第5話 次へ

 車での帰り道、胸糞の悪さを抱えたまま言葉を交わし始めた。死体だ。あんなもの、日常的に目に入って来るようなものではない。ショックは大きかった。

「あのおっさん、私らの事なんやと思ってるんや。あれは当てにできへんで。」

 霊子から最初に出てきたのは愚痴だ。今回は失敗と言う結果だったが、それありきで行動をしていたため、凹んではいなかった。

「果たしてそうだろうか。ある種の信頼はあるんじゃないか。」

 運転に集中しつつも言葉を返した。田舎は道が狭く、明かりが少ないため不便だ。

「なんでそうなるん?」

 俺の答えに対して、霊子は疑問を浮かべた。

「俺たちに死体を見せて何の得がある?俺たちが慌てて通報するかもしれない。あの顔、どうしても自分で犯人を追い詰めるって顔だった。俺たちが下手な行動に出ないと知っていなければ、意味の分からないリスクは負わないはずだ。今回の場合、俺たちが通報できないのは、あらかじめ知っていたという危険な供述と、徒労に終わるであろう機関に捜査を委託できないという事情を持っているためだ。あのおっさんは俺たちが無暗な行動を取れないことを分かってたんじゃないのか?」

 今までだって捕まっていないのなら、報告が挙がっても期待できないというのが一般の考えだ。そこに身を投じるとなれば、情報を如何に扱うかには慎重にならざるを得ない。

「言われてみれば…けど、納得いかんわ。ペーペーが情報を取得できたって思うんなら、協力する可能性だってあるはずやん。頑固は頑固やで。」

 いつもを知っているわけではないが、霊子はいつも通りではなかった。自分が積年の思いを持っていただけ、無能みたいなレッテルを叩きつけられたのは許せないのだろう。

「気持ちはわかる。だが、俺たちの敵はあいつじゃない。今は考えたって仕方ない。それより、お前について教えてくれ。事件との関りと、その顛末を。」

 分かり合えない人間はどこにだっている。結構、人は自分が正しいと思う傾向にあり、相手の倫理観に問題があると思いがちだが、大体の場合はどちらも正当性を含んでいたりする。今はそんなことより、事件に生きるしかなかったこいつのことを知りたかった。俺が関わるとなったんだから、その道は知っておきたい。

「せやな。私のこと興味ないと思ってた。いや、変な意味じゃなくてな。私の弟は、十七年くらい前のこと。一週間くらい行方不明になった後、死体で見つかった。弟とは昔からむっちゃ仲良くてさ、殆ど喧嘩もせんくてさ。やからホンマに死のうかと思うくらいしんどくて。それからずっと追うことに身を捧げた。んで、笑ってええで?急にある日に鉄骨かなんか降って来て死んだんやわ。もうついてないわー。

 ああ、事件についてやな?連続殺人事件が確認されたのは、弟が死んだ後。あの一帯で連続して死体が発見されて、同一犯であることまでが特定された。犯人に関する情報は今の所一切出てないのと同じ。あの辺やったら都市伝説になってるくらい。曰く付きって言ったやろ?一応そう言う理由もあんねん。私は、あまりにも足が付かへんから怨霊の類でもおかしくはないと思ってる。こんな地縛霊や念写があるんやったら。」

 昔について語ってくれた。しかし、事件を深く知る事は出来ず、こいつもまた、何にも触れることができなかったために、死んだこと以外が不鮮明だと解った。

「お前の癒しになるようなことは言えないが、大変だったんだな。この念写があれば、行き着けなかったところにも行けるだろう。それに、お前の推理はなかなかだ。人生を捧げただけある。まだ、少し遠いが、気長にやろう。」

 このカメラを拾ったことに後悔がないかと言われれば首を素直に縦には触れないが、自分の身になる経験ができている節があることも、嘘ではないだろう。

「お願いした手前、こんなこと言うのはどうかと思うけど、どうしても付き合いきれん事情があるんやったら、前言ってたみたいに捨ててくれてかまへんで?」

 やはり未練が強く、ただその思いに縛られているわけではないみたいだ。ここまで堅実だと、逆に見捨てるのが悲しくもなってくる。せめてどんな形でも解決に寄せたいと思った。

 次の念写も、同じようにどこかの土地が写り、表した。次の方針は難しく、当然俺たちはそこに向かうのだが、一回目に犯人を追う手がかりを得られなかったことと、念写が被害者の死亡時刻を指しているという仮定が厄介だった。現場を抑えるためにはこの上ないリスクを孕んでいる。きっと場所については殺害現場であるだろうし、その場所を事前にマークすることは非常に難しい。前もって犯人がこちらの動向へ感づけば、行動が変わる可能性があった。その場合も失敗という形になるのか、今の俺では分からない。最初の念写はブレたものになり、傾向には沿っていたが、それは例によってでしかないのだ。

 それでも、がむしゃらに、事件に関わっていくと俺たちは決めた。次も、事件発生となる場所へとこの身を動かすことになるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る