第15話 落ち込むわ私を嫌いな人リスト

「クイズを出すことは僕の勉強にもなりますしね」

と福井君は楽しそうだ。

早速、国家試験クイズが翌日から始まった。

並行して国家試験の過去問は7年前までさかのぼって解きまくった。

いよいよ明日は国家試験だ。

過去問は7年前までさかのぼり何度も何度も解いてきた。

人事を尽くして天命を待つだ。

しかし、油断は禁物である。

もうこれでええわ…と言う思いがミスを招くと思い今日も問題集に向かう。

試験の開始30分前に問いた過去問がそのまま試験に出て解答に、はずみがついたと言う先輩の話も聞いている。


さあやるぞと問題集を開いたら妻から電話がかかってきた。

「愛子が低血糖で入院したから香菜を連れて病院まで来て」

と言う⾧女の入院の知らせである。

私は問題集をカバンに入れ二女の香菜を車に乗せて病院に向かった。

「私、入院の手続きあるから愛子と香菜を見ておいて。国家試験の勉強しながらでええし」

と妻は言う。

愛子はブドウ糖摂取で落ち着き、すやすや眠っている。

香菜もお姉ちゃんの入院と言う事態が飲み込めているらしく、人形で大人しく遊んている。

私は病室で国家試験の勉強に取り掛かった。


しばらくすると妻が帰ってきた。

「香菜と二人でご飯食べてきて」

「そうするわ、ありがとう」

と外に出た。

病院付近の寿司屋に入った。

壁に貼ってあるお品書きには「時価」と書いてある。

「香菜、何食べる?」

「イクラとウニ」

と可愛く言う。

「イクラとウニ2つずつお願いします」

と頼んだが内心はヒヤヒヤである。

時価って一体いくらぐらいなんだろう…と思ったが

「三つ子の魂百までや、ここは良い物を食べさせよう」

と腹を決めた。

手に汗を握り注文した。


国家試験までは色々あったが、無事に合格できた。

専門学校の先輩が声をかけてくれて大手チェーン接骨院の就職も決まった。

「中島先輩、ほんまに言った分だけ給料貰えるんですか?接骨院って新卒で月収20万円前後が相場って聞いてます。私はそれ以上の額を会⾧に提示しました。“わかった”って会⾧は言うてましたけど」

「あの会⾧は嘘つきません。私が保証します、楽しみにしてて下さいね」

「この職場に誘ってくれて、ほんまにありがとうございました」

中島先輩はそうは言うものの給与明細を開けるまでは多少の不安は拭えない。


「なにこれ!新卒でこんなにもらえるの」

「言うた額入ってる!」

と妻と私は初給料日に喜びを分かち合った。

スーパー銭湯の慰安のマッサージではなく、鍼も打てるし治療もできると私は意気揚々と仕事を頑張った。

接骨院は鍼灸師、柔道整復師の6人体制である。

保険適応でマッサージを15分施術するのだがオプションで鍼も打てる。

いわゆる常連さんが大半を占めるので指名制度はないが「この患者さんにはこの先生」的な暗黙の了解がある。

順番に患者さんに施術しようと思って入っても「中島先生にやってもらう」と言われる事が多々あった。


ある時、社⾧室に呼び出された。

「実は伊丹先生に施術してほしくない患者さんがいるんだよ」

と社⾧は言う。

「私がマッサージが下手だからですか?」

「そうではないが…」

と社⾧は一枚のリストを私に手渡した。

「伊丹先生のマッサージは私も受けたので認めているが、この数字は見過ごせないんだよ」

そのリストに30名ほどの患者さんの名前が羅列されていた。

「当院のスターティングメンバーの先生たちのマッサージで患者さんが来院してるのはわかるよね。なので中島、大坪、桜井の三先生いずれかの技術をコピーして欲しい」

「わかりました」

と私は社⾧室を出た。


スタッフルームに帰ると

「根掘り葉掘り受付スタッフにそんなリスト作らせる事が馬鹿げてますよね、田舎の固定観念の強い中高年患者さんはそれくらいの事は言いますよ。気にしなくていいです」

と中島先生は言ってくれた。

ありがたい言葉だった。

以降、三先生は私に技術を教えてくれた。

「伊丹先生、僕たち先に入社したメンバーのマッサージをコピーしなくてもいいですよ。伊丹先生のオリジナルで勝負してくださいね。たまたま僕達が先に入社してただけですよ」

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