第14話 合コン開始

「それじゃっ、少々大掛かりな合コンではありますが、皆さんたーのしんでいきまっしょい!」


「ウェーイ! てか、合コンってはっきり言っちゃってるー!w」


「まじそれなーw 昌也君張り切りすぎーww」


 なぜこんな場に僕がいるのか。


 本当に、本当に謎でしかない。


 足を踏み入れるのも躊躇するような、色めき立っている飲み屋街の一角。


 割と財布に優しいが、陰キャラには圧倒的に優しくない居酒屋チェーンの一席で、僕はここに来たことを死ぬほど後悔していた。


「コー君、はい、あーん♡」


「あ〜ん♡」


 僕の隣では、既に裏切り者となって場に溶け込んでいる幸喜が、恋人である大黒さんとイチャコラしまくってる。


 男女比は、全体で5対7だ。


 座敷の長テーブルに、男女分かれて向かい合う形になってる(なぜか幸喜と大黒さんは隣り合ってるが)。


 本当なら5対5で合わせる予定だったらしいのだが、そこはまあ圧倒的に僕が悪い。


 結構な若作りをして、僕の目の前に座ってる二人。


 さぁ姉と礼姉というイレギュラーをここへ呼んでしまったのは、紛れもなくこの僕自身だ。


 さっきからウェイウェイ言ってはしゃいでるけど、あの陽キャ幹事さんは善人が過ぎる。


 急遽二人もメンツを増やすなんて勝手なことを言えば、普通断られても仕方がないはず。


 それなのに怒らず、さぁ姉礼姉の参加を認めてくれた。


 坂岡さんの言ってた通り、見た目はチャラさマックスで怖いけど、内面はいい人なんだろう。


 全員が全員悪いわけじゃないらしい。たとえ見た目が怖くても。


「はいはーい! じゃあですね、この大人数ですけど、順番に自己紹介していきましょー! 自己紹介ー!」


 静々と一人で唐揚げを口に運んでいると、件の陽キャ幹事さんがとんでもないことを言い出した。


「いいねいいねー! 自己紹介いいねー!」

「あっ、でも俺アヤちゃんのことなら何でも知ってるわーw」

「もー、ユウスケ君目がヤラしいんですけどーw」

「だっははは! そいつは失礼!」


 ……もう僕……ここから逃げ出してもいいですか……?


 凄まじい場違い感に、顔を青くさせることしかできない。


 ほんと、あのユウスケ君って人は、アヤちゃんって人のほくろの位置まで全部知ってそうな感じだし、今さら一人一人自己紹介なんてしていかなくてもいいでしょうに……。そりゃ、皆が皆知り合いってわけでもないからなのはわかってるけどさ……。


「……てかよ、俺何気にあの彼女達のこととか気になってんの……。すっげー美人じゃね……?」

「わかるわかる。綺麗だよなー……ひひひっ」


 こうなることも何となくわかってた。


 さっそく幸喜たちの向こうにいるチャラ陽キャさんたちが、礼姉とさぁ姉のことを話してるし、鬱でしかない。


 そうですよね。そうもなりますよね。


 美人ですもの、二人とも。


「……あさ君……? ちゃんと食べておいてね……? じゃないと夜……お腹空いちゃうから……」


 聴こえてないのか、それとも聴こえないフリをしているのか、どっちかわからないが、さぁ姉は向かい合ってるところからこっそり僕へ言ってくる。


 ここまできて、言動は保護者そのものである。


 何とも言えない気分になるものの、礼姉は礼姉で、牙を研ぐようなクールオーラを発し、余裕ありげにビールを飲んでいた。


 僕と一緒にいる時とは雰囲気がだいぶ違う。


「そんじゃ、まず男子陣! 俺から行かせてもらいますっ!」


 幹事様が手を挙げ、自己紹介が始まっていく。


 流れ的に僕は端っこなので一番最後だ。






●○●○●○●






 男子陣の自己紹介は盛り上がりつつも、おおよそ無難に行われた。


 五人いるうち、僕と幸喜を除く三人は高山大学の人で、どうも大黒さん繋がりで幸喜も呼ばれただけらしく、ほぼほぼ僕たちはアウェー。


 女子の方も、何となく雰囲気的に坂岡さんだけが僕たちと同じ大学に通ってて、残りの四人は全員が高山大学っぽかった。


 ちなみに僕の目の前に座ってる女性二人は大学生じゃないので除外。


 バリバリの社会人さんだから。




「ということで、よろしくお願いします」




 幸喜が自己紹介を終えて、各所で「よろしくー」と声が上がる。


 上がったところで、次の皆の視線の行き先は当然僕だ。


 激しくなっている心音がより加速した気がした。


 皆悪い人じゃない。


 悪い人じゃないのだが、あまりにもアウェー過ぎる。


 サークルでも自己紹介とかはあったけど、あれは何というか、新入生全員が横一線になってる感があって、何言っても許されるような優しい雰囲気があったからこなせたまでのこと。


 はっきり言ってここまでキツいものじゃなかった。


「はーい、じゃあ次ー! よろしくねー!」


 ただまあ、だからってダンマリもしていられないわけで……。


 もうなるようになれだ。


 僕は声を出して自分を主張する。


「え、えっと、神前大学一年の一前朝来です。サークルは……幸喜と同じバトミントンサークルに入ってて、そのままそれが趣味になってる感じです。よろしくお願いします」


 THE・無難。


 前の人たちのようにもっと面白いことを言うべきかとも思ったけど、こんなもんで良かったらしい。


 ある程度皆から「よろしくー」と流れに沿ったような声をもらえたので、僕としては100点満点だ。


 安心して胸を撫で下ろす。


 ……が、


「ところでさ、これずっと聞こうと思ってたんだけど、一前君と前の二人って友達らしいじゃん?」


「え……?」


 待ったをかけるように、幹事さんの横にいる陽キャが僕へ質問を投げかけてきた。









【作者コメ】

投稿間隔少し空いてしまって申し訳ない。

ここ数日、発熱やら何やらで大変だったのである。

既にとりあえずは回復したので、またどんどん投げていくからよろしくだぜ。

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