第7話

「っ、かしこまりました!」


一礼して足早に社長室を出ると、後に続いて佐伯さんも出てきた。


「びっくりしました。俺の名前知ってるんですね」


突然名前を呼ばれて慌ててしまったが、憧れの社長に認識されているのは光栄だ。


でも、まさか同期の名前まで知っているとは。


まだ入社して間も無い下っ端を知ってくれているとは思わなかった。


今日も忙しい先輩に変わって社長の元へ出向いた。


面と向かって話をするのはほぼ初めてだ。


「もちろんです。社長はここにいる全ての人間を把握しています」


「全て⁉︎何百人もの社員をですか⁉︎」


「はい。ここにいる人間だけではなく、うちと関わりのある全ての人間を知っています」


シワ一つないスーツを着こなし、エレベーターのボタンを押した。


すぐに扉が開くと、先に入るように促される。


「……だから隠し事なんてできないんですよ。同期の森下和希さんにお伝えください」


「隠し事って……」


意味深なことを言う佐伯さんに問いかける前に、素早く扉は閉まっていった。

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