再会②
あの凄惨な事故から2ヶ月が経っただろうか。
各国は協力し、魔族殲滅に力を入れているが大きな戦果は未だない。
強力な兵器があったとしても、たった一体で国を相手取れる魔族相手では難しいだろう。
魔物の数は激減した。
高威力な兵器の前では魔物の防御はあまり役に立たない。
噂によると魔族は数百、魔物は数十万が世界各国に散らばっているとのこと。
魔神は異世界ゲートの側から動く気配はない。
事故以前から大きく変わったことがある。
それは諸悪の根源として城ヶ崎彼方へと憎悪の全てが向けられることとなったことだ。
そのお陰か、各国が協力しあうこととなったというのは皮肉だろうか。
この世界の人類が目指す終わりというのは、魔物魔族の殲滅及び彼方の処罰といったところか。
しかし、彼方の行方は知れず。
人類が躍起になって探しているが自国を守る必要もありあまりそちらに人を割けない事が原因となっている。
「と、ここまでがこの世界で起きている事柄だ。」
アレンさんは、僕の身の安全を危惧してか隠れ家から僕と紫音姉さんを出さないよう徹底している。
お互いに護衛はいるが、たった一人の護衛で守れるものなんてたかが知れている。
「よし、お前らに紹介しておく」
紅蓮さんがホテルの配膳で使うようなカートを3倍ほど大きくしたカートを押しながらやって来た。
上には大量の銃器が乗っている。
もちろん僕ら一般人はお目にかかれないものが大半である。
「1つずつ紹介していく。まず1つ目はこれだ」
両手で掴んだ銃は中学生の背丈はあるのではなかろうかというほどの長物。
「これは長距離対戦車ライフルだ。こいつなら分数センチのぶ厚い鉄板すらもブチ抜ける。」
魔物の硬い皮膚ですら貫通するのだろう。
「次にこれだ。まあ映画とかで見たことあるやつはいるだろ?RPG。ロケットランチャーだ」
重々しい見た目に皆は固唾をのむ。
「もちろん反動はやべぇからな、出来るだけガタイのいいヤツが使う武器だ。魔族の結界とやらにもダメージを与えられると思うぜ」
「次はこれだ。携帯式電磁加速誘導砲レールガン。貫通力だけならビルすらも向こう側が見えちまうくらいだ。」
それだけの威力があれば魔法障壁すら貫通しそうだ。
「次はこれ、高出力レーザーライフル。熱された物体は瞬時に溶ける代物だ。高価だし数も少ないからな、取り扱いに注意してくれ。」
これ1つでいいんじゃないかと思ってきたが口には出さない。
「それと最後に……ちょっと待ってろ」
そう言って紅蓮は奥の部屋に戻っていった。
各々武器を手に持ち眺めたりする。
暫くするとなにやら大きな兵器を持ってきた。
見た目はロケットランチャーのように見える。
「これは世界に1つしかない代物だ。試作型反重力放射火砲、その名もグラビティブラスト。」
それを聞いた五木さんは驚愕した声を出す。
「完成していたのか!?まだテスト段階だと思っていたが……」
「まあな。ちと伝手を辿って手に入れたやつだ。お目にかかる事すらレアだぜ?まあ俺もまだ撃ったことはないがな」
五木さんだけは知っている物のようだが、我々には何がすごいのかも分からない。
「ああ、皆さんには私が説明しましょう。」
五木さんが僕らの方を振り向く。
「これは、私が開発した反重力装置を応用した戦略兵器です。国と内密に制作していたのですがまさかここで見ることとなるとは……」
「あの……五木さん。これってどんな兵器なんですか?」
「ああ、言ってませんでしたね。これは重力波を強制的に発生させ圧縮した重力波を前方へと射出する兵器です。」
何を言ってるかよく分からなかったがとにかく凄いらしい。
「五木さん、これはどれ程の威力があるんだい?」
アレンさんはその凄い兵器の威力が一番気になっているようだ。
「そうですね……分かりやすく言えば……私の研究所、異世界ゲートがあるあの建物を丸ごと消し飛ばせるでしょう。」
なんだそれは。もはや魔法じゃないか。
発展しすぎた科学は魔法と区別が付かないとは言うがまさか本当に実現させるとは思わなかった。
「それは、恐ろしい兵器だね……でもとても頼もしい戦力じゃないか。使わないに越したことはないけれどそれほどの威力なら魔神にも通用するかもしれない。」
アレンさんはあまり使いたくなさそうだが、いざという時の切り札になるとのことだ。
「言っておくがこれは試作型だ。使い切りの兵器だと思ってくれ。つまり一発しか撃てないってわけだ。」
紅蓮さんが撃ったことがないというのも理解した。
「使い所が難しいけど、異世界ゲート奪還作戦に組み込んでおこう。」
これだけの装備があれば、魔力は節約しつつ異世界ゲートへと接近することができる。
「ねえねえ彼方、私これ使ってみたいかも!」
そう言ってレーザーライフルを手にニコニコしながら駆け寄ってくる紫音。
「いや姉さんはここでお留守番じゃないかな……?」
「なんでよ!魔法の才能がなかったら足手まといですか!そーですか!!」
アレンさんに魔法を教えてほしいと直談判したようだが才能がなく断られたらしい。
それで少し拗ねていたようだ。
「私だってこのレーザーライフルってやつ?使えば皆の役に立てるんだからね!紅蓮さん!私これ欲しいです!」
「ああ?まあ、欲しいならそれ使ってくれていいけどよ……高価だから壊すなよ?」
紅蓮さんも勢いに押されて、許可してしまっている。
五木さんも武器を見ているがもしかして一緒に戦うのか?
少し気になり声をかける。
「五木さんも一緒に行くんですか?」
「いやいや、私は戦えないよ。足手まといになっても申し訳ないからね。武器を見ているのは今後の開発の参考にしようと思ってね。」
どこまで行っても科学者らしい返答に納得する。
「彼方君は行くのだろう?無事に帰って来てくれよ、君に死なれたら研究も行き詰まってしまうからね。」
大らかに笑い僕の身を案じてくれた。
しかし結局の所無事に帰ってこれる保証はない。
だから僕はこう答えた。
「出来るだけ後悔しない選択をしようと思います。」
優しく頷くのを見て少しだけ胸が傷んだ。
研究所内、異世界ゲート前。
1人の男がじっとゲートを眺めて突っ立っている。
「まあ良くもこんなものが創れたものだな……」
感慨に浸っていたのは、魔人リンドール。
彼ですら感嘆を漏らすほど、異世界ゲートというものは常識外の物であった。
「リンドール様、偵察に出ていた魔族が戻りました。」
配下のゾラが恭しく膝を付きながら報告に来る。
その後ろには偵察に出ていた魔族が共に膝を付いている。
「報告しろ」
「はっ。黄金の旅団及びカナタの所在が判明いたしましたことをここに報告させて頂きます。」
「ほう、もう見つけたか。続けろ」
「廃工場の地下に隠れ家を作りそこに身を隠しておりました。」
見つからないわけだ。
まさか地下に隠れていたとは。
「即刻襲撃部隊を送り込め」
「リンドール様、奴らは全戦力がそこに集まっております。並大抵の戦力では蹴散らされるだけでしょう」
剣聖もその場に居るということか。
「ならばグリードを筆頭に部隊を編成せよ。」
「畏まりました。」
四天王の1人を付ければ、打撃を与えることが出来るだろう。
それすら出来ぬのならば奴はそれまでだったということだ。
我が軍勢に弱者は必要ない。
「それともう一つ報告が。」
「さっさと言え」
「世界各国へと散っていった我らの軍勢の約3割が全滅致しました。」
「ほう、やるではないか。この世界の武力では何もできぬと思っていたがなかなか楽しませてくれる。」
「ですがこの世界の軍は魔族に対してあまり戦果は挙げられていないようで、ほぼ全ての首都は半壊状態です。」
「所詮は人の子か。構わんそのまま殲滅を続けろ。」
魔神は不敵に笑い、ゾラに用意させた世界地図を見上げ呟く。
「時期、この世界は我が手に落ちる。人間よ……絶望せよ……」
世界各国では……
「防衛はどうなっている!!首都へと攻め込まれるとは何事だ!」
「申し訳ございません!我が軍は壊滅的打撃を受け数を減らしております!」
「魔族……だったか……化け物どもが……」
首都へと攻め込まれ、首脳陣は対策に追われていた。
想定外の戦力差により、軍はほぼ壊滅。
防衛もままならない状態へと陥っていた。
「全ての元凶は、あの異世界ゲートではないか!!あんな物……防衛大臣!あそこに核を落とせ!」
「それはいけません!!日本に核など落とせばそれこそ戦争になってしまいます!」
異世界ゲートさえなければ……それは全ての人間が思っている事ではあったが、今となってはもう手遅れである。
「日本へと繋げ、会談を行う。」
「既に繋いでおります。」
仕事の早い秘書官であることが唯一の救いに思えてくる。
「これは佐藤首相。ご無沙汰しておりました。」
「いえこちらこそ連絡が遅くなり申し訳ございません。」
「本題に入りますが、異世界ゲートの対策についてです。」
「ええ、そうですね。こちらもその手はずが整いましたので今世界各国へと連絡していた所でした。」
なにやら日本は既に動きがあるようだ。
「して、その内容とは?」
「異世界ゲート及び研究所に蔓延る魔物の軍勢に総攻撃を仕掛けます。」
「なんと!それは日本の総意でしょうか?」
「もはや国民の声を聞く余裕はありません。国家の意地をかけた戦いなのです。」
「全滅も覚悟と?」
「もちろん覚悟しております。ただこの悲劇を招いたのは日本の意志ではないということだけ覚えておいて頂きたい。」
「分かりました、では我が国も少ないですが支援を送りましょう。」
「それはありがたい。ではいい結果を報告出来ることを祈っていて頂ければと思います。」
会談はそこで終わった。
まさか日本が総攻撃を仕掛けるとは……
こちらが考えている以上に日本は追い込まれているのだろう。
異世界ゲートから溢れ出した魔物が最初に襲うのはもちろん日本だ。
壊滅的打撃を受けたのは簡単に想像がつく。
「将軍、我が国から日本に支援を送るとすればどれほどの物量が送れる?」
「一個大隊が1つ。それ以上は防衛に支障が出るでしょう。」
「すぐに送れ。日本だけが責任を負う必要はない。」
「畏まりました。」
これまで協力的な各国家間は少なく、何かと小競り合いが続いていたのに。
人類の敵が現れたお陰か、今は全世界が協力する姿勢だ。
「皮肉なものだな……」
佐藤首相のその呟きは誰にも聞きとられることはなかった。
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