で。




『おお、そこに居る若人は我が弟子ではないか』


「正二さん?」



『しかと見ておくのじゃ。これが、自己の存在次元を上昇させてアストラル体にて3次元世界に影響を及ぼすことのできる『アテンド』状態だ!』


「なんか偉そうですけど、正二さん、さっきわたしのお尻撫でましたよね?」



『そんなことはない』


「あれ? もしかしてつながってるのにボケたふりして撫でたんですか? 犯罪ですよ?」



『ばあさんには言わないでくれ』


「やっぱり」



「ところで正二さん?」


『なんじゃい?』



「今、正二さんの意識というか、自我みたいなのはここ月面に在るんですよね? じゃあ、本体? 肉体は老人ホームにいたままなんですか?」


『おお、いいところに気が付いたのう。その通りじゃよ。』



 大賢者さんこと正二さんの、そこからの話は衝撃的だった。


 なんでも、老人ホームで正二さんが使用していたベッド。


 あれは、正二さん専用のVR筐体にもなる特殊な電磁波を発生することができる3モーターの筐体であったこと。


 いわゆるボケた状態の時の正二さんは、なんでも『アテンド』の練習中であり、意識が希薄になった肉体が、いわゆるボケ状態になっていたこと。



 で、正二さんはこれからの『世界連合軍』の日本支部における『新戦力』を育成するためのプロジェクト、『認知症の元軍人再生プロジェクト』の被験者であったこと。




『認知症の元軍人再生プロジェクト』とは。


 なんでも、日本医学会のお偉い方の研究によると、認知症の方で判断能力や意識があいまいになっている状態の方の中の一部に、どうも魂の根源というか、存在の根源みたいなものが肉体の枠をこえて解離しているような波動が測定されたのだとか。


 うん、よくわからん。




 つまり?


 脳の機能障害が原因で、自我や判断能力、短期記憶領域が阻害される認知症。


 その原因は、脳であるとされてきた。


 だが、そこに疑問を感じた研究者がいた。


 人間というものを、人格というものを形作るのは、果たして『脳』だけなのか?


 なにかもっと、『魂』や『心』、『意思』のような、存在の根源たるものがあるのではないのか?


 もし『魂』というものがあるのならば、単に肉体の一部である脳に異常が生じただけで、人格まで変わってしまうのはおかしくないだろうか?


 そんな疑念を持った研究者が、認知症を患った多くの方を対象に調査や測定をしたところ、特にまだらボケの方に関しては、時の方が、時よりも体重が0.003グラムほど増加しているという差異に気が付いた。


 つまり、ボケている時は、0.003グラムの『魂』が体外に流出しているという仮定を立てたのだ。


 そして、長年のなんちゃらかんちゃらな研究の末、肉体から漏れ出た、認知症の方の『魂』に自我を自覚させることに成功。


 そして、その自我は3次元の制約を超え、距離も障害物も一瞬で越えることが可能なことが実証される。


 その自我の強さによっては、3次元界にも直接の影響力(触った感覚など)をもたらすことができるようになるのだとか。


 つまりは、触れる幽霊みたいなものだ。



 で、なんとも自我の強そうな、戦争を経験したご老人の、ボケて肉体から解離した『魂』に戦闘能力を持たせて『世界連合軍』の戦力にしようというプロジェクトが発足したとのことだ。


 で、その最先端の臨床研究が、オレの勤めていた老人ホームで行われていて、もと『4英傑』の正二さんはそのモデルケースであったと。


 なんでも、うちの老人ホームの施設長の正体は、国から派遣されてきた厚労省の役員であり、研究者チームの一人であったらしい。


 そんな有能そうには見えなかったがな。ゲフンゲフン。



 そして、そのプロジェクトの弊害になるのが、実際の『アセンド』を行う前段階、『トランス』を通じての『アセンド』に導く実証実験であり、そのような肉体に負荷のかかりそうな実験は、すでにボケているような高齢者の肉体では不安が大きかった。


 なので、それを実証実験するための試金石として、若い肉体を持ちながら、認知症に理解が深く、『魂』の自我を増強する機器の近くで一日の多くを過ごす人間の存在が求められた。


 それが、オレといろはちゃんであったというわけだ。



 そして、オレ達による人体実験? を終えた今、こうして満を持して正二さんが『アセンド』して戦場に降り立ったという事なのだ。














『司令官! 大賢者様、説明パートが長く意識レベル低下! 睡眠状態に入りました! このままでは魔法行使できません!』






 起きろー。

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