第15話 衝撃的な告白

「彼女らと一前君、友達らしいじゃん? 何々? やっぱ大学も同じ神前?」


 敵意や嫉妬があるのかはわからなかった。


 幹事さんの横にいる彼――田山君は、僕が美人な女友達二人を侍らせてきたと思っていて、それで女性陣が自己紹介する前に、僕へ質問を投げかけてきた。


「い、いや、別に彼女ら二人は神前じゃなくて――」


「私は専門学校に通ってて、こっちの子は社会人なんですよ。年齢は皆さんと近くて、20歳です」


 ……うん。


 僕の言葉を遮るように、さぁ姉がつらつらと嘘情報を流す。


 礼姉もそれに乗っかって「そうなんです」と頷いていた。いや、そうなんです、じゃないよ。まあ、この場だと乗っかるしかないんだけどさ。


「へぇ~、そうなんだ! てっきり俺、一前君たちと同じで神前の人たちだとばかり」


 言って、隣の陽キャラさん――細川君を肘でつつきながら、「お前もそう思ってたよな」と問うていた。


 彼は頷き、幹事の持山君も同意見らしい。皆、僕と幸喜以外の男性陣は、さぁ姉と礼姉のことを神前生だと思い込んでいたようだ。


「――となると、じゃあアレか。女子で神前に通ってるのは坂岡さんだけ、と」


「あ、う、うん。そうかも。あはは……」


 緊張もあってか、ぎこちなく返事をする坂岡さん。


 どことなくどころじゃなくて、明確に男衆三人のいやらしい視線がさぁ姉、礼姉、そして坂岡さんに向けられていた。


 さすがにこればっかりは女子陣も気付いてるんじゃないか……? 堂々とよくやるよ、ほんと。


「はぁ……。ねえ、そろそろアタシたちも自己紹介していいかな?」

「って、する意味あんのか、って感じですけど」


 恐らく高山生らしい女子四人のうち、二人が不機嫌そうに持山君へ語り掛ける。いかにも帰りたさげだ。


「おー、悪い悪い。女子陣もお願いな。って言っても、四人のことはもう俺たち知ってるけど」


「でも、そっちの神前の二人はアタシたちのこと知らんでしょ? ねぇ?」


 言われ、僕と幸喜は頷く。


 ただ、幸喜が知るべきなのかは怪しい。


 傍には大黒さんがいて、さっきからずっとくっ付いてるし、僕が彼女らの好みかと問われれば、絶対にその可能性はない。


 たぶん、持山君たちを狙ってあの四人は参加してるんじゃなかろうか。


 にしても四人で三人の誰かを狙うっていう構図がもう頭から破綻してる気がする。


 持山君たちだって、さっきから妙にさぁ姉たちのことを気にしてるし。


「それじゃあアタシから。高山大学一年の南理沙でーす。彼氏とは一週間前に別れたんで、今日この合コンに参加してまーす」


 南さんか。


 僕が名前の把握をしている前で、持山君がわざとらしく意地悪いに笑み、


「隼人な。アイツクズだったからなぁw ご愁傷様だ、理沙」


「ほんとそれな。そういうことなので、今日はよろしくお願いしまーす」


 うーむ……。


 なんというか、持山君との今のやり取りで、僕とは圧倒的に住んでる世界が違うってのを再認識させられる。


 その隼人って奴といつから付き合い始めたのかはわからないが、大学生になってからの彼氏だってのなら、大体半年で別れて、すぐに次の恋人を見つけるために行動してるって感じだ。めちゃくちゃフットワークが軽い。僕ならたぶん二か月くらい寝込んでる。いや、もっとかも。


「次、私ね。私も同じ高山の一年で、名前は橋本春香って言います。お菓子作りとか趣味です」


 お菓子作りか。


 南さんと同じくギャルっぽい人だけど、趣味はすごく可愛いな。


 ……なんて平和に思ってると、


「……ヨロシクー」


 他の女子の面々は、心なしか冷めたような視線を橋本さんへ送っていた。


 わかりやすいもんだ。


 要はあざといこと言ってんじゃねえよ、って話か。


 僕を始め、田山君とか、細川君の反応は悪くない。


「可愛いね」なんて細川君はさっそく言ってるくらいで、橋本さんは「そんなことないよっ」と可愛らしく返してる。


 そのやり取りを見て、南さんが小さく鼻で笑ったのを僕は見逃さなかった。


 怖いです、女の世界。


「えっと……わ、私は野中仁美……です。高山大学の一年生です。よろしくお願いします」


 お、おぉ……。


 この子も可愛いと思う。


 イマドキの大学生っぽく髪の毛を茶色に染め、メイクもしっかりしてるが、控えめで緊張してる感が伝わってくる。


 あざとい雰囲気も無くて、陽キャ男子三人は満足げにうんうん頷いていた。


 が、しかし、反対に女子からはこれもまた不評な模様。


「ヨロシクー」と、一ミリもよろしくしたくない感じだ。


「あ、そ、それと、これはずっと言おうと思ってたんですけど……」


「「「何々?」」」


 持山君たち男子三人の声が重なる。


 野中さんは緊張している風に、その視線をなぜか僕へ向けてから言ってきた。


「一前君……さっきはありがとうございます。お店に入る時、私どこが入口なのかわからなくて……教えてくれて……」


 刹那。


 凄まじい殺気二つが前方から発される。


 一緒にお店に来たのにいつの間に、という感じだろう。


 その問いに対しては、この店の外にあるトイレへ行った時だ、と答えたい。


「私は内山志保です。三人と同じ高山大学に通ってて、陸上部に入ってます」


 高山大学の四人目、内山さんは三人とはどことなく毛色が異なっていた。


 元気な感じで、髪色も黒。顔も整ってる綺麗な人だ。


 それで、この人に関して言えば、持山君の食いつきが凄かった。


「俺さ、実は夏に大会で内山さんが走ってるところ見て、心打たれたんだよね」


「え、そうなの? 嬉しい」


「諦めない姿勢というか、不屈の魂っつーの? そういうのを内山さんの走りから教えてもらったんだよな~」


「えぇ~! ねえ、持山! あんた今日この合コン終わったら私の家来ない? 一人暮らしだし、二人きりなんだけど!」


 さすがはアグレッシブな陸上部女子。


 周りに敵となる女子がいようとお構いなしだ。


 押しに押され、合コンも始まって間もないのに、既に持山君はお持ち帰りされそうになってる。


「じゃ、じゃあ、この二人は置いといて……次、坂岡さんお願いします!」


 田山君……思い切り坂岡さんって言っちゃってるけどね……。


 果たして自己紹介する必要があるのかと思うものの、まあ、形として坂岡さんは話し始める。


 ただ、僕は次の瞬間、まさか自分がこんな出来事に巻き込まれることになるとは夢にも思わなかった。


「坂岡……香澄です……神前大学の一年生……なんですけど……」


 坂岡さんは、なぜか野中さんとさぁ姉、礼姉の方を見て、


「私は……一前君の……恋人……です」

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