2.火曜日・(後編)
「ん...くしゅ。」
11月の夜ともなればそれはそれは冷えるのだろうに彼女は上着の用意をしてなかったらしい。
「これでも着てなさい」
新は羽織っていたジャケットを彼女に渡す。
「ありがたいけどあなたは大丈夫?」
「俺は中にダウンベスト一応着てるし、今をときめくエリートテレビディレクターの体調悪くしたら各方面から恨まれかねんからな」
少し怖じ気づいた態度で差し出しだす。「ありがとう」と受け取る彼女を見て気まずそうに彼は鞄から缶コーヒーを取り出して一飲みして座り直した。
その時に通知音が鳴る。
「こんな時間に通知なんて大変ね。何か仕事の事?」
「いや流石にこの時間にはうちでも...」
そう言いながら彼はスマホを開いてたあと微かに動揺を見せる。ほんの一瞬であったが普段の態度に理性の面を被せている彼に苛立ちのようなものを紗枝佳は初めて感じたことで少し驚いた。
「...どうしたの。何かあった?」
「いやすまんな。個人的なことだから気にせんでな」
「いや、私はしっかり知りたいです。何か悩み事ならそれを聴くのは私にとっても重要ですから」
真剣に答える彼女は普段の言動から責任感が強いのが伺えるが今回は出会いであった悩み事を新が解消したということに対して「借りは返します!!」と常々いってたが故に余計に気負いしている。
しばらく波音が響いたあと新は申し訳なさそう「ほんとにいいのか」と呟く。それにすかさず「勿論ですよ!!」と笑顔で返してくれるのに紗枝佳の優しさなのだろう。
「まあなんだ情けない話なんだが今来たの母親からの連絡だったんだよ」
「ーー家族と上手くいってないの?」
「まあそうなるな」
そう言うと煙草を取り出して水面に近い柵の近くに歩き出した。紗枝佳も隣に駆け寄る。
「理由とかって聞ける?」
「うちの家族、別に特別な家庭とかじゃないんだがな。まあちょっと教育には結構な投資をしてくれて。」
「うん」
「だから私立の学校行かせてくれたり感謝してるんだけど俺自体は対していい大学とかにはいけなかった所謂落ちこぼれでな。」
「...それで実は俺って兄がいるんだけどこいつがかなり優秀でね。中学高校も良く大学は東大と自分より上の学校で尚且好成績で今はそのまま官僚やってるんだよ。」
「端的に言えば優秀な兄に気まずくなって家族との関わり方が分からなくなってんだよ...情けないなぁ」
悲しげに煙を吐きながら呟く新に対して紗枝佳は動揺していた。それは恐らく紗枝佳は自分が兄側の立場であったからだった。
「・・・情けなくないよ。」
紗枝佳の気遣いの言葉であったが新には届いていないのは表情で伝わってくる。
「さぁ、今日は遅くなったし帰ろう」
「そうね。」
煙草を片して荷物へ向かい歩き出した。お互いの感情に距離を取りながら
月明かり、水面とベンチで。 Serius9 @serious9
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