第3話 事件発生

「本日、午後四時頃、〇県、××市、Dアパートで長谷川 芳一(56歳 男性)さんが遺体となって発見されました。以前より行方不明となっていた長谷川さんを、捜索隊が調べに入った所、発見されました。遺体や周辺の物品には指紋が見られず、犯人の特定はできておりません。遺体の特徴から、相次いで発生している連続殺人事件と関連性があるとして、警察は動いています。」

 カメラを拾ってからの数日間、何気なくテレビも見ていた。この日も特に意識してテレビを点けていたわけではなかった。しかし、時刻と取材陣が映す情景に見覚えがあることを意識してしまい、息を飲んだ。部屋の様相は写されなかったものの、窓やマンションの形は記憶の中にあった。

「どういうことだ?!おい、霊子!見えるか?あの写真、時間帯もぴったりだ。まさかとは思うが…」

 俺はカメラを起動し、霊子に見えるようにテレビにそれを翳した。気のせいや早とちりであって欲しいものだ。

「これって。凄い!念写ってやつや!」

 俺とは違い、霊子は喜んだような様子で手を叩いていた。その反応を見て、俺の気のせいなどではないと感じ取ったが、恐ろしい気持ちになってくる。

「念写?何を言ってるんだ?」

 アニメとかでなら聞いたことがあるが、それが一体何を指す言葉なのかは、正直ピンと来ていない。

「普通は撮れないようなものを念力で撮ってしまうってやつ。これ、もしかするとこれから起こる事件について念写されたんやない?待って、次の写真見てや。なんか…わかってきたかも。」

 興奮した様子が続き、次に我に戻ったように彼女はまた左側を指で指した。俺にはさっぱりだ。何か良からぬことが起ころうとしているとしか解らない。

「あれ?ブラーが掛かっちまってる。」

 前に見た時とは明らかに違った。元の写真を知っているから、色合いでその写真だと判別できるが、俺が撮っていない写真同様、ブレにブレて何も映っていないのと変わらないものに成っていた。

「あのさ、推測でしかないけどさ、この前にあった写真とかって事件が解決されなかったからそうなったんじゃない?今回も解決に至らへんかったから、こんな風になっちゃったとか。なんかそんな気がするんよ。やったらやばない?事件を事前に知れるってことやん。」

 戻ると、彼女が言った。その推理が正しいのかは置いて置いて、妙に説得力があるように思えた。これが真実と言うのなら、最悪の水晶玉と同義だ。

「捨てる理由ができてしまった。詰まるところ、これは呪物だ。霊子、道端に捨てたりはしないけど、今日でお別れのようだ。俺が持っていても仕方ないしな。」

 俺は冗談を口にしているわけではない。本気でおさらばしたほうが身のためだと感じているのだ。

「嫌や!ホンマにお願い!考え直して。私、弟殺されてんねん!ずっとずっと追ってた!死にたくなんてなかった。なんで報われんまま死ななあかんの?!自分の大切な人平気で殺して生きてる奴が、今もいるなんて理不尽やと思わん?この現象って、神様がくれた奇跡かなんかやと思う。敦じゃないとあかん理由もあるんとちゃう?こんなカメラ、他に渡ったら商売道具にもされかねへんし、私にできることならなんでもするから。どうか助けて。」

 地に膝をつき、額を地面に擦りつけそうな剣幕で彼女は俺に訴えた。少しの間しか彼女との付き合いはないが、大抵人への気遣いは優し気な彼女からそんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった。

「…解った。解ったよ。そんな顔をするな。全く、面倒になった。もし、望んだようにしたら、今度こそ成仏してくれよ?解決に向かわせるって、恐らく相当危険な事なんだからな。」 

 俺は引き受けてしまった。いや、この状況で断れる奴なんているのか。こんな二面性を見てしまっては、真剣にならざるを得ない。

「泣き落としみたいになってごめんな?ありがとう。一生感謝する。あ、死んでたわ。やーね。」

 ホットしたようで、いつも通りの表情を俺に見せて笑った。できることならなんでもか。今のこいつにできる事と言えば推理くらいなものだと思うが。

「話を戻そう。これが念写できるカメラだと仮定しよう。俺はどうするべきだ。今回のようにどこかが写されて、その場所を特定できたとする。例えば、数日間の内でその周辺で殺人事件が起きるわけだ。俺はそこまで行って張り込んで?現場に差し掛かったら止めにでも入るか?相当無理があるし、現実的じゃない。お前が追ってるってのも同一犯だろう?そしてお前も無理だった。これをどう解く?」

 問題の解決とは、空論を通すのではなく、解決へ到達する過程を辿らなければいけない。俺に可能な事柄も考慮し、問題に関わる様々な厄介ごとを処理する必要もある。それが未解決事件の解決とならば、その難易度は如何ほどか。ということだ。

「写真に写った場所の周辺捜査をして、どの辺りで犯行が行われるかの予想は建てれそうやな。止められるとは思ってへん。だから、酷やけど、どっか監視できる場所を見つけて、犯行の一部始終を確認できたら顔や行方も見れるとちゃう?」

 彼女が提案したのは、ごくごく現実的な範囲を沿っていた。あの形相からはその冷静さは伺えなかった。

「そのまま警察に相談、か。お前は良いのか?積年の恨みを持つ奴が刑事事件として解決されて、塀にぶち込まれるか死刑になるだけで。俺だったら、そんな恨みでは済まされない。」

 そう、普通なら捕まって欲しい以上の感情が沸くはずなのだ。自分に力がなくても、背中でも刺してやりたい気持ちになるだろう。

「ちょっと、考えさせて。復讐ができるようになったっていう実感もまだ沸かんねん。私も顔知らへんし、一つずつ進めていきたい。」

 霊子は今の自分の存在自体にも疑いがあるようだった。俺も未だに違和感を覚える。誰かに見せたら、よくできたドッキリか何かだと思われるだろう。

「そうか。と言っても、仮定は仮定だ。このカメラが何をできるのか、はっきりとしていない。試しに一枚撮ってみるか。近くないと駄目なら使い物にならなそうだけどな。」

 俺はカメラを撮影モードに切り替え、適当にピントを合わせて撮った。覗き込んだ時には当然自室が映っていたが、取られたのは全く知らない土地であり、このカメラが平常に使うことができないことも証明された。

「あの近辺っていうのは解るけど、特定はできひんわ。近辺言うても結構離れてる可能性もあるで?一から調べなあかんわ。」

 撮った傍から霊子は認知していて、手間が省けた。しかし、骨の折れることを言い出した。

「はあ、しょうがねえな。何時起こるかもわからん。早めに特定するぞ。」

 こんなことになるだろうとは予測していた。果たして特定までに至るだろうか。これは大事な一歩目だ。

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