第五十三話 王女と終劇
今日は、皆で美味しいドーナツを作りました!
とても楽しかったです!
食べたら、とても美味しくてビックリしました!
また作りたいなと思いました!
……という小学生みたいな感想はさておこう。
先程自身の作ったドーナツを食べ終えたルーフとソフィは現在、私がエクラの為に作ったドーナツを食べていた。
「流石はお姉さまのドーナツ…。美味しさが違いますわ…。」
「ええ。どうして、私が作ったものとこんなにも味が変わるのでしょうか。」
そう言いながら、二人は私が作ったドーナツを次から次へと食べていく。
絶対味の差なんてない…と分かってはいるが、沢山褒めながら沢山食べる二人を見ていると、何だかとても嬉しい。
…嬉しいのだが、ここで一つ問題が。
「…これは、もう一回作らないといけないね…。」
エクラの為に始めたこのドーナツ作りだが、既に私が作ったドーナツは全て食べられてしまったので、まさかの再放送である。
…と、私が再び準備を始めようとしたその時、とある一つの考えが浮かんだのだ。
それは、この街での目標である『王族と民との対等な交流』を達成するキッカケとなるかもしれないアイデア。
私はテキパキと作業しながら意気込む。
(矛盾まみれの目標という壁を、まずは少しのキッカケを複数与えてヒビを作り、いつの日か破壊してやるんだ。)
そして、出来上がったドーナツを手に取り、
「……この、小さなボールドーナツでね!!!」
といい、高く掲げたのであった。
突然の異常行動に目を丸くした二人だったが、興味はすぐ様私の手にあるドーナツに向かった。
「姫様?そちらの小さなドーナツは一体?」
二人はそれはそれは期待に満ちた表情で見つめるが、
「残念ながら、これは単純に手軽さと大量生産を意識しただけで、今二人が食べきったドーナツとの大きな違いは無いよ。」
と、そんな期待を叩きk
「お姉さま!!私、そちらも食べてみたいですわ!!」
、叩き切れ無かった。特にルーフ。
ワクワクしている二人を前にして、私はその期待を裏切るような真似はできなかった。
「…わかった。いっぱい作るね!!」
私の言葉に待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる二人。
私はそれに、呆れたような、しかしどこか愛おしそうな表情とため息を返したのであった。
……だが、この時の私はまだ知る由もなかった。
この後に、あの様な恐怖が待っている事を。
先程述べたように、このボール型ドーナツは大量生産を意識している。
小さく千切って丸くするだけなので、大型のドーナツよりも早く、そしてより多く作られたはずなのだ。
なのに、これは一体どういう事だ。
いくら作っても、目を離した次の瞬間には全て無くなっている。
油から上げた直後はかなりの高温。(※こちらの揚げる作業もソフィがしております。)
それに、まだ十分に油が落ちていないので通常よりもかなり重く、油で胸焼けなども起きやすいはずだ。
それなのに、私の隣に張り付いた二人の獣は何の躊躇いもなく、その全てを本能の赴くままに喰らい尽くしていく。
始めの方は、
「コチラもかなり美味しいですね。」
だとか、
「お姉さま大好き!!」
だとか可愛げがあったのに、今では二人とも無言で貪り尽くしている。
私はその光景に恐怖すら覚える始末だが、それでも私は
だが、終わりを迎えたのは材料の方であった。
広々としていたはずの調理室に所狭しと並ぶ空の木箱。
私はその光景に唖然としつつ二人の方を向く。
てっきり二人は『まだ食べたりない…』みたいな表情であると思っていたのだが、予想とは違い真面目な顔をしていた。
どうやら、流石に材料が枯渇するまで食べたというのは恥ずかしかった様子で、ソフィは、
「姫様。大変美味しゅうございました。ありがとうございます。」
とすまし顔をする。
一方ルーフは、
「お姉さま。本日はこちらのドーナツを、『お姉さま自らが!』作って、そして試食させてくださるという大変素晴らしい体験をさせて頂いたこと、深く感謝いたしますわ。ありがとうございます…ですわ!」
とかしこまったが、その手が指す『こちらのドーナツ』が空の皿であるのは滑稽……では無く可愛らしさを感じさせた。
ソフィはともかくルーフに至っては
何しろあんなに幸せそうな顔で、『私』という素人が作った未知の料理を食べてくれたのだから。
私はそれはそれは満面の笑顔で二人に、今の気持ちを頑張って言葉に変え、伝える。
「二人とも、今日は本当にありがとう。素人の私が作った未知の料理を、疑ったり嫌がったりせずに笑顔で並んで食べる事ができた事が何より嬉しかったよ。」
その言葉に嘘偽りはなく、ただ私の本心だけを表していた。
二人にもそれが伝わった…かは分からないけれど、
「私はお姉さまを
なんて言われたら、信じてみるのも悪くないでしょう?
…ん?あれ私、さらっととんでもなく怖いこと言われてない?
その後、「流石に後片づけを女王様にやらせるわけにはいけません」とソフィに耳打ちされたので、感謝と再会の約束を言葉にしながら丁重にお帰り願った。
ルーフは少し不満げであったが、
「また遊びましょう?お姉さま♡」
と、意味深な笑みを残して去っていったが、この数時間の彼女を見るに、ただもう一度遊びたいのだろう。
私とルーフは、家が隣同士の幼馴染などでは無い為、当然そんな頻繁に遊ぶことは出来ないとは頭では理解している。
がしかし、彼女がただの幼い少女であると分かった今、どうかそうあって欲しいと願うばかりだ。
そんなルーフを送り出し、部屋の扉が閉まった瞬間、
「ふうぅぅぅ…。」
と、隣に先ほどまで凛と立っていたソフィから空気が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
ソフィがそうなった原因に心当たりしかない私は、ただ一言
「ごめん。」
とだけ伝えた。
それにソフィは、
「私がどれだけ肝を冷やしたか…。」
と、そのままの姿勢でぼやくと、私たちの間に少しだけ、無言の時間が流れたのであった…。
その後何とかソフィに許してもらった私は、いつもの諦め顔で片付け作業に入ろうとしているソフィを止めた。
「?どうかしましたか?」
と、?を浮かべるソフィ。
私はそんなソフィの死角で異空間収納を開くと、先程二人に食べ尽くされる前にとっておいた、三個の大きなドーナツと約三十個のボールドーナツを異空間収納内で見つけたそれっぽい木の籠に入れて渡す。
ドーナツには布を被せてあり、それを取り除いて籠の中身を覗いたソフィは一瞬で歓喜に満ち、
「姫様……!!」
と感激していたが、
「残念だけど、それはソフィの分じゃないよ。それはエクラと街長の屋敷の使用人達の分。」
とたたき切る。
ソフィはこれまた一瞬で普段のクールな表情に戻った。やっぱりソフィはおもしろいな。
そんなソフィに私は向き直すと、珍しく真剣な面持ちでまずは思いを伝える。
「私がこの街で成すと決めた事……、それは『王族と民との対等な交流』なの。この街は首都やその周辺の街に比べ
この街に私の夢を見た。この国の王女である私が同じ地面に立ち、同じように笑いあい、支えあう、そんな夢を。悪魔との戦いでいろいろ出遅れてしまったけれど、私は夢を夢のまま終わらせる訳にはいかないの。」
ソフィはただ静かに私の話を聞いていた。
理想ばかりで自分勝手な、暴挙を。
ソフィーは話し終えた私を見ると、にこりと笑い、
「非常に。それはそれは非常に舐めた夢ですね。……ですが、嫌いではありません。まさに、姫様を体現したような夢ですし。……では、私は何をすればよいのですか?」
と、答えてくれる。
私はこの時、あの日悪魔に人質にされたソフィを、エクラを危険に晒してまで助けた事が正解であったと、心からそう思えるようになったのだった。
だが、それと同時に私の心に芽吹いた小さな感情のつぼみに、私が気が付くのはまだ先の事になるのだろう。
零れそうになった涙を誤魔化し、私は私を待つソフィに命を与える。
「突然だけど、今から私たちは街長の屋敷に向かいます。理由はもちろん?」
「エクラ様に会いに行くのですよね?」
「そう。私は、その籠の中に入っている大きなドーナツ三つをエクラに渡しに行く。頑張るエクラを労うために。で本題なんだけれど、その間ソフィには、残りのボールドーナツを使用人たちに配ってほしい。私の手作りアピール強めで。……あっ、一人一つまででね?」
私のお願いを聞き、一瞬表情に疑問が浮かんだが、すぐにその表情は理解に変わった。
「なるほど。未知のお菓子で興味を引き、そして姫様に親近感を持たせるのですね?確かに屋敷の者達への譲渡なら少ない数で済みますし、悪用の可能性も低いと。ですが、それにしてもいささか数が少なくありませんか?」
そう言うと、ソフィは手元の籠にかかる布を捲ったが、その言葉に私はにやりと笑う。
「それでいいの。『限定三十個!姫様手作りお菓子!!』を食べる事の出来た幸運の持ち主は、その幸運を不幸な者達に自慢するでしょう?全員に食べさせて『美味しかったよね~。』より、少数のみに与えて『美味しかったんだよねえ~。』のほうがきっと噂は広まるでしょうし、記憶にも残るでしょう。嫉妬の力は最強なのよ?」
私の答えに、
「姫様は悪いお方ですね。……分かりました。このソフィ、謹んでお受けいたします。」
とソフィは一礼した。
おお、綺麗な会釈。
…じゃなくて、そうと決まれば…。
くるりと回ってソフィの方を向くと、
「じゃ、ソフィ?さっそく、街長の屋敷へと向かう準備を始めましょうか。」
と、珍しく年相応な仕草で微笑む私。
私の精神年齢は前世を足すと四十は超えているはずなので、基本的にそんな純粋無垢な少女のような事はしないのだが……。
自身の行動に困惑する私の気を知らないソフィは、
「はい。ですがまずは、籠から大きなドーナツは出しておきますので、姫様はエクラ様のために可愛く梱包されてはいかがでしょうか。私はその間、お邪魔にならない範囲で片付けを進めておきます。」
というと、テキパキと作業を始めるのであった。
私は、目の前の皿に載った三つのドーナツをボーっと眺め、物思いに耽る。
いろいろと懸念は残る。
だが、今はただ早く、
エクラに、会いたいのだ。
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