第6話
26 金鉱
森の民の首長の家
「金鉱?
そんなものは知らん!」
「しかし金鉱の近くの川で砂金が採れるのはよく知られている。
これです。
これは今度バイパスを作ろうとしている山の近くで、うちの息子が見つけたものです。
あの山を調査したい。」
「あの山は、森の民は悪魔の山と言っておるんだ。
トンネルは山麓だけだと言うから同意したのだ。
登ってはいかん。
大体切り立った崖で、登れんだろう。」
「トンネルを作ると同時に、山肌に発破をかけて、崖を崩します。」
「馬鹿な事を言うんじゃない!
そんな事をしたら...」
首長は悲しそうにしばらく考えていた。
「分かった、あなたを信じよう。
私の話を聞いて、あなたが判断してくれ。」
27 間欠泉
「じつは、うちの若い者の中にも、あなたの 息子さんと同じように砂金を見つけた者がいたんだ。
そいつは崖にクサビを打って、両手でぶら下りながら登っていった。
全く命知らずだ。
崖を登り終えてから、またしばらく山を登ると、
見つけたんだ、
すり鉢のような窪地の底に黄金だ。」
「え?」
「金鉱は地下に坑道を掘らなくても、むき出しに近い状態で、上から露天掘りができるんだよ。」
「そ、そんな夢のような鉱床があるんですか?」
「このすり鉢の底からは間欠泉が噴き出す。
わしの考えでは、
おそらく地下深くに巨大な金鉱が眠っている。
あのあたりは昔火山だったから、その熱で溶かされた金鉱の一部が間欠泉の水蒸気に巻き上げられて、地上に噴き出るのだろう。」
28 毒ガス
「それで、その登った男は、間欠泉が噴き上がるのに身の危険を感じて、あわてて足元の砂を一握りだけ持ち帰ったんだ。
その中にも砂金が入っていた。
みんなが止めるのも聞かず、その男はまた山に登った。
そして帰って来なかった。
その男の友人が、そいつを探しに行ったのだ。
いいか、森の民だから登れるんだぞ、普通の人間では無理だ。
すり鉢の淵で男が死んでいた。
近寄ろうとしたら、今度はその探しに行った男が、息苦しくなった。
毒ガスだ。
間欠泉は水蒸気と一緒に、毒ガスも噴き出していたんだ。
命からがら戻ってきた男は、そのまま呼吸ができなくなって、危篤状態になった。
リジィがあわてて駆けつけて、命だけは取り止めだのだが、今でも寝たり起きたりの生活だ。
あの山は悪魔だ、
目の前に黄金を見せつけておいて
近づくと殺してしまう。
悪魔なんだ。」
家の近くに人影があった。
その男はニヤッと笑うと、暗闇に消えて行った。
29 掘削機
親父のところに機械技師が訪れていた。
「人が足を踏み入れられない場所から、物を掘り出す方法ですか。
そうですねえ、まず掘りたい場所の両側に土台を置きます。
そこに橋桁を渡して、2本のワイヤーと滑車を使って遠隔操作でショベルを動かせるようにする。
あとはショベルを重くして、その重さで掘ってから引き上げるという感じでしょうか。」
「しかし、ワイヤーと滑車では強度が不足しませんか?」
「最近は素材も進歩して、丈夫で操作しやすい物ができています。
やはり実際に現場を見てみないと、なんとも言えませんねえ。」
「分かった、いやありがとう。」
親父の机の上には、何枚もの掘削機の図面が置いてあった。
「何だ父さん、井戸でも掘るのか?」
「うん、まあそんなところだ。」
30 辞書
「なあアレックス、
ここの領地はもともと森の民のもので、我々は後から来たよそ者だったって事は知っているよな。」
「うん」
「最初の、じいさんのじいさんたちは、我々の方が文化的で優秀だと思い込んでいたから、森の民を支配しようとしたんだ。
それで内乱になった。
亡くなったおまえのお祖父さんには、小さい時に森の民の友達がいて、森の精霊と話しているその子が羨ましかったそうだ。
自分も精霊と友達になりたかったんだろうな、
親に隠れて森の民の人たちから、色々と話を聞くようになった。
それで森の民には自分とは別の世界があると知った。
精霊とは友達になれなかったけど、大切なものを見つけたんだ。
例えば彼らは、ずっと以前は別の言葉を使っていたんだよ。
もうお祖父さんの頃には使う者も少なくなっていて、今では話せるものはいない。
あの首長さんだって、よくわからないと言っている。
これを見てごらん、お祖父さんが作った辞書だ。
森の民が書いた昔の文献が出てきた時、誰も読めないでは悲しいだろう。
そう思って、わずかに残った村の長老たちに、聞き回って作ったんだ。
ヴァーサ王国と友好条約が結ばれた時、いち早く道路を開通できたのは、あれは森の民が親父を信頼していたからだ。
この人のやる事なら間違いないと、全面的に協力してくれたんだ。」
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