第9話 入浴。三人で。
「いやぁ〜、こうして二人がお泊まりしてくれるのも久しぶりだなぁ〜。すごく嬉しいよぉ〜」
「父さん、なんかエロオヤジっぽいからやめた方がいいよ、その言い方」
リビングの席にて。
ニコニコの父さんに対して、僕は切られているリンゴを食べながら言ってやる。
ただ、それも食べづらくて仕方なかった。
理由は明白だ。
「私も春彦さんとこうして話せて嬉しいです〜」
「私も嬉しいです。春彦さん、お元気そうで何よりです」
さぁ姉と礼姉が僕の左右を陣取り、すごく密着してきている。
ギュウギュウに挟まれていて、思うように動けない。
特にさぁ姉は、ご自慢のお胸をさりげなく押し付けてくるので、ジッとしているほかなかった。
少しでも腕を動かそうとすれば、むにゅむにゅした感触に襲われる。
絶対にダメだ。さっきから反対方向にいる礼姉がそれを察して睨んできてるし。
「お父さん、聞いてよ。朝来、今日礼ちゃん桜子ちゃんの二人と一日中デートしてたんですって」
「デート!? そ、それほんと!? 両手に華じゃないか!」
わちゃわちゃ楽しそうにはしゃぐ父さんと母さん。
僕はため息をついて呆れる。
「やめてってば……。別に僕は何も」
「そうなんです〜。今日は私たち、あさ君とデートしたんですよ〜」
「その通りです。アサから誘われまして、今日は一日楽しみました」
僕の言葉を遮るように、二人があることないこと言って父さんと母さんをさらに楽しませる。
二人して手を合わせながらこっちを見て、「きゃー!」なんて言ってる。
なんてことだよまったく……。
「あのねぇ、別に僕が誘ったわけでもないからね? 嘘ばっかじゃんほんと……」
「え? そんなことなくないかな? だってあさ君マッチングア」
「いやー、そうでした! 僕が誘いました! 僕が誘ったんでした! お姉ちゃん二人とずっとデートしてくて、その思いを我慢できませんでした!」
「「えぇぇー! 朝来だいたーん!!!」」
うるさいわ、このバカ親!
僕は心の中で涙を流しつつ、表向き作り笑いを浮かべるしかなかった。
マッチングアプリの話を出すのは反則だ。
アレの話をされるくらいなら、まだ僕が自分で礼姉さぁ姉を誘った、となってる方がマシ。
ママ活工作してたなんて母さんが知ったら、それこそしばらく夕飯抜きにされそうだ。父さんは笑顔で肯定してきそうだけど。変態だから。
「えぇぇ!? 何々!? 朝来、遂にお姉ちゃんたちにアプローチかけ始めたのぉ!? 言ってたもんねぇ! 昔からお姉ちゃんのどっちかと結婚したいって!」
「今その話出さないでくれない!? しょ、小学生くらいの時の話だし! 二人ともここにいるんだからさぁ!」
はしゃぐ父さんに対してツッコむ僕だけど、礼姉とさぁ姉の方をチラッと見やると、恍惚の表情で頬を押さえてたり、舌舐めずりしてたりと捕食者の目。
三人になったらいったいどんなことをされるのか、想像すると……なんかちょっと一瞬いいかもと思ってしまったが、冷静になった方がいい。
身包み剥がされて、何もかも搾り取られてしまいそうだ。
骨だけになってしまいそう。
「母さんもなんか言ってよ! 父さん何も知らないんだからさ! 真実を伝えてあげてくれ!」
「お父さん、そうなの。朝来、遂にお姉ちゃんたちにアプローチかけ始めたみたいなの! 二人一気になんて欲張りよねぇ! 一夫多妻目指してるなんて最低よぉ、ほんとに!」
「おい、おばさん!!! 真実を話してくれ、真実をぉ!!!」
一夫多妻なんて現代日本でできるわけないだろうに。
仮にもしできたとしても、世間から見られる僕は針の筵だ。
めちゃくちゃ白い目で見られそう。
「いやぁ、我が息子ながらさすがだなぁ〜。こんな綺麗な女の子たちを侍らせるなんてすごいことだ。うんうん」
うんうん、じゃない。
お願いだから黙って欲しい。
「もう夜も遅いし、三人でお風呂でも入ってきたらどうかしら? ほら、昔はよく一緒に入ってたし」
「「いいですね、それ!」」
「良くない! 良くないですから、どう考えても!」
ツッコむ僕だけど、四人してこっちを見つめながら、「えぇぇ〜?」なんて言って声を合わせてくる。
もう家出しようかな……。
どう考えてもダメだろ。
19歳の男子大学生が、美人なお姉さん二人と一緒に入浴なんて。どこの大人のお店だよ。
「ていうか、そんなこと言ってると、父さんと母さんが礼姉とさぁ姉のおじさんおばさんに怒られるよ!? それでいいの!?」
「そこは大丈夫! みんな寛容だから!」
「個人の独断で答え出さないでくれ、母さん! ねぇ、礼姉とさぁ姉もおじさんとおばさん怒るでしょ!? 僕なんかとお風呂入ったりしたら!」
「ううん。むしろ狩るつもりでやってきなさい、って応援してくれるよ?」
「私もだ。行き遅れの娘が遂に腹を括ったと思うだろう……ぐすっ……あれ、なんか涙が」
「あぁぁぁぁ! もぉぉぉぉぉ!」
話にならない。
逃げるしかないと判断した僕は、一人で席を抜け出し、浴室の方へと向かう。
うるさいので、さっさと入って風呂を済ませることにした。僕が入り終われば、礼姉とさぁ姉も成す術がない。二人は入浴するのに色々準備が必要だろうし。
真っ裸になり、シャワーから湯を出す。
体を洗って、頭をサッと洗えばこれでも終わりだ。
「アサ、何を一人で入り始めてる? 私も入るぞ?」
「あさ君〜? 逃さないんだから〜」
「ぎょわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
遠慮なしに風呂場の扉がガチャリと開けられる。
僕は一人、裸で終わりを悟るのだった。
お姉様たち、本気だ。
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