第11話 ハッタリの通じない二人
夢を見た。
体が今よりも縮んでいて、僕は小学生の頃に戻っている状態。
両手は、左右ともに塞がってる。
制服姿の礼姉とさぁ姉が手を繋いでくれていた。
懐かしい光景だ。
右と左から二人が語りかけてくれて、僕は答えられるものに答えていく。
そうすれば、礼姉もさぁ姉も喜んでくれて、自然と会話が進むわけだ。
小さい頃は何もわからなくて、礼姉とさぁ姉の想いにもまるで気付かないどころか、恋心なんてものも知らない。
でも、今の僕からすれば、そんなのはダメだ。
二人の優しさにつけ込んで適当なことをするなんて耐えられない。
だから、言葉にした。
いずれ本当にどちらかを選ばなければならない時がくる。
でも、今だけはまだ甘えさせてもらって、自分の想いをちゃんと言った。
『礼姉、さぁ姉、僕も二人のことが大好きだよ』
と。
「…………ん…………」
想いを口にした流れで、僕の意識はぼんやりとしたものから徐々に鮮明になっていく。
今のは夢だ。
それは知ってる。
知ってるけど……。
「お姉ちゃんも好きだよ……あさ君……」
「アサたん……私も好き……好きだよ……」
これは知らない。
目を覚ますと、そこにあるのは天井……ではなく、捕食者の目をした礼姉とさぁ姉の顔があった。
表情を変える余裕もない。
驚き過ぎて、僕は真顔のまま二人に問う。
「……あの……どうして二人がここにいるんでしょう? 別の寝室で寝てたはずですし、僕は確か部屋の鍵も掛けてたはずなんですが」
するとまあ、礼姉もさぁ姉も、まったく同じタイミングでニヤ……ではなく、ニチャァと笑んだ。
「あさ君、私たちはもう何年も前からあさ君の部屋を行き来してるんだよ? 部屋の鍵の開け方なんて心得てるに決まってるでしょ?」
「部屋を勝手に開けられてるのに全然気付いてないアサたん……可愛い……お姉ちゃんと結婚しょ?」
思わず頬を引き攣らせてしまう。
この人たち、それが犯罪であるということに気付いてらっしゃらないのだろうか。
ちょっと強硬策に出ることにした。
「……ちなみに、部屋の鍵は何で開けたの? クリップを真っ直ぐにした金具とか?」
「ううん、違う。鍵穴の形状と似てる小型の鍵」
「桜子は悪女だからな。こういうことには明るいんだ。私はただ見てただけ」
「何言ってるの、礼ちゃん。さりげなく私をディスるのやめてもらえる? 開ける前はあんなにノリノリで私のこと頼りにしてたくせに」
「そ、そんなことないぞ! わ、私は」
「はい、わかった。わかったから、喧嘩はやめてね? 二人とも?」
「はぁい、あさ君♡」「ん、わかった。アサたん……♡」
「なるほどね、二人は別の鍵を使って僕の部屋を無理やりこじ開けたんだ」
「はい、そうです♡」「あ、開けたのはあくまでも桜子で……」
「じゃあ、この際だから暴露するけど、実は僕もそういうことしてたんだよね」
「「へ?」」
二人の声が重なる。
僕は続けた。
悪い顔をわざと作って。
「さぁ姉と礼姉の部屋にも鍵付いてるでしょ? それを無理やりクリップ真っ直ぐにしたやつ使って開けてたんだ」
「「そ、そうなの?」」
「そうだよ! それで何してたと思う? 二人の着替えとか全部覗いてました! もうほんと、全部ね!」
「「え……」」
「でも別にいいよね!? 二人だって勝手に僕の部屋開けてこうして入ってきてたんだから! 悪いとは言わないよねぇ!?」
「「うんっ! 言わないよっ!」」
……え……。
「あ……え、えっと……ほ、本当に!? む、胸とか、そ、その、ありとあらゆるところまで見てたんだよ!? それでも本当に言わないの!?」
完全にハッタリだ。
自分もこういうことをされたとなれば、それ相応の反応を見せてくれるはず。
そう思ってたのに、
「言わないよ……♡ だって……あさ君も男の子だもん……♡」
「あ、アサたんに見られてたんだ私……え……ぇへへへっ……♡ 見られて……へへへへぇっ♡」
完全に逆効果だった。
僕は顔を青くさせて首を横に振った。
今のは嘘です、と。見事に降参。
そしたらまあ、二人とも心底がっかりし、それなら今から見せてあげる、と迫ってきた。
「あさ君……♡」
「アサたん……♡」
「ちょ、まっ、いっ、いやぁァァァァァァァァァ!」
一前朝来。大学一年生。
今日も僕は朝から二人の美人お姉さんに犯されかけました。
●○●○●○●
「はぁ……」
それから時間は少し経ち、大学構内。
二限の行われる11号館の通路を、ため息交じりに歩いていた。
頭の中はお姉様二人のことでいっぱいだ。
これから自分はどういう選択をしていけばいいのか。
マッチングアプリでママ活タグを使って、とか考えてたちょっと前とは違うベクトルで悩みが生まれてる。
礼姉もさぁ姉も、僕はどちらも好き。
でも、どちらかを選べば、片方を悲しませてしまうわけで……。
「ぅぅぅぅん……」
答えが出せない。
今のところ、二人の目の前で素直になるっていうのもちょっと難しくはあるし。
「よっす、朝来。朝からため息なんかついてどうしたよ?」
背中を叩かれたので振り返ると、そこにはお馴染み僕の友達である幸喜と……。
「……え、えっと、そちらの方は……?」
「あっ、初めまして……ですよね。私、坂岡香澄といいます」
すごく可愛い美少女がいた。
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