隠れていた存在②

一ノ瀬漣から貰った名刺に連絡をすると3コールで電話に出た。

暇なのか?

「誰だ、この番号を知っているということはプライベート用の名刺を渡した者だ、カナタか?」

なんだ?プライベート用って。

プライベート用の名刺なんて初めて聞いたぞ。

「一ノ瀬漣さんですか?カナタです。」

「やはりそうか。それで?ここに掛けてきた理由は?」

淡々としているなこの人は。

でも聞かないことには始まらない。

「異世界の事で聞きたいことがあります。」

「……………………分かった。明日の12時にレーベでいいか?」

レーベって駅前にある喫茶店の事かな。

えらくお洒落な所を選ぶんだなこの人。

「分かりました。」

「一人で来いよ」

それだけ言うと電話が切れた。

一人で来いとはどういうことだろうか。やっぱり誰にも気づかれず僕を始末するつもりか?

春斗に伝えたほうがいいかも知れないな。


携帯で春斗の番号を探す。

春斗(元気バカ)

なんて酷い名前なんだ。付けた僕が言うのもなんだが神風春斗に直しておこう。

これから長い付き合いになりそうだしな。

「もしもし、どうしたカナタ」

「春斗ちょっと相談がある」

「なに!?相談だと!待ってろ家に行く!」

何を勘違いしたか分からないが、僕に何かあったと思ったのだろう。

すぐに電話は切れたが、とりあえず家で待っておいたらいいか。

しばらくするとインターホンが鳴る。

「カナター!来たぜー!!!」

速いな、電話してから10分しか経ってないぞ?

魔法か?魔法の力なのか?

そんなの僕も使いたいじゃないか!

扉を開けると満面の笑みを浮かべて立っていた。

「相談だって?何でも聞いてこい!」

僕から相談なんてしたことがなかったから相当嬉しかったらしい。

リビングに上がってもらいお茶を出す。

「それで?何が聞きたいんだ?」

「まずはこれを見てくれ」

一ノ瀬漣から貰った名刺をテーブルに置くと怪訝そうな顔を浮かべる。

「なんだこれ?ん?少し魔力を感じるな。これどこで手に入れたんだ?」

「一ノ瀬漣って人がいるんだけど……」

漣との遭遇、その後会話した内容を細かく伝える。

「なるほどな、確かにこれは異世界絡みだ。俺に相談して正解かもしれんな」

「やっぱり?とりあえず明日会うんだけど一人で来いって言われててどうしたらいいか相談したかったんだ」

「一人で来いってのが怖いところだな。実際漣ってやつが味方でカナタを敵と見なしていて、仲間を連れてこられると不味いからって理由にも捉えられる。ただ漣が敵で仲間を呼ばれるとカナタを始末できないっていう風にも捉えられる。」

「結論は敵か味方か分からないってことか……」

やはりこれだけだと春斗にも敵味方の判断は付けられないらしい。

「とにかく、明日は俺が隠れて付いていってやるよ。流石にこの漣ってやつとカナタを二人きりにするのは不味いだろう。ついでに仲間の一人も明日は暇してるはずだから連れて行く」

「ありがとう、心強いよ」

春斗に相談して良かった。

これで安心して明日に望むことができる。


翌日、12時前に駅についた僕は当たりを見回したがどこにも漣の姿は見当たらない。

もちろん春斗とその仲間も何処にいるか分からないが何処かに隠れてはいるのだろう。

レーベに到着し、中に入るとまだ来ていないようで先にテーブルへ案内された。

「すみません、ミルクティーを一つ」

「畏まりました」

店員と一言二言やり取りし窓の外を眺める。

やはり見当たらないな春斗は、魔法の力だなこれは。

カランコロン

店のドアが開く音がして、そちらに顔を向けると見知った顔が見えた。

一ノ瀬漣が来たようだ。

「すまない待たせたな。」

「いえ僕もさっき来たところです。」

社交辞令を交わし漣が席についた。

「それで、異世界の話とはなんだ」

直球で聞いてきたな。気になっていたようでソワソワしてるようにも見える。

「では率直に聞きます。一ノ瀬漣さんあなたは異世界から飛ばされて来ましたね?」


その瞬間当たりが凍りついたように音がなくなった。


「え?」


無意識に口から出た言葉はそれだけ。

それ以上に今の状況が理解できない。

周りの人が、時計が、音が、止まっている。

マズい!核心をつき過ぎたようだ。

直ぐに逃げる準備を行おうとするが足が動かない。

「逃げることは出来ないぞ」

漣がこちらを見定めるようにまっすぐ見つめてくる。

「悪いが結界を張らせて貰った。この世界では元の世界に比べるといくらか力が落ちてしまうようだが私にとってはこれくらいは造作もない事だ」

時を止める結界なのか?これが造作もない?

想定していた以上に漣は強者のようだ。

「言葉は発せられるはずだ。お前は魔族の仲間か?」

「ち、違います……」

絞り出すように声を出す。漣は僕のことを魔族の仲間と思っていたみたいだ。

元の世界に帰るために魔族が僕を利用していたと考えているのだろう。

「僕は春斗の仲間です……。」

そう言うと漣は、怪訝な顔を浮かべる。

「なんだと?なぜハルトの名前を知っている」

僕が答えようとした瞬間。

ガラスが割れるような音が周囲から聞こえ薄い板を破るような激しい音と共に春斗が飛び込んできた。

「カナタぁぁぁぁ!!」

春斗の声だ!いつもならうるさかった大声が今はただただ頼もしい。

「春斗!!!ここだ!!!」

僕も力の限り叫び自らの場所を伝える。

「放て!!ファイアストーム!!」

「ま!待て!こんな所で使う魔法じゃない!!」

漣がかなり焦っているようだ。

額に汗が滲んでいる。

「私だ!!レオンハルト・レインだ!」

なんだ?一ノ瀬漣さんの偽名か?

その名前を聞いた春斗が動きを止めた。

「レオンハルト?剣聖か?」

「そうだ!火炎魔人!お前と共に戦っていただろう!」

聞き慣れない単語が飛び交う中、春斗の後ろに一人の女性が立っている。

誰だ?見たことがないが整った顔立ちをしている。

「ハルト、この人は本物の剣聖よ。双方武器を収めなさい!」

武器?そんなもの出していたか?

よく見れば漣の手には剣、春斗の手には武器じゃない炎を纏った何かがある。

「フェリス!本当か!?」

春斗も疑って掛かるようだが、このフェリスと呼ばれた人は気が強いようだ。

「アタシが言ってんのよ!サッサと武器をしまえ!」

一喝された春斗は渋々魔法を掻き消しいつもの状態に戻った。

同じく漣もいつの間にか握っていた剣を消したようで、何食わぬ顔で突っ立っている。

「とりあえず結界が完全に解けきる前に席に着け」

漣にそう言われた春斗とフェリスと呼ばれた女性は席に着く。

「い、一体今のはなんなんだ?春斗」

意を決して僕が口を開くと同時にフェリスからも言葉が飛ぶ。

「貴方がカナタさんね!初めまして!アタシはフェリス、フェリス・クラウドよ!フェリスって呼んでくれていいからね!」

さっきまでとは別人じゃないか。

白い髪に幼さが残る顔立ち。

なんて可愛らしい笑顔を作るんだ、そんなの反則だろう。

でもさっきの形相は怖かったからそれは忘れないでおこう。

「初めまして、城ヶ崎彼方です。春斗の仲間ですか?」

「そうよ!ハルトと同じ異世界から飛ばされて来た冒険者よ。それよりも貴方に会いたかったの!ホントにありがとう!一生元の世界には帰れないと思っていたから……」

少し涙目を浮かべて僕の手を握る。

やめろ、僕は女性に免疫がないんだ。そんなことされたら顔が熱くなってくる。

「おいフェリス。前にも言ったろ、カナタは女に免疫がないから触れるなよって」

おい、僕はウイルスか何かか?

「あ、ごめんなさい。つい嬉しくって」

可愛いから許す。

「いえ、大丈夫です。それよりも…」

漣を見ると黙ってこちらを見ていた。

「いつ私に話を振ってくるのか待っていたぞ」

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