忍び寄る悪意①
2044年1月1日
卒業が近くなり実験に関わるのももうじきだ。
そういえば春斗から連絡がないが、学校が休みのせいで会うこともほとんどない。
一度連絡してみようか。
…………4コール鳴らしても出ない。
待っていると
「はい、フェリスです。」
あれ?春斗じゃないのか?
「あの、この番号って春斗で合ってますよね」
「あ、カナタくん!ごめんねちょっと問題があってね。」
春斗に問題?何かあったのか。
「とりあえずカナタくん、今から会えるかな?」
フェリスさんからのお誘いだが、あまり嬉しくはないな。春斗に何があったのか気が気でならない。
「分かりました、駅前のレーベに行ったらいいですか?」
「そうね!そこに今から来てくれる?」
すぐに外行きの格好に着替えて、玄関を出た。
また駅までの道のり悪寒がしたが気にしていられない。
何か視線のようなものは感じるが、どこから見られているかは分からない。
気の所為と思おう、正直命を狙われる立場にある以上気にした方がいいのだろうが今は春斗のことが気がかりだ。
喫茶店レーベに入ると既にフェリスさんは着いていたようで、一番奥の席から手を降っている。
「すみません、お待たせしてしまって。」
「いいわよ、アタシもさっき来たとこだしね。」
白い髪に白いコートか、白がよく似合う人だ。
「それで春斗なんですが、何かあったのですか?」
「実はね……」
フェリスさんから聞いた内容は驚くべき内容だった。
一度敵の1人と出会ってしまったようで、その場で戦闘になったらしい。
しかし、相手は2人春斗は1人の為多勢に無勢で敗北。
大怪我を負って入院したとのこと。
「そんな……」
「でも安心して。アタシたちの仲間に回復魔法が使える者がいるから命に別状はないわ。」
それを聞いて安心した。
守ってくれる仲間というより、1人の友人として心配していたところだ。
とても不安そうな顔をしてしまっていたのだろう。
フェリスさんが慈愛の表情を見せてくれる。
「今から時間はあるかしら?」
「え?はいもちろん何も予定はありませんが」
「じゃあ今からアタシ達の拠点に招待するわね」
いきなり!?いきなりすぎて心の準備が……
と思っていたらすぐにお会計を済まし僕の手を取って外に出た。
ここから近いのだろうか。遠くても問題はないが僕は自慢じゃないが体力がない。筋トレというものをしたことがないし、勉強しかしたことがない。
「ここから歩いて10分もかからないところよ」
僕の気持ちを知ってからかフェリスさんが大体の距離を教えてくれた。
歩きながらフェリスさんに異世界のことを色々と聞いていたが、やはり魔法という概念が僕には理解ができず僕にも使えるのか不安要素が残ってしまった。
「この先に工場があって、その近くのゲストハウスみたいな家を借りてみんなで住んでるのよ。」
「20人皆でってなると楽しそうでいいですね」
「そうかしら?アタシ達の世界では割りとシェアすることが当たり前よ」
冒険者ってなると、やっぱり漫画やアニメのように行く先々が変わるし住むところも変わるようで、シェアハウスに住むことが一般的なようだ。
「伏せて!」
いきなりフェリスさんが叫ぶと同時に僕の足に蹴りを入れてきて強制的に伏せさせられた。
「いたぁ!」
伏せる前に僕の頭があった位置にナイフが飛んでくる。
危ない……フェリスさんの蹴りに感謝だな。
「不味いわね、カナタくん狙われてるわ。拠点はすぐ近くだから増援がくるまで2分。守り切ってみせるわ!」
「氷の絶壁!」
そんな言葉と共に目の前から巨大な氷の壁が競り建った。
「誰かは知らないけどアタシがいるタイミングで襲いかかってくるなんて命知らずにも程があるわね!」
頼もしい、なんて頼もしい台詞なんだ。
フェリスさんには絶対逆らわないでおこう。
数秒沈黙が訪れたが、少し離れたところから声が聞こえてきた。
「なるほど……氷の女王でしたか。これは相手が悪かったかもしれませんねぇ」
飄々とした態度で高身長な男が歩いてくる。
「あなたは何者?魔族のオーラを纏っているから敵には違いないでしょうけどね」
「御名答!」
長身の男が拍手をしながら近づいてくるが、フェリスさんは両手から冷気を纏ったレイピアを出現させる。
「お初にお目にかかります、ワタクシは高位魔族が1人四天王ゾラ・マクダインと申します。ゾラと呼んでいただいて結構。」
「黒翼の
出ろと言われても出ませんよ、と言わんばかりに首を縦に振る。
「ゾラ、あんたのトップはどこにいるの?」
「リンドール様ですか?あの御方はまだ表舞台には出てきませんよ。少なくとも異世界へのゲートが完成するまでは、ね。」
こちらを品定めするような目付きで凝視してくる。
恐ろしすぎて腰が抜けそうだ。
「アンタの相手はアタシよ!」
地面を強く蹴りゾラに向かって駆け出すフェリス。
それを見たゾラも何かしら唱えたと思ったら右手が悪魔のような腕に変化する。
「異世界へのゲートが完成するまでは手を出すなと言われていますが、少しくらい味見させて頂きたくて今回襲わせて頂きました。」
「そんな変態みたいなことさせるわけないだろうが!!」
フェリスさん、口調が……荒ぶっておられますよ……
フェリスさんのレイピアとゾラの右腕が交差すると激しい剣戟の音が聞こえだす。
僕には何をしているか見ていても分からないが激しく戦ってるようだ。
「荒れてるねーフェリスちゃん」
いきなり後ろから声がした為驚いて振り向くと、男が立っていた。
「君がカナタくんかな?拠点の近くで襲われてよかったよ、ボクが応援にこれたからね」
「あの、誰でしょうか?……」
誰かは分からないが少なくとも味方だろう。
敵なら後ろから刺してるだろうし。
「あ!ごめんごめん、ボクはアレン・トーマス。アレンって呼んでくれていいよ」
朗らかに笑う彼は、僕と同じくらいの年齢に見える。髪は白髪でチャラそうな見た目をしているがほんとに大丈夫なのか?
「初めまして城ヶ崎彼方です」
「もちろん知ってるよー君はボクらにとっての救世主だからね、フェリスちゃんが戦ってる間はボクが君の護衛となろう」
ありがたいがそのチャラそうな見た目はなんとかならないのか?守られてても不安しかない。
何分経っただろうか。
フェリスとゾラは激戦を繰り広げている。時たま激しい剣戟の音が聞こえてくるから見えない速度で戦っているんだろうな。
「やるねぇ、フェリスちゃん。四天王を相手に接戦してるよ」
「あのゾラってやつは強いんですか?」
「強いよ。少なくとも本気出されたらフェリスちゃんじゃ勝てないね」
フェリスも氷の女王とか二つ名がなかったか?
たしか異世界では強者に二つ名を付けるって聞いたけど、そんな彼女でも勝てない相手なのかヤツは。
「ま、僕なら勝てるけどね。せっかくフェリスちゃんがカナタくんに良いところ見せようと頑張ってるのに横取りはできないしねー」
そうなの?フェリスさんそうなんですか?
僕にとっては早くそいつを片付けてほしいんですが……
というかこのアレンって人はフェリスさんより強いのかよ。見た目だけなら弱そうなんだけどな。
「あ、もうすぐ終わるみたいだよ」
アレンがそういうと同時に音が鳴り止んだ。
フェリスさんは所々血を流しているがゾラは無傷のようだ。
「フェリスさん!大丈夫ですか!」
「こいつ!本気で戦えよ!手を抜きやがって!」
だめだ、フェリスさんが戦ってるときは声をかけてはいけないな。口調が荒ぶっておられる。
「あなたを相手に本気で戦ってしまうと後ろの方が出てこられてしまいますからねぇ」
ゾラにそう言われるとフェリスさんが振り向く。
「ア、アレン団長!見てたなら助けてくださいよ!」
団長?おいおいこの人団長かよ。めっちゃ偉い人じゃん……
「いやーフェリスちゃんがカナタくんに良いところ見せようと思って頑張ってたからさ、手を出しにくくって」
笑いながらフェリスさんに話しかける。
「な!べ、別にそんな気持ちで戦ってませんよ!!」
フェリスさんの顔がみるみるうちに赤くなる。
図星だったようだな、聞かなかったことにしておこう。
「そろそろここらでお暇させて頂きましょうか」
ゾラは大きな翼を広げると一気に羽ばたき空へと消えていった。
「あ!まてこらぁ!まだ決着はついてねぇぞ!!」
フェリスさんは相変わらず戦闘の熱が抜けきってなかったようで、レイピアを振り回しながら空に向かって叫んでいた。
「とりあえず終わったみたいだしボクらの拠点に行こうかカナタくん」
「はい、フェリスさんの手当もしないとですね。」
拠点に足を進めていると、プリプリしていたフェリスさんも次第に元の可愛らしい雰囲気に戻りしおらしくなっていた。
「ごめんね、カナタくん。アタシ戦闘になると人が変わるみたいで…」
知ってます。漣さんとの時にもう見てますから。
「大丈夫ですよ、誰だって熱くなるときはありますから」
「ありがとうカナタくん。優しいわね」
そう僕に微笑みかけるとすぐに前を向いて3人で拠点へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます