総力戦①
「全員、装備に問題はないか再度確認しておけ!」
観客が集まることのなくなったスタジアムに響く大声。
そこかしこに銃器を持った兵士がいる。
日本軍は突撃する前に、仮拠点をスタジアムに設置し、準備が整い次第総攻撃を掛ける手段に出ていた。
近くには野営テントが視界一面に広がっている。
各国の国旗が、増援部隊として参加してくれている事を意味していた。
人類のかき集めた総戦力約10万人。
防衛に手を回したり、襲撃で数を減らした兵力の中ここまで集まれば御の字である。
それを遠目から見ていたアレン。
「この世界の戦力も馬鹿にはできないものだな。ここまで集めるとは。これなら協力すれば異世界ゲートは奪還できそうだ。」
「……………………」
リサも無言ながら頷く。
二人で偵察に出てきていたのは、総攻撃を明日に控えており、念の為味方の数を把握して起きたかったから、という理由だった。
しかし、そんな彼らの元に連絡が入った。
携帯がポケットで震えている。
「団長!!直ぐに!すぐに戻ってください!魔族の襲撃です!!!」
リサと顔を見合わせ、返事もしないうちに移動を開始した。
廃工場地下隠れ家。
「おい!アレンに連絡は繋がったか!?」
「繋がりましたが、最短でも10分はかかるとのことです!」
まさかここに襲撃を仕掛けてくるなんて思わなかった為、全員に緊張が走る。
「団長がいない今は私が指揮を取ります。セラは結界を展開。団長が戻るまで一歩たりともここに奴らを入れさせないようにして」
「はい!堅牢結界陣、ガーディアス!!」
薄く青白い光に覆われる。
曇りガラスのような、向こう側が透けて見えるこれが本当に頑丈なのだろうか。
「10分耐えれば、なんとかなります。セラの魔力が尽きるまではこの中で待機。尽き次第結界は破られるので総員警戒態勢へ。」
レイさんの指示に団員は各々武器を手に構える。
僕らも倣って構えておいた。
しばらくすると、鋼鉄を叩くような音が響き出した。
魔族らが結界に攻撃している音だ。
保護されている一般人は冷や汗を流しながら、銃器を手に震えている。
どれだけの数が攻めてきたかも分からず、ただ結界内で待ち続ける。
たった10分が何時間にも思えてきて、全員の顔には不安が見て取れた。
「ちっ、かてぇなぁこの結界はよぉ」
「グリード様、ヒビが入り始めました。」
「よし、てめえらはそのまま攻撃し続けろ。オレが全力出してやる。」
魔族や魔物は100体。その筆頭にグリード。
彼らはリンドールの命でここに襲撃をかけることとなった。
タイミングを見計らいアレンが離れた今がチャンスと襲撃をかけたが、結界にここまで阻まれるとは思っておらず襲撃隊に焦りが見え始めていた。
「アレンが戻ってくるまでには破壊してやるから安心しろよてめーら。中に入ればこっちのもんなんだからよ。」
そう言い力を貯め始める。
「見るがいい、これが四天王が1人、破壊の王と呼ばれた魔族の力だ!!!」
全力を振り絞り固く握られた拳は結界へと迫り、接触するか否か、豪快な音を立て結界は脆くも崩れ去った。
「いくぞ、皆殺しだ。」
「もう!持ちません!!」
そんな言葉を発したセラは手が震えている。
瞬間、ガラスの砕けた音が周囲に響き、結界は崩れセラは尻餅をつく。
「や……破られました……」
肩で息をしているセラは全力を出し切ったようで、立てないほどに疲労していた。
「総員!迎撃せよ!!!」
レイさんの掛け声と共に隠れ家への入り口に団員が集まる。
「よお、やっと会えたなぁカナタ!」
随分懐かしい声が聞こえ入り口を凝視すると、そこには異形の姿をしたグリードがいた。
「くっ!なぜここに四天王が!!」
「全員全力でやるぞ!!」
「アカリは護衛に集中してろ!」
各々声を掛け合いグリードに立ち向かうが、魔力障壁で弾かれていた。
「雑魚に用はねぇ!!そこの神速と再戦だぁ!!」
団員を弾き飛ばしこちらに向かってこようとするグリードに相対するようにアカリは前に立つ。
各自に渡された銃器の類は四天王にはなんの意味も成さずただ無意味に弾薬を消費していく。
「小賢しい!こんな豆鉄砲がオレに効くわけねぇだろぅがぁぁ!」
「五木さんにカナタくん。貴方がたは後ろに。ここは私達が引き受けますので。」
レイさんも魔導銃を構え立ち塞がる。
僕は足手まといにならないようその言葉に従い五木さん達と後ろに下がる。
そこからはグリード対アカリ&レイの戦闘が始まった。
アカリは速さで翻弄しつつレイの狙撃で動きを阻害する。
完璧な連携というものを見せられ、僕は魅入ってしまっていた。
言葉のやり取りはない。
しかし、彼女らは事前に味方の動きが分かっているかのような行動をする。
アカリが右に逸れたらレイが狙撃。
レイが足を打てば、アカリは頭上から攻撃。
旅団はいつもこうして戦っていたのかと、思い魅入っていると不意に後ろから叫び声が響く。
「ギィィヤァァァァ!!!」
何事かと振り返ると、男が血塗れで倒れている。
あの男は確か国家安全保障局の者だったはず。
側には魔族が立っている。
入り口を団員で固めていたが、すり抜けたのかいつの間にか僕らの側まで来ていたようだ。
僕は手に持っていたライフルで狙いを定め射撃するが、慣れておらず一発も当たらない。
他の保護された者達は恐怖と驚きで身動きが取れず一人ずつ殺されていく。
「や、やめ……いやぁぁぁ!!」
「ゴフッ……助け……」
「くそ!!その人達に手を出すなぁぁ!!」
ありったけの弾丸を撃ち続けるが一度も当たらず弾薬は底を突きた。
「人間如きが調子に乗るなよ」
魔族のそんな台詞も聞く余裕はなく、手に魔力を込める。
今出来ることは、一撃でも攻撃を与え入口付近から走り寄ってくるフェリスさんにバトンタッチ出来ればなんとかなる。
「解き放て!氷牙の鋭爪!アイシクルエッジ!」
氷の刃は魔族へと一直線に飛んでいくが、素人が放つ魔法など魔族にとっては児戯。
当たる直前で弾き返され、氷の刃は砕け散った。
「この程度俺を傷つけられると思うなよ人間!」
また1人また1人、人が死んでいく。
そんな時僕の後ろからレーザーが飛んでいく。
「しねぇぇ!!」
慌てて振り返ると紫音がレーザーライフルを手に魔族へと射撃していた。
不意をつかれたのか魔族の羽に直撃し、うめき声をあげる。
「ぐぅぅ!小娘がっ!!許さんぞ!!!」
「いや!!!」
怒りに満ちた魔族に睨みつけられ恐怖からか紫音はライフルを落とす。
そのライフルを拾い上げ魔族に銃口を向けたのは、一番後ろで控えていた五木さんだった。
「私も手伝わせてくれ」
そう言いながら引き金を引く。
銃口から飛び出た全てを溶かし尽くすレーザーが魔族の肩を貫く。
「グオァァァ!人間如きぃ!!!」
魔族の手には深紫色の魔力が溜まっていく。何かを仕掛けてくるつもりかと構えたが、そんなものは杞憂に終わった。
「その醜悪な首切り裂いてあげるわ。」
フェリスさんが間に合った。
腕を振り切り、レイピアのような氷でできた剣の刃は魔族の首へと吸い付くように流れていき、そのまま首を跳ね飛ばした。
「間に合ってよかったわ……貴方にもしものことがあったら……」
「ありがとうございます!」
それだけ言うとまた入り口に戻りかけたが、既にすり抜けてきた魔族が複数体こちらに向かってきていた。
「ここは通さない!!アイスウォール!」
氷の壁が僕らと魔族を分断する。
「貴方達はそこに居て。2撃くらいならこの壁が耐えてくれるから」
フェリスさんは魔族へと振り返ると、駆け出した。
僕らは傷を負った人達を介抱する為近寄ったが、既に息はなく助けることはできなかった。
五木さん、茜さん、僕ら姉弟。それだけが生き残り他の者は全員死に絶えていた。
「すまねぇな……俺も恐怖で動けなかった……」
紅蓮さんも強面ではあるが1人の無力な人間。
戦闘のドサクサに紛れ隅で隠れていたそうだ。
「大丈夫ですよ。僕だって魔法がなかったらただの人です。怖くて当たり前なんですよ……」
暫く戦闘は続いていたが、魔族のあまりの数にフェリスさんをすり抜けた2体の魔族が氷の壁に迫ってきた。
「カナタくん!!魔法の重ねがけを!」
フェリスさんから声が届き、その声を聞いた僕は魔力を練り上げる。
「我らを守れ!氷の障壁、アイスウォール!」
フェリスさんの氷の壁が砕かれたすぐ後に僕の魔法が発動しまた壁が迫り上がってくる。
「小賢しいぞ!人間!」
しかし2撃しか耐えられない防御力。
何度も重ねがけをしていたが、遂に僕の魔力は底を突きた。
「わ……我らを守れ……氷の障壁……アイスウォール!」
薄い今にも破れそうな1枚の氷の壁がせり上がり、それを最後に魔力は完全になくなった。
もちろんそんな薄い氷など簡単に破られ目の前に迫る魔族。
「ガキが身体張ってんのに俺だけ隠れるなんて、らしくもねぇことしてたぜ!おら!死に晒せ!!」
どこから持ってきたのかガトリング砲を両手でつかみ弾丸の雨を魔族にふらせる。
流石に物量が多かったのか、魔族も障壁を展開し自らを守る。
「チッ、弾が切れた……」
ガトリング砲の弾は切れたタイミングを見計らってか魔族は僕らに手を向ける。
「死ね、デビルレーザー」
黒い静電気を纏った魔力の固まりは一直線に伸び僕の肩を貫き、壁に当たって止まる。
「ぐぅぅ……」
痛みに顔を顰め肩を抑える僕に覆い被さるようにして、姉さんは叫ぶ。
「彼方は殺らせない!」
「ならば二人もろとも、死ね!デビル……」
魔族は言い終わる事はなく、そのまま後ろに倒れこんだ。
「………………間に合った。」
「リサさん!!」
リサさんがここに居るということはアレンさんは間に合ったらしい。
入り口に目を向けるとあれだけいた魔族や魔物は一匹も残っていなかった。
ただそこに殲滅王が立ち尽くしている。
「ボクの不在を狙うなんて随分と舐めた事をしてくれたね、グリード」
「チッ、もう来たのかよ……」
嫌そうな顔でアレンに顔を向けたグリードは全身傷だらけ。
レイさんとアカリも少しずつ怪我を負っているようで、所々に血が滲んでいた。
「ボクの仲間を傷つけた罪。その身で受けるといい。」
掌をグリードに向け何やら呪文を唱えだす。
しかしグリードも馬鹿正直に待っているだけではなく、アレンへと駆け出す。
「詠唱する前に殺してやるよぉぉアレェェン!!!」
「バニシングブラスト」
「なっっ!詠唱省略だと!?」
白い光は真っ直ぐグリードへと伸びていき、包み込む。
光が消えたその後には何も残らず、ただ掌を向けたアレンさんが立っているだけだった。
これが殲滅王か……圧倒的なまでの力。
「団長……助かりました。」
「レイもアカリもよく耐えてくれた。まずは負傷者を確認しよう。」
全員辺りを見渡したが団員は全て無事。
小さい傷は負っているがどれも命に別状はない。
「カナタくん、済まない……こんな傷を負わせてしまって……」
「いえ、間に合ってくれてよかったです。あのままだったら僕らは死んでいましたから」
実際リサが数秒遅ければ僕は死んでいた。
肩は魔法で治してもらえばそれでいい、感謝しかないのは他の皆も同じだった。
「誰か……誰かっ!こっちに来て!」
茜さんの声がし、振り返るとそこには白衣を血に染めた五木さんが倒れていた。
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