十九 わたしたちのあそびば
コミツと温泉卵を作り、
部屋のお風呂でも足湯はしていたが、岩は座りにくい。
それに、風景も多くの人が行き来しているのを見ると、気分転換にもなった。
いつも
何よりも、誰もミヨに気を留める様子はなかった。
「ありがとうございました」
「こちらこそ!ミヨさまが楽しそうでよかったです」
部屋で数日過ごす間、コミツはミヨの頬を気にして、ずっと頬を揉んでいた。
そのおかげか、ミヨは少し口角を上げることを気にするようになったし、頬も柔らかくなった、気がする。
「帰りましょうか」
二人で中庭から廊下に戻る。
そのとき、コロコロと
「おねーちゃん」
鞠を
「はい」
「ありがとー」
鞠を受け取った子どもはまたパタパタと廊下の奥へと走って行く。
「おねーさんが拾ってくれたー」
部屋の前で女性にそう報告する。
女性はこちらをみて、頭を下げ、二人で部屋に入っていった。
「あの人の服……お母さんでは、ないみたいですね」
服はいつものコミツのような、従業員の服を着ていた。
たすき掛けと前掛けをつけている。
「ええ。うちの従業員です。子ども達が過ごす場所ですね。みにいってみますか?」
コミツがミヨの体力を気にして見てくる。
体力は大丈夫そうだ。
ミヨはうなずいて、先ほどの子どもが入っていた部屋を
中は広くて全面が
多くの子どもが部屋で過ごしている。
積み木で遊んだり、昼寝をしている子もいた。
しかし、部屋にいる大人は全員従業員だ。
「あら、コミツじゃないの」
「サネさん」
呼びかけてきた女性は灰色の髪をまとめた従業員。
ミヨとコミツを見比べている。
特にコミツを上から下まで。
「あんた、そんな格好して何してんだい」
「ミヨさまの
「ああ……」
次はミヨに目線を移す。
「あなたがミヨ様ですか。コミツがお世話になっています」
「あ、いえ……」
むしろ、お世話されているのは私のほうだが、と思うが、ミヨは頭を下げるだけにした。
「先ほど、鞠が転がってきたので、気になられたようで、様子を見に来ました」
「そうですか」
コミツの説明に納得したサネは、静かに部屋の扉を閉めた。
「ここは遊び場と呼んでいて、子どもの魂が過ごしています。私たちのように、自我を持ったものは自分の思う通りに過ごすことができますが、一人で来た子どもたちは難しいので、ここで共同で過ごしてもらってます」
「なるほど……」
「子ども達の多くは親と一緒にくることはありません。あったとしても、こちらにくるときに離れてしまう。なので、こちらで過ごしてもらっているんです」
ミヨは周りを見渡した。
数人の従業員が子ども達の遊び相手をしている。
「また、子ども達の魂は遊ぶことでその治癒が早くなるので、ここで遊ばせているのです」
「………」
「ミヨさま……?」
黙ったミヨの視点はある一点で固まっている。
異変に気付いたコミツがその視線の先を追うと、一人の少年に行き着いた。
「ミヨさま、どうされました?」
ミヨが見つめる少年は、輪っかを手にして、その先にある棒に狙いを定める。
放り投げた輪っかは予想外の
「ねぇコミツさん?」
「な、なんでしょう」
ミヨがコミツの袖をひっぱり、少年を指さした。
棒の一つに引っかかった少年は、従業員に拍手されて喜んでいる。
どうやら、高得点だったらしい。
「あれが、あれが輪投げですね⁈⁈」
「………そうですね‼」
それを聞いたミヨは、これまで感じたことのない胸の高鳴りを感じ、キラキラと瞳を光らせた。
* * *
「ねぇ!コミツさん!今日も行けませんか⁇」
次の日から、ミヨの様子が変わった。
中庭に行くのではなく、『遊び場』に行くことを希望した。
コミツとしては、髪を結うことも楽しいので、何の負担でもなかったが、少しは戸惑いを覚えた。
初めて『遊び場』をみたミヨは、少年と輪投げの勝負をして負けた。
少年はとても喜んでいたが、それ以上に喜んでいたのはミヨだった。
部屋に帰ってきたあと、ミヨはずっと『遊び場』の話をしていた。
どうやら、幼い頃に遊ぶことがほとんどなかったために、輪投げなどの遊びに憧れがあったらしかった。
その姿にサネも気を遣ったのか「明日も来ていいですよ」と言っていたのだ。
「いいですよ。髪を結っていきましょうか」
「はい!」
昨夜のうちにヒラサカにも伝えたが、中庭と違ってミヨのことを攻撃することはないだろう、とコミツと共に行くことで許可を得ておいた。
髪を結い、三角巾をかぶせて、部屋を出る。
中庭を通り過ぎて、遊び場に入ると、サネが出迎えてくれる。
「いらっしゃい、ミヨさま」
「すいません。お邪魔します」
部屋を出るときは少し緊張気味だったミヨも、遊び場に入るときには落ち着いていた。
「昨日の子どもたちは、無事に天界に行きました。今日も何人か来ています」
「そうなんですね」
キョロキョロと周りを見渡すミヨ。
ただ、子どもと一緒に混ざって遊ぶことにはまだ抵抗感があるようだった。
昨日の輪投げは、少年が勝負を仕掛けてきたのもあり、遊ぶ事ができたが。
「そうだ、ミヨさま。もしよければ、カルタの読み札を読みませんか?」
「カルタの読み札……?」
「ええ。今日は年長さんが多いんです」
サネが指す方向には、子ども達が揃って机に座って、朝ご飯を食べているところだった。
多くの子たちは食べ終わっており、食器を片付けるのを手伝っている。
「もし、よければ」
「では、お願いしましょう」
サネが子どもたちの方にいき、カルタに誘うと、数人が賛成した。
子どもたちの手伝いもあり、あっというまにカルタの準備が整う。
「1回目の読み手は、ミヨさんです!」
「はーい」
「よ、よろしくお願いします…」
多くの子どもたちがこちらを見てくる。
読み札を握りしめたミヨの横にコミツも座って、手伝う。
「ミヨさま、緊張せず」
「は、はい」
「もし疲れたら代わりますので、早めに言ってくださいね」
一応、魂の治癒はまだ完全じゃないんだから、とコミツは心の中だけで呟いた。
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