「アンタただのお人好しじゃん」
「うおおおおお!!!??」
「テメェら待ちやがれえええええ!!!!」
赤茶色のゴツゴツした岩で出来た地面にどんよりした灰色の雲に覆われた空は気分が滅入ってすっげぇやな感じがする。
しかもなんか前に【クリカラ】を手に入れた時にファイトしたドクロのねーちゃんが使ってたモンスター達に追いかけ回されるし……一度、ソイツらに捕まりかけた事があったんだけどその時俺はコイツに助けられた。
「
鉄パイプを振り回しながら追いかけてきた半裸のおっさんが銀色の髪の剣士の蹴りで吹っ飛ばされてそのまま土煙を上げて近くのでけぇ岩に頭が突き刺さっていた。
……俺に前のファイトでトドメを刺したソイツは、自分を呼び出したアイツの肩をポンと叩いてからまたカードの中に戻って行った。
「無事だな?"
「おう……ここに来てから走っても疲れねぇし問題ねぇよ"
『別にお前を痛めつけたい訳じゃない、俺はお前の持つそのカードが欲しかっただけだ……だが、今はこんな所で争っていてもお互いに理は少ないからな……一時休戦と行こう少年』
……コイツみたいにモンスターを俺も出せたら良かったんだけど、"ギアスディスク"にセットしていたデッキは殆どが消えていて残っているのは【ゴウエン】と【クリカラ】の二枚だけだったからか出せなかった。
俺たちは最初は無言で歩いていたんだけど、それなりに長い時間一緒にいたらなんか親近感みたいなのが湧いてぽつぽつと会話が行われ始めたんだ。
「つまり、何か?俺が貴様を倒してから貴様はスランプになってモンスターがろくに引けなくなったと……」
「それで、何とかしようと修行に来たら色々あってここにいたんだよ」
「色々とは?」
「色々は色々だよ、"
「…………色々あったんだ」
「アンタも詳しくは話さねぇじゃん……」
仲は……良くは無いけども、お互いに明らかな異常に巻き込まれてるからか連帯感みたいなのが出てきて、信頼関係が生まれてきてる気がした。
モンスターを出すのには時間と体力が必要らしくて、肩で息をしているコイツを見ると少し申し訳なくなる。
「……俺見捨てていけばいいのになんで一緒にいてくれんだよ」
「ふぅー…………助けられる奴がいるのに見捨てて行くのは俺が嫌だ。別に助けたい訳じゃない。俺が嫌だから、お前を助けてるだけだ"
「なんだよそれ、つまりアンタただのお人好しじゃん……なんで闇のサモナーなんてやってんだよ」
「力がなければ……奪われるままだ。だから、強くなる為に俺は……
力がなければ奪われるまま……嫌な言葉だけどその言葉には説得力があった。
俯いたまま歩く俺を慰めるみたいに『これは俺の考えだからお前は気にしなくていい』って言葉を言ってくるけど……なんて言うか、やっぱりコイツは良い奴なんだなって思えてきた。
「でも、奪われるって何を『■■■■■■■■■■■!!!!!!!』な、なんだ!!?」
耳の奥で粘つくような、気持ちの悪い鳴き声だった。それが聞こえたと同時に何かが腐ったような臭いと鉄が錆びた臭いの混ざった悪臭が辺りを漂い始める。
生暖かい暴風が俺たちに浴びせ掛けられて、俺は空を見上げた。
腐り落ちた肉をぼとりぼとりと垂らし、所々骨が露出しているゾンビみたいな巨大な鳥……白く濁った目が俺たちを見下ろしていて背筋にでっかい氷柱が入ったみたいに寒気が止まらなかった。
「ば、化け物……!?」
「くそ……
【
突き刺さっていた細い剣が内側から盛り上がった肉に押し出されるように取り除かれる。
そして、撒き散らされていたガスが一箇所に集まったかと思うと男の人が中から姿を見せた……どことなく、
「……"
「まさか……父さん?」
呆然と呟く
「お前がここにいるという事は……死んだ、わけではなさそうだが……いやしかし」
「死んだって……ここは一体なんなんだ父さん」
「ここは……【ドレッドギアス】のモンスター達の世界にある冥府だ。
めいふ……?なんか良く分からねぇけど、【ドレッドギアス】のモンスター達の世界って奴の意味は分かる……分かるけど、マジかよ。
「それって、俺ら元の世界に帰れるのか!?」
「……"
「彼は"
「"
おっさんが俺の顔をマジマジと見てくるのがなんか落ち着かなくて『な、なんだよ』と睨み返したら鼻で笑われた……すっげぇムカつく。
「アイツに比べたらまだ可愛いな……それに、この子は魂だけ来てるようだが、お前は肉体がそのまま来ているみたいだ"
「……あの女の手で変な穴に落とされたからな」
「多分"あまてる"さんの事だろうな……そこのキミ、"
「"
「てるみ……今はそう名乗っているのか。キミの方は別件だから、彼に相手をしてもらおうか」
そう言っておっさんが腕を振るうと古臭い鏡が俺の目の前に現れる……映し出されたのは真っ黒な影。
その影が鏡の中からゆっくりと這い出ると、黒ずんだ武者鎧に真っ黒な大剣を背負った【ゴウエン】の姿となった。
「ククク……やっと出て来れたぜ"
「【ゴウエン】……なのか?」
ニヤニヤと笑う【ゴウエン】は大剣を抜いたかと思うと俺の目の前に突きつけてくる。いきなり、凶器を見せられて驚いた俺は尻もちを着いてしまった。
「【ゴウエン】……何を」
「何を?決まってんだろう
大剣の刃じゃなくて横の部分で俺は思いっきり殴りつけられた。何回も地面をバウンドする体、鼻から垂れる熱い液体、衝撃に揺さぶられる頭……全てが痛かった。
地面に転がったまま動けない俺の体に【ゴウエン】のつま先が突き刺さった。変な色の液体が口から出て、酸素も一緒に蹴り出されたみたいで呼吸が止まる。呼吸を整えようとしてむせて咳が止まらない……とても苦しかった。
何度も何度も蹴り転がされてから、髪を掴まれて持ち上げられる頃には指一本動かせないくらいに俺はズタボロになっていた。
「なぁ、苦しいか?痛いよな"
「こわく……なんか…ない」
「怖いって言えよ!!!なぁ、"
傷つけられてるのは俺なのに……俺よりも痛そうに顔を歪めてる【ゴウエン】は泣きそうにも見えた。
「だって……こわがってたら…だめ、だから」
「誰がダメって言った?!あのクソトカゲか!!ずっと一緒にいた俺らよりもアレの言葉に従うのかお前は!!!」
「こわがりな、じぶんを……かえたいって、おれも……おもったんだよ」
「怖がりで何が悪い!?俺らはなぁ……結局はカードに縛られてるモンスターだ。召喚者の命令には逆らえねぇし、自爆しろとか言われたら喜んでやってやるさ!でもよぉ、自分達の召喚者が危ねぇプレイしてそれで毎回死にそうになるまで痛めつけられてるのを見るのは嫌なんだよ!!」
髪を掴んでいた手を離されると、俺の体は重力に従って地面へと落ちる。でも、痛みは無かった。背後から誰かが俺を抱き締めてゆっくりと降ろしてくれたからだ。
「
「もう……ごめんね召喚者くん。コイツ、一応手加減してたけど痛かったよね」
寝かせられた俺を泣き出しそうな顔で見下ろす【ゴウエン】。その横にはカードイラストそっくりな【ヒモリ】が座っていて俺に向かって暖かい光を当ててきた。
ぬるま湯に使ってるみたいなポカポカした気持ちよさが全身広がっていって痛みとかがどんどん消えていった。
完全に怪我が治った俺は体を起こして、俯いたままの【ゴウエン】の方を見る。
「俺、さ……やっぱり怖がりな自分変えたいんだ」
「……俺があんだけ言ってたのにまだそれ言うのかよ"
「でもさ……もうちょっと、無茶は控えるよ。後、みんなに嫌な思いさせてたのはごめん……」
「………………」
「……まだ、怒ってるよな」
それへの返事は深い深いため息だった。
「人の言葉に素直なのはお前の良いところだと思うけどよ……これからはもうちょいちゃんと考えろよ、お前」
「うん」
「勉強もちゃんと頑張れよ、風邪引いて母ちゃん心配させないように布団はちゃんと掛けろ」
「う、うん?」
「後な、色んな女の子に優しくするのは良いがちゃんと本命決めろよ俺みたいに……な、【ヒモリ】!」
「じゃあ、帰るから後よろしくね【ゴウエン】」
直ぐに姿を消した【ヒモリ】に向かって伸ばした手が哀愁漂う【ゴウエン】
へっと鼻を鳴らして『全く、照れ屋さんだぜ』って言ってるけど絶対脈ナシだろアレ。
「っていうか本命とかなんか違うだろ!!話ズレてねぇか!?」
「いーや!そんな事はないね、兄貴分としてはお前が心配で心配で仕方ないんだよ!分かるか!?」
「分かんねぇよバカ!!」
「バカって言いやがったなこの野郎!!」
取っ組み合いになるかと思ったけど、それを止めるように
「こっちは終わったが、お前達はまだのようだな」
「終わったって……そっちは何してたんだよ"
「……コイツの継承だな」
そう言って
「それって……俺の【クリカラ】と同じ奴だ!!」
「組織の情報とは違うカードだが……コイツでも問題は無いだろう」
そして疲れきった表情の
「強くなったな、"
「アイツ……
けれども、
「"
「ゆぎと……ユギトってあの"ユギト"のおっちゃんの事か!?なぁ、"
俺が
それだけじゃない、空もなんだが揺れているような感じがしてすごく嫌な予感がする。
「生者を排除しようとしているのか……?時間が無い、"
「父さんはどうなる……?」
「俺は……もう死んでいる。そちらには行けない。だが、大きくなったお前に会えたのは嬉しいぞ"
体の裏側が引っ張られるみたいな感覚が走る。
そのまま俺の意識は来た時と同じように真っ暗闇に飲み込まれた。
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