第3話

 綾音が作ってくれた? と思われる朝食を綾音と一緒に食べ終わった。

 美味しかった。……今までに食べた物の中で一番美味しかったと言っても過言では無いほどに美味しかった。

 ……遥人は毎日こんな美味しいものを食べていたのか? ……それこそ、あのベッドのことも含めて、王族よりもいい暮らしをしてるんじゃないのか?


「お兄ちゃん、そんなに美味しかった?」


 驚いたような顔をして、綾音がそう聞いてきた。


「え?」


「あっ……違った? お兄ちゃん、凄く幸せそうな顔をしてた気がしてたから、そうなのかなって思ったんだけど……そう、だよね」


 何故か綾音は悲しそうな顔をして、少し俯きながらそう言ってきた。

 ……俺の知らない記憶が関係してるのか?


「めちゃくちゃ美味しかったよ!」


「え?」


 俺の言葉を聞いた綾音はまるでさっきの俺と立場が入れ替わったかのような困惑した声を上げていた。


「綾音は料理の天才だよ。料理人でも目指すのか?」


「そ、そんな訳ないでしょ! ……ま、まぁ、でも、からかってる訳じゃないっていうのはお兄ちゃんの今の表情から伝わってくるから、そ、その、あ、ありがとう、お兄ちゃん」


 顔を赤らめながら、綾音は嬉しそうにお礼を言ってきた。

 ……普通のことを言っただけだし、お礼をいうのはどう考えてもこんな美味いものを食べさせてもらった俺の方だろう。


「いや、俺の方こそこんな美味しいものを食べさせてくれてありがとう。本当に美味しいよ」


「う、うん。……ほんと、お兄ちゃん、どうしちゃったの?」


「……変、か?」


 もしも変だと言うのなら、直さないとダメだと思い、俺はそう聞いた。


「ううん! 全然変じゃないよ! 今のお兄ちゃんの方が私は、好きだよ!」


「そ、そうか?」


 なら、良かった。

 ……いや、本当に良いのか? 今の方が好きってことは、昔とは違うってことだし、遥人が帰ってきた時のことを考えると、不味いんじゃないのか?


 ……記憶を探っても、あんまり前の遥人についてのことは分からなかったし、綾音が変じゃないと言ってくれているのだから、大丈夫か。……綾音のことを信じよう。……どうせ俺が遥人を知らない以上、元の感じに戻すことなんて不可能なんだからな。


「それじゃあ、綾音、俺はちょっと外に出てくるな」


「え? うん。分かったけど、何か用事?」


「……まぁ、そんなところだ」


 明日行く学園……じゃなくて、学校の場所は遥人の記憶で何となくわかってるけど、自分の目で一目見て起きたかったからな。

 それ以外にも、家に居たって正直暇だし。

 このスマホというものでゲームという娯楽? ができるみたいだが、記憶を見ても俺にはよく分からなかったし、暇潰しという面も否定はできない。


「そうなの? じゃあ、お昼ご飯はどうする? 要らない?」


「……いる。絶対いる。……昼には帰るよ」


「う、うん。待ってるね」


 この世界では普通のものなのかもしれないけど、俺にとっては極上の食べ物でしかないんだから、昼も作ってくれると言うのなら、帰らない訳もなく、俺は食い気味にそう言った。

 俺が元いた世界の人間なら、誰であろうと俺と同じように返事をしただろう。

 そう思えるくらいには、美味しかったんだから。




 そして、遥人の記憶を頼りに、質のいい服……この世界じゃ普通らしい服を着て、家を出た。

 家を出る時に「お兄ちゃん、スマホ忘れてるよ!」と綾音に言われたから、スマホもちゃんとポケットに入れて。

 ……記憶を見てもあんまり使い方が分からなかったから、持ち歩く気は無かったんだけど、綾音の反応的にスマホは常に持っておいた方が不自然じゃないみたいだから、これからは気をつけよう。


(……あれが車ってやつ、だよな……? 大丈夫、記憶を見て、あれが生き物なんかじゃなく、人間の操作する道具だということは分かってる)


 もしも記憶がなかったら、あれを魔物か猛獣か何かだと思い、殺そうとしてただろう。

 ……車に関しての記憶があって良かったな。

 遥人の記憶的に魔法はこの世界には存在していないっぽいし、本当に良かった。

 ……一応、遥人の記憶が全部見れる訳では無いと分かった以上、遥人が知らないだけで魔法を使える人間は居るのかもしれないが、一般人に認知されていない時点でそれも少数だろうしな。


 そして俺は更に道を歩く。

 ……俺にとっては新鮮なものばかりでつい色々と寄り道をしそうになるけど、昼には帰らなくちゃならない以上、真っ直ぐに進んで行く。


「ん?」


 学校が見えてきて、あと少しで学校の目の前だ、というところで、長い金髪の髪の毛をした小さな女の子……子供? が学校から出てきた。

 それを確認した瞬間、俺は思わず物陰に隠れてしまった。

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ファンタジー世界の住人だった男がエロゲ世界のモブに転生した結果 シャルねる @neru3656

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