第20話 泣き虫な礼姉
僕の悪いところは、押されると何でもイエスと返事してしまうところだ。
わかってる。
ただ、わかっておきながら、いざそういう現場に立ち会うと、気付かないうちに頭を縦に振ってしまってる。
本当にどうしようもない。
ため息をつきたくなるけど、まずは僕の落ち度で招いてしまった現実をどうにかしないといけないわけで……。
今回で言えば、坂岡さんとのデートをどうするかが問題だ。
LIMEのアカウントもしっかり交換してしまったし、さぁ姉と礼姉にこの事実が知られたらどうなるんだろう……。
本格的に僕はどこかの部屋に監禁されてしまうかもしれない。
いや、監禁で済んだらいい。
バラバラにされてしまったりとか、そういうブラッド展開も考えられる。
絶対に逃げないように、とか言い出して……。
想像するだけで寒気がした。
「…………っ」
夜。自室にて。
さっそく送られてきてる坂岡さんからのメッセージを眺めながら、僕は一人で冷や汗を浮かべていた。
『一前君はどんな女の子が好みでしょうか?』
う、うぅん…………。
これは……いったい何と答えたらいいんだろう……。
めちゃくちゃ含みのある質問なんだが。
答えようによってはまたとんでもないことになるぞ。
真剣に考えなくては。
いいように転ぶ、最良の選択を。
「へぇ〜……一前君はぁ……どんな女の子がぁ……好きなんですか、かぁ……」
「!?」
すぐ真後ろ。
悩ましい吐息と共にゆったりとした礼姉の声が聴こえて、僕はその場で飛び上がってしまった。
まるで蛇を見つけた猫。
驚きのあまり変な声も出してしまった。
見れば、そこには光の消え失せた瞳と、結ばれていなくて乱れた黒髪をした女性が立ってる。
礼姉だってことはわかってるけど、思わず「誰?」なんて言ってしまいそうだ。非常に恐ろしい。
「れ、れれっ、礼姉……!? あ、あのっ、ど、どうしてここに!? ここは僕の事実ですが!?」
ゆらり、と揺れ、礼姉は不気味な笑みを浮かべる。
そして、当然のようにこんなことを言い始める。
「アサの部屋ということは、私の部屋でもある。私たち二人の愛の巣だ」
「何ジ●イアンみたいなこと言ってるの!? いや、あいつは愛の巣とか言わないけどさ!」
「アサ……。アサは今……悪い女に洗脳されている……」
「……え……?」
アハハハッ、と笑い出す礼姉。
洗脳とか、また意味不明なこと言い始めたぞ……。
「けれど、安心していい。アサにはお姉ちゃんがいるからな……? どんなメスが寄って来ようと、どんなアバズレが誘惑して来ようと、私がアサたんを……ハァハァ……しょ……正気に戻してやるからにゃぁ!」
「は、はいぃ!?」
言って、呼吸を荒くさせながら、目をかっ開いて、礼姉が僕に迫ってくる。
「逃げても……無駄だぞ……! お姉ちゃんが目を覚させてやる……! そんな女とデートに行くくらいなら……お姉ちゃんと一緒にいた方が楽しいってぇ!」
「っ!?」
礼姉にガシッと肩を掴まれてしまった。
マズい……。
どうにかして逃げないと……。
「ちょ、は、離してくれ、礼姉!」
「んにゃぁ!」
……え?
「っっっ〜……! て、抵抗しても無駄なんだからな! お姉ちゃんから逃げられると思うなぁ!?」
「…………」
掛け声をあげて僕の方をまた掴んでくる礼姉。
けど、力を入れて彼女の腕を掴んで動かすと、簡単に解除できてしまう。
……あ、あまりにも力が弱い……。
「んんんんぎぎぎぎぃ……!」
「…………あの、礼姉?」
「だめ……ダメなの……! 絶対にアサたんは渡さないんだから……!」
「……」
「んんんんんんっっっ!」
なんというか、非常に可哀想に思えてきた。
表向きクールな礼姉は、僕の前だと素が出る。
本当は、大人になってもこうして涙目になってしまう泣き虫。
おまけに力が弱くて、雑魚雑魚フィジカルの残念美人。
誰かが守ってあげないといけない、そんな女の人なんだ。
「礼姉、わかった。わかったから、ストップ」
「っふっ……ぇぐっ……! どこにも行っちゃダメだよぉ……アサたぁぁん……!」
「……っ」
……こんなの……とてもじゃないけど見捨てられない。
頭を軽く掻いて、僕は有無を言わさず礼姉のことを抱き締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます