隠れていた存在①
「お邪魔しまーす!」
元気な声を張り上げる春斗。
家には誰もいないが性格的なところだろう。
「ただいま」
僕も習って無人の家に挨拶をする。
「で、いきなりだが腹が減ったな!!楽しみにしてるぜカナタの料理!」
本能に忠実な奴め。
仕方ない、ここは腕によりをかけて料理を振る舞ってやろうじゃないか。
「じゃあリビングで寛いでてくれ。和食好きだろ?」
「めっちゃ和食好き!俺も手伝うぜ!」
いや手伝う気持ちは嬉しいが、やめてもらおう。
料理は僕の趣味の一つなんだ。邪魔になる。
「いやいいよ、テレビでも見て暇つぶしておいてくれ」
そう言いつつ僕は台所に向かう。
とりあえずメニューは肉じゃが、鶏肉の照り焼き、魚の煮付けってとこかな。
早速料理に取り掛かるが、ふとリビングの方に意識を向けると春斗が誰かと電話しているようだ。
「いや……まだ……い、聞いて……る」
所々しか聞こえないが、何やら真面目な会話らしい。
春斗にしては珍しく声のトーンが低いから恐らくバイト先とかと連絡でもしているのだろう。
「お、出来た出来た。」
つい独り言を呟きつつリビングに料理を持っていく。
「うわー!めっちゃ美味しそうな匂いに見た目!もう食べなくても美味いって分かるな!!」
そりゃそうだ、なにせ僕が本気で作ったのだから。
「いただきまーす!」
二人の声が重なる。春斗もよほど腹が減っていたのだろう、がっつくように食べている。
やっぱり美味しいな。
我ながら思うが料理で仕事できるんじゃないか?天才に不可能はないというしな。
「それでさ、異世界なんちゃらってやつなんだけど」
おもむろに春斗が口を開く。
「異世界へのアクセス方法のことか?」
「そう、それなんだけどさ実際行けそうなのか?」
なぜこんなことを聞くのだろう、と考えたが春斗の事だ。異世界に行きたい!とかそんな気持ちで聞いてきたのだろうと思い僕は答える。
「行けるよ。理論上だけど僕の理論は完璧に出来ているし五木さんのお墨付きだぞ」
「そうか。ならさ、もし異世界と繋がったとして向こうから何か得体の知れない者がやって来るとかないのか?」
確かにそうだ。もし異世界に繋がったとしても向こうが平和的に接してくるとは限らない。
だがもちろんそれも織り込み済みで考えている。
「いや、実際は繋がってみないと分からないけど、念の為に実験時には軍の人に待機してもらうつもりだよ」
そうは言ったが、先日一ノ瀬漣という男から言われた言葉が頭をよぎる。
後悔することになるぞ……
それが気がかりだが、軍で対応できないのならばそもそも侵略されて地球が滅ぶ前に人類は滅ぼされる事になる。
「軍か。勝てるのか?もし化け物が出てきたらどうするよ?」
「勝てる勝てないじゃない、やるしかないんだ。」
強気な発言に春斗も戸惑いを見せる。
「やるしかないって……まあお前が怪我したりはやめてくれよ?俺が泣くぞ」
春斗……ほんとに良いやつだな。僕の為に泣いてくれるのか。
「ありがとう、でも大丈夫だよ。念には念を入れて繋がったとしてもすぐに閉じることができるよう機構を組み込むつもりなんだ」
そんな会話のやり取りをしていると、春斗の携帯が鳴る。
「おっと、すまん!ちょっと電話してくるな!」
「ここで電話してもいいけど」
言い終わる前にリビングを出ていく春斗。
いつもならその場で悪い!って言いながらも電話に出るんだけどな。
また途切れ途切れで聞こえてくる。
「ああ……るみたいだ、どう……打ち明け……」
打ち上げ?バイトの飲み会でもあるのか?
「いや……対応……しっかり……でも……危険……る」
なにやら不穏な会話のようだな、盗み聞きはここまでにしておこう。
台所に食器を持っていき洗っていると
「ごめんな、ちょっと真面目な話いいか?」
春斗の表情は固い、なにやら大事な話のようだ。
食器を洗うのもそこそこにリビングで春斗と向き合う。
「実はな、俺は異世界から来た人間なんだ」
「は?」
意味がわからない。何を言っているんだ?
あまりに突拍子な発言に面を食らう。
「もちろんこの言葉だけで信じてくれっていうのも無理な話だろう、これを見てくれ」
右手を突き出したと思ったら、掌から炎が出た。
こんな手の込んだマジックをするために今日は家に来たのか?とも思ったが流石に春斗でもここまではしない。
「本物?なのか?魔法ってやつか?」
「異世界には魔法が存在する。おれは火属性の魔法が得意でなこうやって何もない所から火を出せるんだ」
有り得ない。
無から有を生み出すことは不可能だ。
科学で証明ができない、つまりこれは本物の魔法というやつなのか。
「ハハ……またなんで急にそんなカミングアウトをしたんだ?こんなの世間にバレたら洒落にならないぞ」
もちろん僕以外に見られたら不味いことになる。
魔法という概念が存在することになれば、今までの物理法則が変わってしまう。
「カミングアウトしたには理由がある。カナタ、お前の異世界へと渡る方法とやらが確立しそうだからだ」
そこから春斗の長い話が始まった。
なんでも、異世界で冒険者として名を馳せていた春斗は魔族と呼ばれる邪悪な存在を討伐するために旅に出たらしい。
戦闘になり敵味方入り交じる混戦となった時、敵が使った時空魔法が暴発したせいでその場にいたほぼ全ての生物が別世界へと飛ばされたらしい。
飛ばされた先がここ地球だったそうだ。
それからは素性を隠し一般人に紛れて仲間と連絡は取りつつ生活をしていた所に、僕が異世界へと渡る方法を発表したせいで異世界から飛ばされた者たちは大騒ぎしているとの事だ。
「なるほど……大体は理解したけどそれで僕に何をして欲しいんだ?」
「俺達は元の世界に帰りたい、が繋がった瞬間魔族が流れ込んでくる恐れがある。」
まあそうだろうな、元の世界に帰りたい気持ちはわかる。
だから今日僕の家に来たってわけか。
「繋がったら帰してあげれるよ。駄目だなんて言うと思ったのか?」
「いや、一応全ての権利は生み出したカナタにあるんだしさ断られたらどうしようとは考えていたんだぜ?」
「それで、懸念があるんだろ?繋がった瞬間に魔族が流れ込んでくるってやつ」
繋がった瞬間魔族が流れ込んできたら、軍では対処できないだろう。
さっき見たような魔法が存在するなら現代の武器は通用しないと思う。
「そこで、俺達が守るって訳よ!俺達なら魔族に対抗できるしな」
確かに春斗に協力してもらえば何かあってもなんとかなりそうだが、春斗の仲間はどうするんだろうか。
「春斗以外にどれほどの仲間がこっちの世界に来たんだ?」
「思ってたより多いぜ?20人がこっちに来ている」
多いな。数人だと思っていたが討伐に出たくらいだからそれくらいにはなるか。
「ちなみに巻き込まれたのは味方だけじゃなくて敵もなんだろ?」
「そうだ、それが厄介なんだよ。一応こっちで暗躍しつつ討伐はしてるんだがな、まだ数体生き残ってる」
それは危険だな……立証実験の際に妨害してくるなら危なすぎる。
味方が多いとはいえ、敵の戦闘能力も馬鹿には出来ないはずだ。
「てことは実験の時に妨害してくるってことだな?」
「そう、それが俺達の一番の懸念なんだよ……もちろん俺はカナタを最優先で守るつもりではいるが敵にはかなりの強敵がいるんだ……」
「味方の方が数が多いのにその敵とやらのほうが強いのか?」
「強い。対抗できるやつが一人だけいるんだけどな、こっちの世界に飛ばされてるはずなんだがまだどこにいるか掴めていないんだ」
そうか、20人全てを把握できている訳では無いのか。
「まだ実験まで半年はある、探しきれないか?僕も伝手を使う」
「無理だぜ。なにより名前も見た目も変えてるはずだからな、まずどうやって探すつもりだ?」
魔法……厄介すぎるな。
こんな時にまで力を発揮しなくていい。
「とにかく一度仲間に会ってほしい、みんなカナタに会いたがっているんだ。」
「分かった。いつ何処で会うかは春斗に任せるよ」
「よし!任せとけ!また連絡するぜ!今日は料理御馳走様、ありがとな!仲間の皆も元の世界に帰れる可能性が出たから早く会いたいって言ってたしな。」
こんな身近に異世界は存在すると立証できる存在がいたとはな。
それよりもこっちの世界に来ている敵の存在が気がかりだな。
まさか、あの一ノ瀬漣って男は敵なのか?
少なくともあの口ぶりだと異世界から来た者に違いはないだろう。
確か名刺があったはず、連絡してみるか。
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