総力戦③
突如激しい音を立てて消えていく結界。
魔族達に動揺が走る。
魔神が発動した結界が破られる事などあってはならない。
「リ……リンドール様の結界が!!……」
「破られたぞ!」
ざわめきだす魔族たちだが、魔神も表情に出さないが、少し動揺していた。
「ほう、我の結界を破ったか。殲滅王か剣聖が手を出したな……」
「ご安心下さい、転移魔法により各地に散らばっていた魔族達は全て集結させております。」
「恐らく2方向から攻めてくる。人間の雑魚共には魔物を当てろ。魔族は全て剣聖らにぶつけろ。」
「畏まりました。」
リンドールにとって危険視しているのはあくまで剣聖。
この世界では空気中に浮かぶ魔力が薄く全力で戦うことはできない。
相手にとっても同じ事だが、聖剣は違う。
魔を祓う聖なる剣は、リンドールを確実に滅ぼせる力を秘めている。
「我の所に辿り着くまでに、奴らは消耗するだろう。敗北は許さんぞゾラ。」
「リンドール様の手は煩わせません。」
研究所の外が少し騒がしくなっている。
先頭の方では既に戦い始めているようだった。
「全員走り続けろ!取りこぼしたやつはボクが相手をする!」
アレンさんを殿に研究所へと向かう。
「アイシクルランス!」
フェリスさんの周りに浮かぶ氷の槍が魔族に襲い掛かる。
「アタシの前に立ち塞がるんじゃねぇ!死ねぇぇ!!!」
相変わらず裏のフェリスさんが出てきているようだ。
走っても走っても無限に湧いてくる魔族。
僕や姉さんは銃器で応戦しているが、レーザーライフル以外はあまり有効ではないようだ。
アカリは僕らの射線を塞がない程度に動き、近づく魔族を処理してくれている。
どれだけ戦っただろうか。
倒しても倒しても湧いてくる魔族に嫌気が差してくる。
「仕方ない、魔力は温存しておきたかったけど……ボクが数を減らそう。」
両手を前に翳し、ドス黒い魔力の塊が生成されていく。
先程見た魔法を使うようだ。
仲間達はみな後ろに下がる。
「グランドカタストロフ!」
掛け声と共に前方へと黒い深淵が伸びていく。
飲み込まれた魔族は即死だろう。
魔法を撃ち終わった後には、何も残らない。
研究所へと一直線に広がる視界。
埋め尽していた魔族は一体すら見当たらない。
全て消滅したようだ。
「この魔法は魔力の消費が大きいからあまり使いたくはなかったけど、これでみんなの魔力は温存できただろう?」
アレンさんは仲間の魔力量が不安だったらしく、苦渋の決断で、先程の大魔法を使ったらしい。
しかしそのお陰で、僕らを阻む者はいなくなった。
堂々と歩き研究所を目指す。
日本軍はまだ戦っているのか、ひっきりなしに戦闘音が聞こえてくる。
「彼らの心配はしなくていい、恐らく向こうには魔物だけを配置していたみたいだしね。魔神にとってはボクらが一番警戒すべき相手のはずさ。」
既に研究所から500メートル圏内にいる。
研究所内にはまだ魔族も複数いるだろう。
「あともう少しだ。もう一度確認しておく。ゲートに到着次第ボクらで周りを牽制。その間にレイにはゲートに飛び込んでもらい仲間を連れてきてもらう。連れてくるのは雷神だけでいい。彼さえいれば魔神を倒すのも余裕ができる。」
「分かりました。出来るだけ急ぎますが、それまで耐えていてください。」
「どうなっている!!!!」
研究所内に魔神の怒号が響く。
アレンの攻撃により軍勢の約8割を失い、リンドールは怒りを制御できなくなっていた。
「恐らく、殲滅王の仕業かと……」
「やってくれたな……仕方あるまい……ゾラ、我らは先に異世界へと戻るぞ」
「ど、どういうことですか!?」
ゲートを死守する話がいきなり、ゲートへ飛び込む話へと飛躍したためゾラも理解が追いついていなかった。
「この世界は魔力も薄い。武力も低い。正直に言おう。飽きたのだ。」
「あ、飽きた……とは……」
「この世界にあまり価値を見い出せぬ。よってこの世界の支配は捨て置く。それならば先に我らの世界へと戻り剣聖がいない間に軍勢を整えた方が有意義といえよう。」
「それでしたら我々がゲートへ飛び込んだ後に、ここに残していく魔族にゲートを壊させろ」
「よろしいのですか?我々はもうこの世界に戻ってこれませんが」
「構わん、剣聖を元の世界に戻す方が危険だ。」
「確かに……分かりました。配下の者に伝えておきます。」
異世界ゲートをもう一度作るのであれば、膨大な資源と時間がかかる。
今の情勢を考えても、現実的とはいえないだろう。
ゲートを見つめ、ゾラを待つ魔神。
「この世界を破滅させることが出来ないのは悔しいが、剣聖をここに残していけるのであれば十分な成果だろう……」
1人呟き、不敵に笑う。
少しすると、ゾラが戻ってきた。
「お待たせしました。配下には破壊するよう伝えております。では参りましょう、我らの世界へ。」
その時研究所の入口付近で爆発が起きる。
「チッ、もう来たか。行くぞ!」
魔神はゲートへ飛び込み、その後ろをゾラは付き添う。
こうして2人は異世界へと戻ることとなった。
「殲滅だ!魔族共を殲滅しろ!」
掛け声と共に、アレンたちが研究所へと押し入る。
しかし、遠目からでしかなかったが魔神とゾラがゲートへと飛び込んだ所が見えてしまった。
「逃げたのか!?いや、まさか!」
「アカリ!!ゲートに集まる魔族を蹴散らせ!」
「了解。」
破壊しようとする魔族に向かって駆け出すアカリ。
魔神の考えていた事が理解できてしまった。
奴らは先に異世界へと戻りゲートを破壊し、黄金の旅団を戻させない手段をとったのだろう。
既にゲートの周囲には魔族が数体おり、破壊しようとしていた。
魔族がゲートに手を向けた時には、神速と呼ばれた少女が側にいた。
「残念でした。」
小さな幼い声と共に魔族の首は跳ね飛ばされる。
動揺した他の魔族も、気付いたときには視界が暗転していた。
アカリは間に合ったようだ。
流石は神速の二つ名を持つだけはある。
既にゲートの周囲には首のない魔族の遺体が転がっているだけ。
僕らもアカリに続くように、周りを牽制しつつゲートへと足を進める。
やっとゲートへ辿り着いたが、魔族は意地でも破壊しようと寄って来る。
「くそ!数が!多いな!!」
紅蓮さんもガトリング砲で牽制してはいるが、魔族の数はなかなか減らない。
入口付近でも銃声が聞こえだした。
日本軍も到着したのだろう。
ゲート付近と入口付近からの挟撃で、魔族は混乱している。
「このまま押し返せ!奴らをゲートに近づかせるな!」
レイさんも団員に発破をかけている。
どれだけ時間が経っただろうか。
魔族は全て殲滅出来た。
疲労が溜まり、全員が肩で息をしている。
日本軍から1人の男が近寄ってきた。
「君達は……何者だ。」
「まず自分から名乗ったらどうだい?」
アレンさんの飄々とした態度が気に食わなかったのか、顔を顰める。
「生意気なやつだな。まあいい。私は連合軍司令官、鈴木一朗。お前は?」
かなりのお偉い方のようだ。
「ボクは黄金の旅団、団長のアレンだ。」
握手の為かアレンさんは右手を差し出すが、鈴木さんは相手にしない。
「なぜそのゲートの側にいる。」
「君達と同じく、奪還の為に戦ったからだよ」
険しい表情を崩さない鈴木さんと、常に笑顔のアレンさんは目線を外さない。
「では聞こう。あの化け物はなんなのだ。」
「君達が知る必要はないと思うけど?もう全て殲滅したんだしさ。」
「そんな話をしているのではない。あれは一体何処から現れた者なのかを聞いている!先程の戦闘を見ていたが、何やら特殊な力を使っていたようだな。そんなお前達なら知っているだろう。」
一触即発の空気感に、僕らは黙ってアレンさんを見つめている。
「話しても理解は出来ないだろう?なによりこの世界の住人ではないんだよボクらは」
「ならばさっさとそのゲートに飛び込み元の世界へと帰ったらどうだ?我々はその後ろにいる男に用があるだけだ。」
僕に視線を向けてくるがそれを遮るかのようにアレンさんが前に立つ。
「悪いけど、彼も連れて行くよ。」
「それは困るな、これだけの被害が出ているのに責任を負う者を連れて行かれるのは。」
「待ってください!彼方は何も悪くはありません!」
姉さんが我慢できなくなったのか、いきなり立ち上がり鈴木さんに詰め寄る。
「なんだ君は。」
「私は彼方の姉です!」
「なるほど、ご家族の方か。貴方に責はないが、彼には聞かなければならないことが多すぎる。」
「彼方は望んでこんな被害を出したわけじゃありません!!」
「望もうが望まないが、結果が全てだ。重要参考人として連れて行く。」
やはり僕を憎んでいるのか、全ての責任は僕にあるというような雰囲気で睨みつけてくる。
「我々の中には家族を失った者が多い。そんな彼らになんと説明すればいい。このゲートを作ったのであれば責任を負う者は彼しかない。五木といったか?彼も重要参考人だ、何処にいる。」
「彼は死んだよ。魔族の手によって。」
アレンさんが悲しそうな目で、横から話しかける。
「何?ならば尚更城ヶ崎彼方には来てもらわなければならなくなったな。」
「だから言っているだろう?彼はボクらと共に行くと」
鈴木さんは溜め息を付き、次の言葉を投げかけた。
「我々は一般人には手を出すつもりはない。が、彼は大罪人として世間からは思われている存在だ。それを庇うというのであれば武力行使も」
言い終わるが否か、フェリスさんは剣を抜き鈴木さんの首元に剣先を突き付けた。
「なら、アタシたちが相手になってやるわ。経った数人しかいないけど、貴方達とは互角以上に戦えるわ。さっきの戦闘見ていたんでしょう?私達の力がどれ程のものか、味わってみたいのかしら?」
「貴様……」
空気は非常に悪い。
ピリついており、後ろに控えている兵士達も銃を手に、いつでも構えようとする気配がある。
もちろん黄金の旅団も、みな武器に手をかけている。
このままでは本当に殺し合いになってしまう。
自分の世界の兵士と、仲間達が殺し合うなんて見たくもない。
しかし今は誰かが構えた瞬間、戦闘になりそうな雰囲気だ。
「あの!!」
僕は意を決して、立ち上がった。
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