第15話 人事異動

―個人チャットー


〇あさきゆめ『主任ですかっ! いろはですっ!』


〇キット『いろはちゃん、男性キャラなんだねw』




 ここはVRMMO『ブリルリアルの栄枯衰退』内。


 大規模拠点都市、『レフラクタ城塞都市』の居住地区。


 そこにある、オレの家と言うか拠点の場所をいろはちゃんに教えておいた。


 

 そして今はリアルな時間で19:00を回ったところ。


 この時間にゲーム内で待ち合わせし、めでたくフレ登録したというわけだ。




〇あさきゆめ『はいっ! 前のゲーム内でナンパとかうざかったんで!』


〇キット『だからといって、ショタキャラは逆ナンがすごそうなんだが?!』


〇あさきゆめ『そうでもないですよ! たしかに声はかけられますけど、女性キャラの時と違ってしつこくされないので』


 そっか、ゲーム内とはいえナンパ野郎ってホントうざいくらいにしつこいからなー。


 オレもナンパとかしてみたいと思っていた時期がありましたが、リアルでは勇気がありませんでした。


 ゲーム内ナンパなら何とかなるかと思ってもみたが、当時のフレがそれで垢バンされたので自重した。



〇あさきゆめ『それにしても、今日の正二さんのはひどかったですね』


〇キット『ほんとそれな。隕石メテオなんて、もし防げなかったらどうなってたんだか』



 ちなみに、正二さんからの『大賢者の試し』はあの日以降もたまに繰り返されていて、今日はなんと危うく天変地異が起きるとこであった。


 オレといろはちゃん二人の最大魔力で干渉してどうにか霧散させることができたので、多分正二さんはそのへんのギリギリを攻めてきているんだと思う。


 あの人本当に認知症なのかな?


 試しを行う時も、必ずオレかいろはちゃん、または両方がそばにいる時を狙っている感じすらある。


 まあ、もし二人とも居ないときに隕石メテオなんて魔法を暴走させたら北東北一帯がとっくに人の住めない土地になってしまっているだろうからして、意図的に魔法を暴走させているとしか思えなくなってきた。


 だって、たまに居室の監視カメラのモニター見ているオレと目が合うんだぜ。

 

 そんなのボケていない健常者でもできっこないわ。



 だけど、ボケている時の正二さんの言動は全くちんぷんかんぷんだし、失禁もするし誤嚥もする。


 そして要介護5の身体状況もその通りであるし。

 

 まあ、やはり医師の診断どおりの認知症という事なのだろう。




〇キット『そういえば、3日後に厚労省から役人さんがくる話聞いた?』


〇あさきゆめ『はい! 聞きました。施設長と主任が対応するんですよね?』


〇キット『それがな、今日施設長に呼ばれて、いろはちゃんも同席させるように言われたんだけど?』


〇あさきゆめ『えー、初耳ですぅ』


〇キット『何の話なんだろうな?』


〇あさきゆめ『主任も聞いてないんですか?』


〇キット『うん。全く聞いてない』


〇あさきゆめ『謎ですねー』


〇キット『まあ、わからんものは仕方がない。ところでいろはちゃん、ソロきつかったらうちのギルド入る? 多分歓迎してくれるよ?』


〇あさきゆめ『んー、それも魅力的なんですけど、ソロの気楽さもまた捨てがたくてー。もうちょい考えさせてくださいー』


〇キット『りょ』


〇あさきゆめ『あーでも、主任とパーティー組むのはいつでもウェルカムですよー! いつでも誘ってくださいね♡』



 おいおい、DT三十路を勘違いさせるなよ?




〇キット『了解! いつでも素材採取の護衛するよん』


〇あさきゆめ『わーい楽しみですー!』


〇キット『じゃあ、ギルメンのところに戻るねー。でわでわ』


〇あさきゆめ『はーい、またヨロですー!』




 いろはちゃんとは、そんなとりとめのない会話をしてその日は分かれ、その後はいつものギルメンとの狩りに向かう。


 この時はまだ、そんな平和な日々を過ごしていた。



◇ ◇ ◇ ◇


―3日後―


「いや、黒川君。忙しいところ時間を取ってもらって悪かったね。」


「いえいえ、添川先輩もお変わりなく。」



 厚労省から来た役人さんが、うちの施設長と話をしている。


 ちなみに黒川とは施設長の苗字であり、添川先輩と呼ばれているのが厚労省の役人さんだ。


 それにしても施設長、こんな役人さんと知り合いなんだ。


 先輩後輩という事は、同じ大学とかなのかな?


 それにしても、国の役員になっている人と同じ大学に通っていながら、なぜうちの施設長はこんな社会福祉法人の雇われ施設長なんぞやっているのだろう?


 もっといいところに就職できなかったのかな?



「さて、本題に入ろうか。黒川君、そこに居る二人が、例の吉岡君と川島君だね?」


 吉岡というのはオレの苗字で川島というのはいろはちゃんの苗字だ。



「はい、そのとおりです。資料は送った通りです。」


 資料? オレたちの?


 いったい何のために、厚労省の人にそんなものを?



「ああ、説明するね。吉岡主任、川島介護士。」


 施設長がこちらに話しかける。



「突然で悪いが人事異動だ。明日から、君たちは厚労省に出向だ。」



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