忍び寄る悪意②
「ここが拠点ですか。」
眼の前には大きな一軒家がそびえ立つ。
4階建てか?それにしてもお屋敷レベルのデカさがあるな。
20人も住んでいるのだからこれくらい大きくないとシェアハウスは無理か。
「さ、遠慮しないで入って入って」
アレンさんに背中を押されながら拠点の扉を開くと男女複数人が出迎えてくれた。
「いらっしゃーい!!」「あー!やっと来たー!」「フェリス血だらけじゃねぇか!」
各所からいろんな声が掛けられる中アレンさんが前に出て皆を静かにさせてくれた。
「まあまあお出迎えはこれくらいにして、とりあえず中に入ってもらうよ」
アレンさんの手招きで建物の奥へと足を進める。
「アタシは傷の手当してからそっちに行くから団長と先に行っててね」
そうだ、傷を負ったフェリスさんは手当がいる。
確か回復魔法が使える人が居るって言ってたな。僕は相槌を打ちアレンさんに着いていった。
「さあみんなお待ちかねカナタくんだ!」
いきなり僕を皆に紹介してくれたのはいいが、簡単すぎないか?
一応自分で挨拶はしておこう。
「初めまして城ヶ崎彼方と申します。皆さんは異世界から飛ばされたと聞きました。僕の知識が皆さんの助けになれるよう精一杯協力させて頂きます。」
そう言うと1人の男が声を張り上げる。
「固いぜカナタ!ハルトとは友達なんだろ?ならオレとも友達だぜ!!」
体育会系と思われる見た目と言動からして、僕と真逆のタイプと思われる。
「オレの名前はゼン・トランセル!ゼンでいいぜ!!」
「よろしくお願いしますゼンさん。」
「だからかてーのよ!タメ語で行こうぜ!それに22だろ?カナタ。オレも22なんだぜ?」
なんと、その見た目で同い歳だと?
分かるわけ無いだろう、どう見ても歳上じゃないか。
ただここは流れに乗っておこう。
仲良くなっておいて損はない。
「よろしく頼むよゼン」
「それでいいんだよ!カナタ!」
大きな口を開けてとても喜んでくれた。
この対応が一番合っていたみたいだな。
「退きなさいゴリラ」
開口一番悪口から始まったのは冷徹そうな見た目の女性。
「初めましてカナタくん、私はレイ・ストークス。レイでいいわ。」
「おい!誰がゴリラだ行き遅れが!!」
女性にそのワードは危険では……
と思ったら違う女性らに連れられていったゼン。
君もバカなんだな、春斗と同じか。
「ゴリラの言ったことは無視していいわ。それより何か困ったことがあったら私に言いなさい。副団長でもあるから他のメンバーより権力があるわ」
副団長だと?大体その団長とか副団長ってのは何なんだ。後でフェリスさんに聞こう。
そこからは個別に挨拶を行ッたが全員覚えられないくらいだ。
とりあえず今はゼン、レイさん、アレンさんだけ覚えておこう。
「さ、みんな挨拶は終わったかな?せっかくだしお寿司でも頼もうか。」
「ピザもー!」
どちらも食べたい。そういえばお昼御飯は食べてなかったからお腹が空いているな。
「カナタくんも遠慮しないで食べてくれよ。」
「ありがとうございます。」
皆が各々喋りつつ席に着いていく中、漣が近付いてきた。
「カナタくん、久しぶりだな」
「漣さんもここに住んでいたんですね。」
「ああ、あれから皆と一緒にいるほうが何かと都合がいいと言われてな。私もここに住むことにしたんだ。」
漣さんは機械音痴だからな。皆と一緒にいないとまた連絡がつかないなんて事になったらとても厄介な事になる。
何より貴重な剣聖という戦力でもある。
「そういえば、アレン団長と漣さんってどっちが強いんですか?」
「ふむ、よく聞かれる事でもあるがそうだな……恐らく本気で戦えば私が負けるだろう。」
ええ!?アレンさんあんな成りして漣さんより強いのか!?
「アレン団長はあれでも殲滅王なんて呼ばれているのよ」
レンさんから追加の説明をしてくれた。
「アレン団長はここにいるメンバー、いや異世界でも最強と呼ばれる3人の英雄がいるんだけれど、その内の1人だから多分誰も勝てないわ。」
あんな見た目だけどね。少しディスられつつも戦闘能力は誰もが認めるほどらしい。
殲滅王と呼ばれるくらいだからな、多分とんでもない魔法とか使うんだろうな。
「お寿司が届いたよー」
気の抜けたアレンさんの声で皆が玄関まで取りに行く。
僕も手伝おうと席を立とうとしたがレイさんに止められた。
「貴方はお客様よ、ここに居なさい。」
そう言われると何も言えず、ハイと返事をして座ったまま準備が出来るまでレイさんと雑談することにした。
「そういえば聞いてみたいことがあったんですが」
「なにかしら?私でわかる範囲で答えさせてもらうわよ。」
「僕も魔法って使えるようになりますか?」
そう聞いた途端、レイさんは固まってしまった。
聞いたらダメな内容だったのか?いやでも魔法は使ってみたいしな。
「とても申し訳ないけど、魔法は一朝一夕で覚えることはできないの。長い期間学習と訓練を経て初めて使えるようになるのよ。」
「てことは僕も学べば使えるようになるんですね?」
「ええもちろん。でも数日じゃ、無理よ?」
ふふふ、僕は天才と呼ばれた人間なんだ。
学ぶことに関しては誰よりも秀でている。
「僕はこれでも異世界へのゲートを作ろうとしている人間です。学ぶことに関しては問題はないかと」
レイさんは少し微笑みながら言葉を続ける。
「確かにそうね。貴方なら意外と直ぐに覚えれるかもしれないわ。私が教えていいんだけど生憎魔法は限定的にしか覚えてないの。」
てことは魔法に特化した人に学べばいいってことか。
「誰か魔法が得意な人っていますか?」
レイさんは困った顔で適任者の方へ指を向ける。
「アレン団長よ。団長はほぼ全ての魔法が使えるわ。ただしあの人は教えなくていいことまで教えるから適任とは言い切れないけど……」
煮えきらない返事だが、身近にそれも接しやすいアレンさんなら教えを受けてみたい。
「アレンさんに直談判してみます!」
「お待たせーってどうしたの?ボクの方を見て」
レイさんと二人してアレンさんを見ていたのに気づいたらしい。
「いえ、カナタくんが魔法を学んでみたいと……」
「え!なんだって!!本当かい!?」
なんて無邪気な笑顔を向けるんだ。
そこまでして誰かに魔法を教えたかったかな。
「はい、僕も魔法を使ってみたくて。アレンさんが適任とはだとレイさんから聞きました。」
「もちろん!任せてよ!ボクに使えない魔法なんてほとんどないし、なんでも教えられるよ!!」
頼もしい。アレンさん見た目はチャラいけど、魔法に関しては誰よりも秀でているみたいだ。
「団長、言っておきますが教える魔法は常識の範囲でお願いしますね?」
レイさんに詰められて汗をかきながらも分かったと返事をするアレンさん。
「どのみち自衛の為に魔法は教えておこうと思ってたんだ。ちょうどよかったよ」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします。」
「お寿司を食べたら早速やろうか!ちょうどすぐ近くの廃工場が誰も人が寄り付かなくて練習に最適なんだ!」
思ったらすぐ行動か。素晴らしい人だな、流石は団長と言われる器だ。
「ゼッッタイに常識の範囲で教えてくださいよ?団長」
レイさんから再三の忠告を受けたアレンさんは、何を教えようかな〜と楽しそうにお寿司を食べていた。
昼食後、アレンさんと廃工場に来た。
こんな所があったことすら知らなかったくらいだ、誰も寄り付かないというのも本当なんだろう。
それなりに大きい敷地、周りから隠れられる程大きな建物。
「さあ、カナタくん!まずはファイアーボールを覚えてみようか!」
アレンさんとの向き合う形で訓練を行うらしい。
「片手を突き出して掌をボクに向けてみて」
言われた通りに左手を突きだす。
「まずは魔力ってのを感じないといけないね。
左手の掌に集中してみて。目を瞑って力を蓄えるように意識しながら」
目を瞑り魔力というよく分からない力を感じる為意識を左手の掌に向ける。
すると何かが掌に纏わりつくような感覚があり、違和感を覚えた。
「アレンさん、何か左手に言葉で表せないような違和感があります」
「そう!それだよ!それを感じなければ魔力適性がないから覚えることは出来なかったんだけどまずは第1段階クリアおめでとう!」
嬉しそうに目を細めて、僕を称えてくれる。
「次はその感覚を忘れないようもう一度やってみて」
再度、左手に意識を向けると何かが纏わりつくような感覚になった。
「今だよ、火をイメージしてみて」
火?熱い、揺らめく炎、なんとなく自分が思い付く限りのイメージを思い描く。
「火が球になっていくイメージを」
そうか、ファイアーボールだから火の玉か。
火の玉が掌から産み出てくるようなイメージを思い描く。
「その火の玉が掌から勢いよく外側に向かって飛んでいくイメージを」
よくマンガとかで見る光景ってやつだな。
言われた通り頭の中でイメージしてみた。
「よし!そのイメージを持ったままファイアーボールと叫んでみよう!」
「ファイアーボール!!」
すると掌からアレンさんに向けて轟音と共に勢いよくボーリング大の火の玉が飛んでいく。
無から有を生み出す初めての試み。
こんな心躍る瞬間があったとは。
勢いよく飛んだ火の玉はアレンさんに結界に阻まれて弾けたが、今この瞬間僕が魔法を使ったことに変わりはない。
沈黙して自分の左手をじっと見つめるがいつもと変わりはない左手。
火傷もなくどんな原理が働いているのかも予想がつかない。
「おめでとう、カナタくん。君は魔法適性が異常に高いし飲み込みが早い。」
嬉しそうにアレンさんが近付いてくる。
自分の教え子が要領良く学んで結果を出せば誰でも嬉しいものだ。
「初級魔法とはいえたった1日で習得したのはボク以来かもしれないね。これなら上級もすぐに……」
なにやらブツブツ言い出したが、とりあえず僕にも魔法が使えることが分かって飛び上がりたいほど嬉しい。
「よし!レイには内緒で次の段階に移ろうか!」
いいのか?レイさん怒ったらとても怖そうだったが。
「大丈夫大丈夫!ボクが教えるんだ、稀代の魔法使いにしてあげようじゃないか!」
「お願いします。」
それから3時間みっちりと魔法について学び実施訓練まで行ったが、流石に上級は簡単にはいかず中級魔法まで使えるようにはなった。
「うん、これでカナタくんもある程度自衛はできるようになったかな。一度全力でボクに魔法をぶつけてみてくれる?」
大丈夫なのか?使い慣れない魔法で怪我をさせたなんてことになったらトラウマものだぞ。
「安心してくれていいよ、ボクはこれでも最強の一角と呼ばれているんだから、カナタくんの魔法で怪我を負うことはない」
自信満々の表情が僕を安心させてくれる。
「分かりました、いきます!」
習ったことを全てぶつけてみせる、アレンさんにもっと高度な魔法を教えてもらうために!
「解き放て!氷牙の鋭爪!アイシクルエッジ!」
左手に冷気を纏い、ドンドン周りの温度を奪っていく。
それがいつしか刃の形となり、鋭利な刃物へと変化していく。
ある程度の形が出来た段階で前に飛ばすイメージを頭の中に思い描く。
左腕を右から左へと振り抜いた瞬間、鋭利な刃物は前方へと弾丸のような速さで飛んでいく。
瞬きが終わらないうちにアレンさんの元へと辿り着いた氷の刃は、目に見えない何かに弾かれ砕けた。
「すごい!!ここまでの練度で魔法行使ができるなんて、これは教えがいがあるぞー」
攻撃を受けたにも関わらずとても嬉しそうな表情を浮かべるアレン。
カナタにも変化はあった。
それは疲労感。
全力疾走した後に起こる脱力感と足に力が入らない疲労感が一気に襲いかかってくる。
「おっとっと」
まっすぐ立つことも容易ではないほどに疲れたこれはなんなんだろうか。
「それは、魔力枯渇だね。慣れない魔法を一気に使ったもんだから体内の魔力が無くなっただけさ。」
少し休めば治るらしいが、これは結構しんどいぞ。
魔法を使うときは考えて使わないといけないな。
「安心していいよ、使えば使うほど魔力は増えるから訓練すればするほどその疲労感もなくなってくるからね」
そんなアレンさんの助言も途中から耳に入らなくなっていき、次第に目の前が真っ暗になるようにして、意識を手放した。
意識がなくなる直前にアレンさんの独り言が聞こえてくる。
「これは、レイに怒られるかもしれないなぁ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます