第13話 本当に鍼で精子が元気になった

正確さを期すために精子提出後、六日間は禁欲生活を送ると言うルールを作ったが守れないメンバーもいた。

恥ずかしながら私も一度やってしまった。

リーダーの原田さんはいつも物腰柔らかで決して怒らない人である。

ルール違反しても黙っていれば分からないことなのに、原田さんの研究に対するひたむきさに嘘がつけず告白してしまう。

「ごめんなさい原田さん、ついつい我慢できなくて」

「まぁ、山崎は18歳だし我慢しろと言うのが残酷だよな」

「次週はちゃんと我慢します」

「我慢できたら…でいいよ」

と原田さんは言うが顔が悲しそうだった。


プレパラートに乗せた精子をパソコンの画面が映し出す。

「こんなに精子って元気よく泳ぐんや」

「こんなに大量に存在するなんて不思議」

と各々感想が漏れる。

「この測定機で存分に見聞を広げて下さいね。ところで皆さん、この研究室に精子を持参する時、どこで採取してるんですか?」

と教授が聞く。

かなり気心がしれてきたので、教授も少しずつ立ち入った質問を投げかける。

「ここに来るまでにレンタルDVD個室に立ち寄ってきます」

「なるほど、それは費用がかさみますね。それは研究費として請求できるんですか?」

「ウ~ン、それは微妙なところですが、みんな自腹でいいよね?」

と原田さんは私達に聞いた。

メンバーは全員、首を立てに振った。


着々と研究データは蓄積されて行く。

禁欲が守れなかったり均一性がとれないものではあるが、そこは学生の卒業研究と言う事で…と原田さんはあまり難しく考えないようにと声をかけてくれた。

精子の運動量、数、運動スピードは各人での差異はあるものの不妊学会で取り上げられる不妊精子の基準値を上回って来た。

「鍼で本当に精子が元気になったよな」

と私達は各々言い合った。

「絶対、最優秀研究賞取ろうな」

と言う原田さんの言葉にメンバーは大きくうなづいた。


データの整理をコツコツとこなし原田さんが発表用のパワーポイント資料を作ってくれた。

約20題ほどの発表の中で栄冠に輝くのはどの班の発表か。

刻々と発表の日が近づいてきた。

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