「買い取りたいのですが」
次の日もヒャッカ少年は落ち込んでいました。
なんでも、ドローしてもモンスターが全然手札に来ないという事らしいです。
試しに引いてもらっても【ゴウエン】を除いて残りの手札はスペルカードのみ、しかもそこから何枚かドローしてもモンスターが全くといっていいほどに来ません。
今のヒャッカ少年のデッキはモンスター31にスペル19で確率的にはモンスターの方が来やすい筈ですが……これは異常事態ですね。そんな状態なのでもちろん連戦連敗……
「はぁぁぁぁぁ……」
地の底を這うような、小学生らしからぬ溜め息がヒャッカ少年から漏れています。
そんな彼の重っ苦しい空気にとうとう嫌気が差したのかミト嬢が吠えました。
「もー!!いつまでもウジウジうっとおしい!!」
「ぴゃあ!?びっくりしたっぺ〜」
「うるさっ!?なんなんだよ"
「『なんなんだよ』じゃないわよ!!こっちが言いたいわ!!一回負けたからってなによ!そのカード手に入れるまで何回もアタシに負けてたじゃない!それでも毎日飽きもせずファイトしに来てたあの"
「でも無理なんだよ……なんつうか、出口の見えないトンネルに入った感じでさ。モンスターも引けねーし、どうしたらいいか分かんねーんだよ」
「なら、修行はどうだい?少年少女達よ!!」
うわ、出ましたアポロさんです。
最近は職務を全うしていた為、こちらにあまり話し掛けて来なかった店長のアポロさんが隙を見て話し掛けてきます。
「修行とは……誰か強い人の算段でもついているのですか?」
「オフコースさ"ユギト"くん。実はね、私の親戚が結構"ドレッドギアス"が強くてね、今度その親戚の所へ行く用事があるから一緒に来てみないかい?」
「行く!!!!」
アポロさんの言葉に飛びついたのはヒャッカ少年です。先程までの塞ぎようは何だったのかという程に目が輝いています。
「オゥケイ!!じゃあ、行くぜ京都!!」
「それ、アタシも行きたい!!」
「京都行きたいっぺ〜!!」
古き良き日本の古都の名前が出た瞬間、ミト嬢とマイバラ嬢も名乗りを上げましたね。
しかし京都……この時期に京都ですか。教団の
「キミはどうする?」
「私は仕事があるので……残念です」
その後は家族に相談すると小学生達はパタパタと走って行きましたね。
私とアポロさんはしばらく無言でいましたが、遂に向こうから話しかけてきました。
「こうして膝を突き合わせて話すのも久しぶりだねー」
「ええ、お忙しそうでしたからね"アポロ"さん」
「HAHAHA、この前のショップ大会が良い宣伝になってね!売上がうなぎ登りさ!」
「それは素晴らしい……良かったですね」
ニコリと微笑んでみせれば彼も笑い、傍から見れば朗らかな空気が漂っています。
しかし、当人間でしか分かりませんが張り詰めた緊張の糸がピンと伸びきっていて、背筋に汗が流れるのを感じます。
「ま、ジャブはこの位にしよう。本題はこちらさ」
そう言ってアポロさんがテーブルの上に2枚のカードを出して見せましたがこれは……
「【
「本当かい?私はキミ程の知識の持ち主なら知ってる物と思ったんだけどね」
「この子達は見た事が無いですね……もし良ければ買い取りたいのですが」
「コレクター的には手に入れたいよねぇ……良いよ。キミになら代金不要で差し上げよう」
代金不要という言葉に身構えます。世の中そういう美味しそうな話の裏にはとんでもない罠が潜んでいる物です。
「……代わりに何を望むのですか?」
「ちょっとした賭けファイトかな。大丈夫大丈夫、大したことは無いよ」
「まさかファイトに勝てなければカードを渡さないとかは無いですよね?」
「もちろんだとも!このカード達はキミにファイトのテーブルに着いてもらう為のチップさ。ほら、あげよう」
テーブルの上を滑り、二枚のカードが私の前で止まりました。
モチーフは間違いなく七つの大罪……私が今扱っている天使たちと対極の存在ですが……奇妙なまでに私はこの子達を欲しています。
ジッとカードを見つめていた私は観念したように溜め息を吐きました。
「分かりました、受けましょう。賭けファイトを」
「そう来なくっちゃね!テーブルファイトでいいよね?」
手早く準備を整えていく彼を横目に、二枚の
「賭けの内容はどうしますか?」
「そうだねぇ……私が勝てば、キミに一つお願い事をする権利を貰おうかな?私が負けたら……
「………………」
「キミ、案外分かりやすいよね?困ると直ぐに黙っちゃう所とかさ」
「貴方は……何者なのですか?」
震えそうな声を何とか平静に見えるように取り繕いますが、相手にはどうやら私の動揺がお見通しのようです。
にんまりと笑った彼は常と変わらない声で答えます。
「"ミラージュ"の名物店長"
いつものように
「"ユギト"くん、ここには今子供達はいないよ……本気でおいでよ」
「アハハ……敵わないですね、本当に」
ご希望通りに本来のデッキ──
互いに"ギアスモンスター"をセットします……私はもちろん【ルシフェリオン】ですがアポロさんの置いたカードのイラストには何も描かれていませんでした。
「エラーカードですか?」
「そうだよーこのカード一枚しか持ってないからね、ディスクに読み取らせようとしてもエラー吐いちゃってファイト出来ないんだよねぇー」
『HAHAHA』と笑う彼ですが"ドレッドギアス"のカードでエラーカードなんて聞いた事有りません……何かが有る筈です。
ユギト【白き使徒】
VS
天神アポロ【約束された終末】
ファイトは静かに始まりました、先行はアポロさんです。
「さてっと、私のターンだ。ドローして……よし【星見の前触れ】をサモンだ」
アポロ 第一ターン
ライフ:10
手札:6 ターンカウンター:1
【星見の前触れ】
白 コスト:1 人・予言者
A:1 B:1
このカードがサモンされた時に自分か相手のデッキの上から五枚を自分は確認する事が出来る。
大きな杖を持った女性のカードか置かれました……デッキピーピング、直接的なアドにはなりませんが中々通好みのカードですね。
「私は自分のトップ五枚を確認しよう……ふむふむ、なるほどね。じゃあ、ターン終了だ」
「私のターンです、ドローは行わずにカウンターブースト」
ユギト 第一ターン
ライフ:10
手札:5 ターンカウンター:2
「【敬虔な信徒】を二体サモンし、アーティファクト【大聖堂】を出します。これでターン終了です」
「うんうん、堅実な動きだね安定は大事さ。私のターン、ドロー」
相手の出方を伺う為の布陣です。相手は白を使うデッキですから長期戦と見て行きましょう。
アポロ 第二ターン
ライフ:10
手札:6 ターンカウンター:2
「【名も亡き太陽神】を
「っ!随分とお早いことで……」
「みんなさ、"ギアスモンスター"を切り札の為に使うけどね。私は思うんだよ、どうしても早期に使いたいカードを選ぶ方が得だってね」
【名も亡き太陽神】
白・赤 コスト:2 神
A:0 B:1
このモンスターは攻撃の対象にならず、相手はカード効果でこのモンスターを選べない。
一ターンに一度、数字を選ぶ。相手のデッキの一番上のカードを互いに確認してそのコストが選ばれた数字と同じならば、確認されたカードを破棄して自分はデッキから同じコストのカードを一枚選んで手札に加える事が出来る。違った場合は確認されたカードをデッキの一番上に戻す。
システムモンスター……しかも実質的デメリット無しです。処理も全体対象でないといけませんから……面倒ですね本当に。
「さあ、効果を発動するよ。"ユギト"くんのデッキの一番上は……『予言しよう、コスト4の【
「効果テキストを見る限り、カードの名前を当てる必要は無いと思いますが……?」
「HAHAHA、ちょっとした余興さ。賭けファイトしてるんだ。楽しまなくっちゃあね」
恐る恐る引いたデッキトップは案の定【
「大当たりー!じゃあその子を墓地へ破棄してー私はコスト4の【白夜創成】を手札に加えよう!」
「やなカードを加えましたね……」
「ふっふっふー、これでターン終了だよ。さあ、来なよ」
「………私のターン、ドローせずにカウンターブースト」
ユギト 第二ターン
ライフ:10
手札:2 ターンカウンター:4
やりづらいです……彼のキャラクター性もあるのでしょうが凄まじくやりづらいですね。
手の内が完全にバレていると見て良いでしょう……わざわざ【星見の前触れ】で私のデッキではなく自分のデッキを確認している辺りが性格の悪さを感じます。
「私は【
ユギト ライフ:10→12
「【ルシフェル】……神を僭称するモンスター、いいね不遜で」
「……続けますよ、【ザドキエル】を場に出して効果を発動します。墓地の【レミュリエス】を手札に加えます」
「ぐるんぐるん回してるねー、せっかく落としたのに回収されたのは面倒だ……だ・か・ら♡」
背筋を寒気が走ります。
ニタリと笑ったアポロさんが一枚のスペルを切ります。
「ここでスペルカード【
【
白 コスト:2 スペル・予言
相手の手札をランダムで一枚選択する。選択したカードの名称を宣言し、当てれば自分の手札に加える。外れた場合、自分のライフは半分(切り上げ)支払う。
残り手札が一枚で発動されるのは約束された予言のカード。しかも奪われる札は白メタの【レミュリエス】!
頬が引き攣るのを感じます。
「HAHAHA、ほら笑いなよいつものようにさ」
そう言う彼の視線はまるで私の心の底を見抜いているかのような鋭さを帯びていました。
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