転生奇跡に祝福あれ

ルミネリアス

奇跡な幼少期

第一話 王女、誕生

 あるとき、世界全土を巻き込む大戦争が勃発した。








 それは、とある龍と吸血鬼が互いを信じる者のために始めた戦いであった。


 龍は人族のために。吸血鬼は魔族のために。


 それはまさしく代理戦争であったが、しかし何年たっても決着はつかない。


 両者の実力はあまりにも拮抗しすぎていたのだ。








 やがて、終わる気配のない代理戦争に嫌気がさしたのか、人族と魔族は次第に直接的に害を与えるようになり、それは争いになり、そして世界戦争となっていた。






 そんな世界戦争は何十年も続き、地上は死屍累々の地獄絵図となってしまった。 








 そんな戦争の日々が続く中、密かに大事件が発生する。








 なんと、戦いのさなかで龍と吸血鬼はお互いを意識し始め、遂には恋仲となってしまったのだ。


 そう。世界戦争中に、だ。




 お互いを信じる者の為に始めた戦い。


 しかし、それがかえって苦しめてしまった事があまりに滑稽で馬鹿らしくなってしまった二人は、その気持ちを戦いの中で分かち合った事から、二人の恋は始まったそうだ。












 そうして恋仲となった二人は龍の圧倒的な力と吸血鬼の明晰な頭脳を使い、何年もかけて世界戦争を終わらせたのだった。








 その後さらに何年もかけて両種族の関係を改善した二人は、自らが和平の象徴となり、世間には政略結婚のように見せかけ、両種族の支配する大陸の間に建国をしたのだった。












 これは、そんな国が終わりへと歩みを進める始まりの物語である。












「な、なんと、それはまことか!?」


 普段は静かな王宮。しかし今日は、その威厳のある低い声が響き渡っていた。その声には、驚愕に染まっていた。


「あなた!私…!私…!!」


 一方こちらはその透き通った美しい声を歓喜に震わせながら自身のお腹をさすっている。


 そんな二人の傍らには医者と思われる格好をした魔族が。


 誰が見てもわかるだろうが、子を授かったのだ。




 数日前から体調を崩した妻を心配した夫が、医者を家に呼んだのだ。そして、妊娠が発覚した。


 別に珍しいことではないだろう。その場所とその夫婦が普通ならば、だが。






 ここはシュトラール王国、その王宮の寝室である。


 そして夫の名はスルンツェ・ディエナ・シュトラール、その妻の名はローアル・ノクス・シュトラール。


 そう、二人は国王と王妃であり、先述のとおり夫は龍、妻は吸血鬼である。


「こんなことが、起こりえるなんて…。世界樹様の奇跡としか思えません…。」


 そう言い放った医師は、震えながらこう発言することしかできなかったのだ。










 医師が驚き震える訳は、この世界のとある常識が関わってくる。










『人族と魔族は子を生せる。しかし人族と魔族は一部の亜人族とは子が生せない。』






 それは各国でかつて研究され尽くされた事実なのだ。


 吸血鬼は魔族、そして龍族は子か生せない一部の亜人族に含まれている。


 龍族は、同族間でのみでしか子孫を増やすことができないのだ。そのはずなのだが。






「ふーむ。しかし我らのあいだに子ができたのは覆りようのない事実。ならば今は喜ぶべきであろう!皆に告げなければ!そして、国を挙げて祝福する準備を!」


 そう叫びながら早速臣下に指示を出し始めた王スルンツェを、王妃ローアルは幸せそうに見つめている。


 その奇跡としか思えない妊娠の衝撃は、やがて世界へと広がっていく。


 そして衝撃は、遂には子が誕生しても収まることはなかった。








 そんな奇跡から数か月たった今日、この国の未来を大きく変える存在がついに誕生した。


 その出産は困難を極めたが、そこは最強の吸血鬼。無事に出産を終えた。






「う、生まれたのか…!我の子が…!生まれたのか!!!」


 寝室の扉の前に何時間も張り付いていた王スルンツェは、部屋から聞こえてきた医師やメイドの歓喜や労いの声をきいて部屋に飛び込み、叫んだ。


 ちなみに、最初は部屋の中にいたスルンツェだったが、あまりにもおろおろとするので、邪魔だと追い出されていた。


「あなた!…見て。私たちの子供よ。とってもかわいい女の子よ」


「ああ、ああ、ロア!よく頑張ってくれた!愛しているぞ!」


 そういって号泣しながら抱き合う二人。そしてそれを目に涙を浮かべながら眺める医師とメイドたち。


 その光景は、まさにこの夫婦が決して見ることは叶わないと、しかしそれでも切望し続けた光景であり、それは、ひとつの始まりの光景であった。






「そうだロア。この子の名前はどうする。」


「そうね…。」






「テラス、テラスなんてどうかしら。」


「テラス…いい名前じゃないか!」








こうして、奇跡のもとに生まれた一人の少女、テラス・テオフィルス・シュトラールは、誕生したのだった。

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