第2話 霊感
有言実行、俺は友人の元を訪ね、カメラを見せてみた。彼女とは古い仲でもないが、信頼は厚い。以前から霊感があると言っていて、心霊写真を見せてもらったこともある。
「写真がブレてるのはそういう類じゃないわね。問題っていう写真も不気味だけど、悪霊が居る感じはしない。でも、ずっと視線みたいなのを感じる。何かは取りついてると思う。」
ひと通り写真は見てもらった。しかし、あの写真に霊子はおらず、どこかに消えてしまっていた。今朝確認したときは居た。言葉も交わした。
「あれ、霊子が。やばい奴が居たんだ。普通に会話もした。」
俺は目の前の「広井 夕夏」(ひろい ゆうか)からカメラを取り上げ、自分でも目を通した。おかしい、どこにも見つからない。本当に居なくなってしまったのか。
「頭でも打った?イタコでもそんなこと言わないわよ。幽霊と会話できるんなら不思議な存在じゃなくなるでしょ?」
霊がいることは信じてくれたが、俺の話には耳を貸さなかった。証明できるものが何一つないため、非常に歯がゆい気持ちに成った。
「違うんだ。俺も何がなんだか…。まあ、信じくれとは言わない。しかしだな、危険なものだっていうなら手放したいんだ。お前はどう思う?」
居る居ないの話はこの際重要ではない。俺がとんでもないことに首を突っ込んでいるのかどうかが一番気になるところだ。
「私は良い幽霊も居るって信じてるから、その必要はないと思う。霊だって確証はないけど、やばいって感じは全然しない。少なくとも私の感性では。」
霊子と話していると、俺もなんとなくそう思う節がある。俺の直感に狂いはないのかもしれない。こいつが言うのなら間違いないとまでは言えないが、不安が一つ減ったくらいには安心できた。
「それは良かった。ああ、それと。最新の写真を見てくれ。お前はその写真に違和感を覚えるか?」
もう一度広井にカメラを手渡し、いつの間に撮ったかもわからない写真を見せた。これも怪奇現象の類なら、疎い俺には気づけない要素があるかもしれない。
「これの事?うーん。この人影っぽいのは霊じゃないと思う。どこで撮ったの?」
彼女はしばらく写真を見つめていたが、俺が求めている不思議さは感じ取っていないようだった。
「俺もわからない。いつの間にか撮られてた。」
シャッターボタンを二回押してしまっていたとしても、説明が付けられない。
「それが本当なら変な怪奇現象。さっき霊と会話したって言ってたけど、ちょっとは信じてみようかと思ったわ。結局、捨てるの?」
どうも興味を持ち始めてしまったみたいだ。彼女はその道のプロというわけでもないので、安全と言う表現を鵜呑みにするのは危険だ。
「信じてくれるなら話すが、橘 玲奈っていう霊が憑いてる。やりとりも悪霊のそれではなかった。危害がないなら、普通にカメラとして使えば得だと思っている。」
逆の立場だと、信じられないと改めて思った。からかいを疑っていないことに感謝すべきだろう。
「あ、本気なんだ。良いと思う。くれぐれも気を付けて。最後の写真は、心霊的な意味じゃなくてなんかおかしいから。」
今、呆れられたような気がする。きっと気のせいだ。俺は二つ返事をし、その日のカメラに関する会話はそれまでだった。
その後、家に帰ってからカメラを起動させると、霊子は存在していた。むくれてこちらを見ていた。
「ちょっと、誰かに見せるなら言うてや!そんなんで除霊とかされたらたまったもんやあらへんわ。」
口調は荒めだが、カンカンに怒っているわけではなかった。すっかり居なくなったものだと思ってたので、ああ、また会ったね。というような気持になった。
「意図的に姿を隠せるのか、便利だな。前は未練って言ってたが、そんなにこの世に留まりたいのか?」
よくその手の話で聞くのが、未練があり、現世から離れられないとか言うものだ。霊という存在が偏に執着で結び付けられるなら単純も良い所だ。
「あの人、目が鋭そうやから見破られそうやったで?ほんまにやめてな?結構死に切れん思いはあるで。前言った連続殺人事件、犯人まだ捕まってへんし。こう見えて真剣やねん。」
ほんの少し、霊子が悲しい顔を見せた。俺は軽率な行動に出てしまっていたのかもしれない。少し反省することにする。こいつにも意思があるわけだし、それを俺が左右できる立場にあるのなら、尊重してあげるべきだ。
「悪い。ヘラヘラしてるから、気にしないと思った。だが、流石に関与はしたくないぞ。相手は生きてるわけだ。俺は刑事でもなければ探偵でもない。お前の望みは叶えられそうにない。」
とは言え、自分の生活を疎かにしてまで尽くすつもりはない。無謀な親切はただのおせっかい。という言葉が母の教えだ。
「まあ、ええよええよ。気にせんとって。こんな身で追いきれるとかも思ってへんし。多分、もう少しで成仏できると思うし。それまでは仲良くしたってや。」
霊子は根っから明るいのだろう。笑顔で返してくれた。無理に笑顔を作っているようには見えなかった。逆に俺にできないことはないかと思ってしまう程、死んだことが切なくなってきたかもしれない。
「ああ、よろしく頼む。」
話し相手としては丁度いい。俺はこの時、それくらいの気持ちだった。
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