「閉じ込められたようですね」
「…………暇ですね」
昨日のアレやソレがあったからか、宿泊しているホテルに着いた途端に部屋に押し込められてしまいました。
まあ、二日酔いのような状態でしたのでこれ幸いとそのまま服を脱ぐのも忘れてベッドに飛び込んだのが昨日の最後の記憶。
目覚めてから、軽くシャワーを浴びてさて朝ごはんでも食べに行こうかと部屋の扉を開けた瞬間になだれ込んできたのは
『今日は一日療養をしてほしいっす』
『買いに行きたい物が……』
『ならば私が行きましょう!昨日の汚名を返上する機会を!!これが買い物リストですね?数が多いな……
『……はい』
『というわけで、大司教サマは行かなくて良くなったデシ。お父サマに昨日話したら飲まされた薬の影響がまだあるかもしれないって言われたデシ。だから付きっきりでいるデシ』
朝ごはんはレイカ嬢が特別にテイクアウトしてきた物をいただきました。ハムサンド、美味しかったです。
しかし、これでは軟禁状態と変わりませんね……タクミくんはスマホを弄ってたかと思うと超小型ドローンを窓から外に飛ばしていましたし。
レイカ嬢の方は何とか言いくるめて、休暇という事で念願だった鈴鹿サーキットという場所に向けて爆走して行きましたが……流石にブレーン担当のタクミくんは言いくるめられませんでした。
「暇って言われても……大司教サマに無理はして欲しくないデシからなぁ……どこ行こうとしてデシ」
「えーっと……少しお手洗いに」
「部屋にあるデシ、靴履いて明らかに外出する気満々デシ」
……バレましたね。しかしこのまま缶詰で京都出張終わりというのも味気ないですし、タクミくんを私に付き合わせるのも申し訳ないです。
「"タクミ"くん、よく考えてみて下さい。このまま私の見張りで一日を過ごすにしても昼食や生活に必要な時間で目を離すタイミングが有ります……この隙に私が抜け出せば、貴方が怒られるのは必定でしょう?」
「ボクサマが怒られるのが分かってて大司教サマが抜け出す筈無いデシ」
「いやまあ、そうですけどね?私が言いたいのは……ここで引きこもるよりも、私がまた無茶をしないように見張りながら京都観光に出るのはどうでしょうか?」
「…………むむむ」
手応え有りですね……押し切りましょう。
「"タクミ"くん、一緒にお出かけしましょう。私と行くのは嫌ですか?」
ニッコリと微笑んで手を差し出せば、少し悩んでからタクミくんは私の手を取ってくれました。
「……無理しそうになったら直ぐにオニサマとか呼ぶデシ。大司教サマは絶対、ぜーったい、無理したらダメデシからな!!」
いそいそと着替えようとして……ふと手に持ったデッキがじんわりと暖かい事に気づいたので大司教としてのロングコートを脱いで、認識阻害メガネ+カソック姿with白手袋となります。ロングコートは……手提げカバンの中に突っ込んでおきましょう。ついでに仮面も突っ込みます。
タクミくんの方は仮面を外してから、キョロキョロと落ち着かないように視線を動かしています。
「やっぱり、まだ
「…………うん」
これでもマシにはなってきましたが、対人恐怖症である彼は面と向かって人と話したりするのが苦手です。
……正直、この姿を見ると外出を取り止めたくなりますが
どうしたものかと室内を眺めれば、お土産にどうぞと言わんばかりに置かれている狐のお面に気が付きます。
「コレならどうです?」
「…………!!しっくり来たデシ!!ボクサマふっかぁつ!!」
解決しました。
元気いっぱいな姿を見せてくれてるタクミくんが微笑ましくてニコニコしちゃいます。
ホテルのラウンジで軽く食事を取り、外へ出ました。
セミすら鳴かない真夏日、カンカン照りの太陽が憎くて少し睨んでしまいます。
公共交通機関を駆使して到着したのは山の麓。そこら中に小さな提灯や垂れ幕が下がっていて、それらに狐のイラストや意匠が描かれています。
「伏見稲荷……初めて来ました」
「人いっぱいデシなー」
タクミくんの言葉に頷いて肯定します……すごい人の数です、どこからこんなに湧いてきているのですかね?
観光客丸出しでキョロキョロと辺りを見渡しながら歩いていると大きな鳥居を見つけます……多分、伏見稲荷大社の参道はこちらなのでしょう。
一歩、足を踏み入れた瞬間耳元でリンと鈴の音が響いた気がします。
そして……私とタクミくん以外の人の姿が消えました。
「どこ行ったデシ……!?」
「これはこれは……なるほど」
妙な事になってきましたね。デッキが暖かくなったのはこれの前触れでしょうか……
辺りの景色も日が落ちかけていた時間帯だった先程から、今は煌々と満月の輝く真夜中に変わっています。
懐のデッキに触れればやっぱりほのかに熱を放っていて、何となく山の方に行きたがっているような気がします。
「……ダメデシ、スマホ圏外でし」
「異界……いや、結界の内側とでも言う感じですかね?」
大鳥居の外へと手を出せば、水風船のような手応えと共に弾かれてしまいました。
外へは出られなさそうですね……困りましたね。
「閉じ込められたようですね」
「落ち着いてる場合じゃないデシよ大司教サマ!……まさか
「違うでしょう、彼らならこういう罠を掛けた直後に物量で私たちを潰しに来ます。即座に来ないから違う人たちでしょうね」
「……何回も襲撃食らってるから手口覚えちゃったデシ?」
「ある意味、彼らの最大の理解者になってしまいましたよ」
『アハハ』と笑ってみせるも、内心は焦りが大きいです。
相手が何者かすら予想がつかないのでかなり困っています……私たちをピンポイントで狙ったとしたら目的は何なのでしょうか?
そもそもどうやって認識阻害を掛けている私たちを識別したのかと考えてから、サブケースの方に入れている
焦りが落ち着き、頭が冴えるような感覚が広がります……
「取り敢えず、移動しましょうか。ここにいてもその内狙われるかもしれません……そうだ、ついでに着替えましょうか」
手提げ鞄から大司教としてのロングコートを取り出して羽織り、メガネを外して仮面を被ります。
……念の為にと持ってきておいたタクミくんの分のマントと仮面も渡してあげます。
外は真夏日でしたが、結界の中は逆に涼しく寧ろ寒いくらいでした。
「移動するのは分かったデシが……どこに行くデシ?」
「それは勿論……足の赴くままに、ですかね」
石畳で舗装された参道を私たちは歩いていきます。
ぼんやりと赤く光る提灯が幻想的で、伏見稲荷という場所である事も加味したとしても非現実的な空間にいるという感覚が強いです。
しかしどこまで歩いても人の気配は全くありません。何本もの鳥居が並ぶ道を歩いている間も誰ともすれ違ったりはしませんでした。
「しかし、本当にこの鳥居は千本もあるのですかね"タクミ"くん……"タクミ"くん?」
いつの間にか横で一緒に歩いていた筈のタクミくんの姿が見えません。
置いてきたかと思って振り返ろうとしたら何かが後ろから私の首を固定してきます。
『召喚者、振り返るな。持っていかれるぞ』
「……【ルシフェリオン】?何故実体化しているのですか、というか私に触れている……??」
『ここはあの狐を封じる為の領域だからな……教会よりも"サモンエナジー"が濃い。故に私はより完全に現れることが出来たのだ!!』
背後にいるからか見えませんが声色からしてきっとドヤ顔している事間違い無しです……仮面で表情は見えませんが。
「それで"タクミ"くんはどこに?後、狐とは誰なのですか?」
『あの蛇使い少年は資格が無いからな……狐は狐だ。尾が九本も有るのに枕に貸してくれんケチな奴だ』
資格というのも気になりますが、尾が九本というキーワードが突き刺さります。
──九つの尾振るう金毛魔獣。
聖典に乗っていた悪魔も九本の尾があるらしいですし……その次の『時操る百肢の鉄鋼絡繰』がそのままソコロワ嬢の使っていた【モンザエモン】を表しているとしか思えません。
という事は……
「反逆の六英雄の一枚がここにあると……そういう事ですね?そういう事ですね!だから暖かくなって教えてくれたのですね!ふふふ……その子からはどんな
『いや別に私はそんな事してないが…………まあいいか。って待て召喚者!一人で行くな、私を置いていくんじゃあない!!』
嬉しくなって小走りになる私を【ルシフェリオン】が浮遊しながら着いてきます。何か言ってましたが距離が離れていたので聞こえませんでしたし、気分の上がっている私には聞き直すつもりはありません。
分かれ道も無いひたすら真っ直ぐ続く参道に立つ無数の鳥居の中をくぐり続ける私たち。
……どれだけ歩き続けたのでしょうか?不思議とずっと歩き続けたにしては足に不調はありませんし体力も十分残っています。
それでも、ようやく辿り着いたと思った瞬間には気疲れによるため息が漏れてしまいます。
恐らくは山頂、そこにポツンと建っている古びた社には幾つもの御札が貼られていて、明らかに危ない気が放たれています。
いつの間にか【ルシフェリオン】は戻っていたようでこの場には私一人だけが立っています。
「ふふふ……さあ、ご対面と行きましょうか」
社へと触れようとしたら静電気のような痛みと衝撃が走り、私の手は激しく弾かれました。
煙が上がる右掌。手袋を取れば痛々しい火傷のような傷痕が残されています。ピリピリした痛みが動かす度に苛んで来ますが……この程度の痛みで私のこの感情は止められません。
再度手を伸ばそうとした私に制止の声が投げつけられます。
「待ちや!アンタここは部外者立ち入り禁止や!とっとと帰れや、ぶぶ漬け投げつけてやんで!?」
「…………おや、管理者の方ですか。こんにちは、いえこんばんはの方が良いでしょうか?」
良いところを止められた事による苛立ちを抑え、仮面越しに笑顔を浮かべながら振り返ればどこかで見たような女性が私の前に立っていました。
にこやかに話し掛ける私とは対照的に険しい顔で睨みつけてくる女性は未だに煙の上がる私の右手を見てさらに眉間のシワを深めます。
「アンタ……その社に触れようとしたんやな?ソイツは誰にも触れさせへんように念入りに結界仕込んでんねん。おっちゃん……いや、兄ちゃんか?兎に角、アンタみたいなけったいな奴が触れたらアカン奴や。今なら、元ん所に帰したるからこっち
「アハハハ……嫌に決まってるじゃないですか。だって、ここに私が欲しいカードがあるのは分かっているのですよ?だったら!!」
再度、右手を社に向けます。鋭い静止が聞こえますが知りません。
肉が焦げる音と共に先程の比ではない痛みが走ります。それでも、少しづつ社に手が近づいている事に喜びを隠せず噛み殺しきれない悲鳴と混ざった笑い声が漏れ出ます。
「ヒッ、ギィ……ハハ、ヒィアハハハハ!!!」
「アカン!!」
走ってくるような足音が耳に入りますが、もう遅い。
少し黒ずんだ指先が社の御札の一つを引っ掻き、千切りました。
私の背中側の服が彼女に掴まれて引っ張られるのと同じタイミングで社が爆発的な発光と共に消し飛びます。
とても濃い緑色の光に包まれたカードが社があった所に浮かんでいました。
私はと言うと、女性の手で引っ張られたタイミングが悪かったのでそのまま後ろに向かって何回転も転がってしまいます。もちろん、女性を巻き込んで。
「……人の服を引っ張るなんて、無作法ですよ」
「人の止める言葉聞かへん奴のがよっぽど育ちが悪いわド阿呆!!……出て来おったか【タマモノマエ】」
浮いているカードが纏っていた光が狐のような形に変わります。そして鈴の音を転がすような、どこか甘い女性の声が響きます。
『何時ぶりじゃろうなぁ、妾を外に出す者が現れるとは……おお、"あまてる"久しいのう』
「『久しいのう』ちゃうわ、やーっと人が封じたんをのんびりまた出て来おってからに……再封印させてもらうからな」
『い・や・じゃ!どれだけ長い間妾が暇を持て余しておったと思っておる!もうあんな所に一人ぼっちは嫌じゃ!楽しくない!!』
「楽しくないのは嫌ですよねぇ……どうでしょうか、貴方を解放したのは私ですので私と共に『男は嫌じゃ。特に貴様のような、なよなよとしたのはのう……鍛えてから出直すが良い、再度会う機会は与えんがのう』……初対面でここまで嫌われる事ありますか普通」
取り付く島もなく、フラれてしまいました……相性が悪いとはこういう事でしょうか?
ショックで今までの高揚が掻き消えて激しい痛みが右手を襲います……皮がズル剥けでとてつもなくグロテスクになっていたので、一番重症な掌をハンカチで包んでから白い手袋をはめ直す事で空気に触れる事による痛みはマシになりましたが……また怒られるでしょうねぇ。
『はぁ、どこかにおらんかのう……妾好みの純粋無垢な愛らしいおなごは……』
「こんな所にいるわけないやろ!アンタが出て来るかもしれんのにそんな子「あー!やっと見つけたっぺ〜
嬉しそうな顔で手をブンブンと振っている
凄まじい速度で浮いていたカードが
あっという間の出来事です。あまりの速さに誰も反応出来ませんでした。
緑色の光の柱が立ち昇ったかと思うと、
『「ここまで相性が良いとは……クククッそこの胡散臭い男よ。撤回だ、褒めてやろう。良いタイミングで妾を解放してくれた」』
【タマモノマエ】が腕を振るうとその腕に桜模様と緑色の葉のコントラストが美しい"ギアスディスク"が装着されます。
『「クククッ褒美として妾のしもべにしてくれよう……!!」』
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