隠れていた存在③
「ハルトにフェリス、異世界の仲間にこんなとこで会えるとは思わなかった」
漣は味方だったようで、一安心したがさっきの一触即発を見ていればそんな呑気なことを言ってられない。
「レオン!お前なんで連絡がつかなくなってんだ!てか一ノ瀬漣ってなんだよ!レオンからレンに変えたってことか!?」
「す、すまない。私にとってはここが異世界。携帯の使い方もよく分からず飛ばされた当初は皆を探すより先にこの世界に順応しようと努力していたんだ」
漣はこの世界の道具に疎いようで、機械という物自体異世界には存在しないらしい。
春斗はすぐに順応したみたいだが、個人差があるみたいだ。
「それよりも剣聖が見つかってよかったわ。アタシたちだけじゃ正直あれに勝つのは無理だしね」
「確かにな、レオンじゃなかったら俺らも何人か死ぬレベルだしな。」
何か僕のよく分からない話が飛び交っている為、会話に入っていくのが難しい。
「ただまあこれで20人全員見つかった訳だ。これなら異世界に渡る物が出来ても安心だな」
「そうね、まだ完成した訳じゃないからカナタくんは絶対に守りきらないといけないけど。」
そうだ、僕を守ってくれ。
さっきみたいな戦いが敵と遭遇したら起こるんだろう?すぐに死んでしまうよ僕は。
「敵は何人生き残っている?私はこっちに来て3体は始末したが。」
「じゃああと5体だな。意外と少ないな!」
全然嬉しくないぞ。あんな戦いができて尚且悪意を持っている奴があと5体もいるんだろ。
「あの、すみません一つ聞いていいですか」
恐る恐る会話に入ろうと声をかけると漣が真っ先に反応した。
「本当にすまないことした。君が異世界人にとっての救世主とは知らずに怪我を負わせるところだった。」
「いえ、それはもういいんですけど……剣聖とか火炎魔人?とかってなんですか?」
そう、気になる単語があったんだ。
男なら誰でも気になるだろう、剣聖に火炎魔人。
「ああ、それなら簡単よ。レオンが剣聖と呼ばれる最強の剣士。ハルトが火炎魔人と呼ばれる程の火属性魔法の使い手」
お、恐ろしすぎる。春斗お前異世界では火炎魔人なんて呼ばれてたのか。おいそれとバカとか言えなくなっちゃったじゃないか。
「言っとくけどこのフェリスも二つ名持ちだぜ?」
「ちょっと!!!カナタくんの前で言わないで!」
それを聞いた春斗は喜々として発言する。
「氷の女王だぜ、ハッハッハッハ!!」
女王……確かにさっきの一喝した時はその片鱗を垣間見てしまったが……
「テメェ拠点に戻ったら覚えてろよ……」
顔を真っ赤にしたフェリスが春斗に小声で呟く。
やっぱり春斗はバカなんだな。帰ったらボコボコにされるんだろうな。
「彼方、言っておくがここにいるメンバー、それに飛んできた者達は異世界ではかなりの強者だ。魔神を倒すために旅に出たんだからな。」
魔族を討伐する旅に出たとは春斗に聞いていたが魔神とは聞いていないぞ。え、てことはこっちに魔神も来てるってことじゃないか。
なんて恐ろしい……春斗……先に言えよそれは。
「そういうことだぜカナタ。さっき言ってた死人が出る相手っててのがその魔神のことだ」
「魔神は私が相手をするつもりだ。私でも勝てるかは分からないが確実に異世界へ渡る物が出来たらその場に現れるだろう」
漣は剣聖とのことだが、そんな人でも勝てるか分からない奴がこの世界にいるのか。
これは実験時に全員来てもらわないと危なすぎる。
話題は尽きないが、ここでずっと話しておくわけにもいかず1時間もすれば解散となった。
「カナタくん、今度また会うけどこれ持っててくれる?」
フェリスから白い宝石をいれた袋を手渡される。
「なんですかこれ?」
「これね、一度だけ命の危険が迫ったときに氷の膜が自分を守ってくれるの。貴方には死んでもらっては困るからねこれで少しでも時間を稼いで私達に連絡を頂戴。」
これは素晴らしい。女性から物を貰うことすら嬉しいが、何より自分の命を魔法という脅威から守ることのできる唯一の道具だ。
「ありがとうございます!!めちゃめちゃ嬉しいです!!」
「そ、そう?よかったわ」
はにかんだ笑顔を時たま見せてくるのはわざとか?可愛過ぎるじゃないか。
それは置いといて、漣は春斗達と連絡を取り合えるようにしたみたいだ。
僕にとっては一つ肩の荷が降りた気分だ。
電車を降りて帰路に着く際、嫌な悪寒を感じた。
周りを見渡しても誰もいない。
でも確かに視線を感じたんだが、気のせいだろうか。
「ただいまー」
「おかえりー!!」
元気ない声が帰ってきた、今日は姉さんが帰ってくるのが早いみたいだ。
「どこに行ってたのカナタ?」
どこと言われてもなんて答えたらいいのか。
「レーベっていう喫茶店だよ」
「一人で?」
今日は突っ込んでくるな。
さては姉さん、暇だな?僕を相手にして暇潰そうって考えか。
「一人だよ。たまには一人でのんびりミルクティーを嗜みたくてね」
「私も行きたかったなー、今度連れてってよ!」
「いいよ、雰囲気がすごくお洒落だっから姉さんも気に入ると思うよ」
他愛もない会話をしているが、頭の片隅には先程の戦闘になりかけた場面がよぎる。
あんな戦いに巻き込まれれば僕なんかひとたまりもない、やっぱり今度春斗の仲間達に会った際魔法を教えてもらえないか頼むとしよう。
自衛くらいできないとただの足手まといになってしまう。
でも姉さんは巻き込むわけにはいかない。だから話せないんだ、ごめんよ。
こうしてこの世界の平和な1日が終わっていく。
「あれがカナタという男か、ただの人間にしては気配に鋭いようだな」
「リンドール様、カナタはこちらに気づいてはおりません。今は誰も護衛に付いていないようですので始末致しますか?」
黒いスーツを着た男二人が遠くから彼方を見つめながら何やら話をしていた。
「バカか貴様は。異世界へのゲートを作ってもらわなければ我々も帰れんだろうが」
「も、申し訳ございません!」
リンドールという男に小柄な男が膝を付き頭を垂れる。
「あれが完成次第、カナタを葬り剣聖共を蹴散らして仲間を呼ぶぞ」
「ではこの世界を支配されるおつもりですか?」
「無論、そのつもりだ。お前達も各個撃破されるような無能を晒すなよ」
「はっ!相手は20人。こちらは5人しかおりませんので力を蓄えておきます。」
不穏な影は彼方の知らぬところで動き出していた。
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