第16話 呪いの終了

 箱を閉じて間もなく、どこからともなく、けたたましい耳をつんざくようような轟音が鳴り響いた。それはこの建物が根元から崩れていくような、崩壊を意味しているような音であった。俺はこれを受けて、あることを思った。呪いが無くなるという事は、霊子の存在もなくなってしまうということなのではないかと。そう思い、カメラを見ると、彼女の様子が変だった。

「呪ってやる…お前も、何もかも。」

 物騒なことを言いながら、どんどん近づいてくる。おどろおどろしいとはまさにこのことだった。

「どうした?!これも呪いか!」

 呪いの鎮まりと言うのがそのままの意味だと思い込んでいた。俺は手遅れになったような焦燥感のまま、今できることを必死に考えた。

「わっはっはっは!引っ掛かった!びっくりし過ぎや。ほら、あの映画みたいやろ?」

 初めて見た時から彷彿とはしていた。それを根源であるこいつがやってしまうとは。そういうオマージュはともすれば面倒なんだ。

「タチが悪すぎる。消すところだった。何がしたいんだ。」

 ただでさえ負傷して疲れているというのに、変な気苦労を掛けてしまった。

「この前のお返しや。それに、私も終わってしまうみたいやねん。最後くらい、笑い合いたいなあって。ほら、なんかもっと白成ってるやろ?」

 彼女の行動は、俺の予測した経緯に則していた。呪いが無くなっていく事で、彼女が望もうが望まないが、消えることになるのだ。

「そっか。霊子、後悔はないのか?」

 彼女がそうだと言うのなら、大団円だと言えるのだろうか。この事件は、あまりに犠牲者が多かった。

「ないない。まさか解決しちゃうなんてねー。連続殺人事件、これにて終幕!そういう敦はどうなん?」

 もう死んでいると言うのに、霊子はこれ見よがしに伸びをし、朗らかな表情を見せた。

「後悔だらけだ。冗談でもなんでもなく、最悪な日々だった。変なもんは拾うべきじゃないな。だが、まあ、俺自身の目標は達成した。」

 何度でも言うが、カメラを拾ったあの選択が正しかったとは断言できない。どんな結果で終わってたとしても、こいつのように明るい表情ではいられなかった。

「え?目標?やっぱり、私のためだけじゃないもんな?聞いても良い?」

 数秒経つと、既に彼女は体の自由が利かなくなったらしい。へなへなと自転車置き場に当たる位置に腰掛け、静かに話した。

「前の大学の話。小さなことだ。次は絶対に蔑ろにはしないってな。さあ、さようならだ。楽しくはあったぞ。」

 立場が逆だって言うのは、説明するのが億劫だ。冥土に閻魔様がいるというのなら、その時に聞けばいいさ。傷の痛みに顔を歪ませながらも、口元を緩めた。

「ああ、あれね。長生きしてな。次は、危険にわざわざ近づかんように。私もや。」

 彼女も笑った。すると、カメラの画面が物凄く高い位置から投げ落としたかのように音を立てて割れ、カメラが煙を上げた。これはもう修理は不可能だろう。

 俺は建物から出て、後始末のことを考えた。朝日が出るような時間帯ではなかったが、今日は一段と明るい気がした。

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