第10話 鍼灸で内科疾患治るんだ
こんな事では患者さんに申し訳ないと思う。
痛む所にだけ刺すのなら誰でもできる。
痛みの原因がどこから来ているのか特定できるように解剖書で勉強をし始めた。
しかし赤点からやっと脱却できたばかりの私には解剖学を駆使して治療する事は困難を極めた。
そんな時、クラスメイトの津村さんが「経絡治療」と言う治療法の勉強会に行っていると聞いた。
「ツボとツボをつないだ線に元気の気が通っていてそのルートを経絡と言うんだよ。例えば胃が痛い時に足三里と言うスネにあるツボに鍼を刺すと治ると言う治療法で東洋医学の真髄とも言えるのよ」
と津村さんは言う。
「鍼って筋肉にぶすっと刺して筋肉緩めるだけのものやと思てたわ。鍼で内科疾患が治るって事やんね?」
「血圧も下がるよ」
「それはすごいなあ」
私は勉強会に行く事にした。
毎週、水曜日に中国古典医学書を読み合わせ、そこに書かれている理論をふまえてモデル患者の治療をする。
主宰されているのは脈診流浅田鍼治療院の浅田先生である。
浅田先生は大学生の時に難病指定の病気で途中失明された全盲の先生である。
週一回の勉強会はとても学ぶ事が多くて楽しい。
どんどん東洋医学に対する興味が深まっていく。
勉強会が終わると参加者全員で院内の掃除をする。
私はお湯のみの洗い物をしていた。
すると浅田先生が
「伊丹君、洗い物が終わったらゴミを捨ててきてくれ」
と言った。
「えっどうして私が洗い物していたのがわかったの?」
と不思議に思った。
先生は目が不自由であるがゆえに聴力やその場の雰囲気で全てを感じてらっしゃるんだと驚いた。
実技の時、モデル患者になって先生に治療を受けると、その手の温かさと柔らかさに自分の中の悪い物がすべて溶けていくように思えた。
「気血津液によって人は成り立っていて、そのいずれも過不足なく調和が取れているのが健康な状態なんです。なので、その過不足を補ったり、取り去ったりする事を経絡の流れを考え治療するのが経絡治療です」
と浅田先生は言う。
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