第16話

「さ、藍そろそろ戻った方がいいわよ。」



藍の淹れてくれた紅茶を飲みながら部屋に戻れと言えば、「名残惜しいですが」とかなんとか言いながら綺麗に一礼をした。



藍は毎日授業が終わると真っ先に私の部屋で私の帰りを待っている。



基本的に下位のカーストに属する人種が自分より上位のカーストに属する者の寮に立ち入ることは許されていない。



明確な規則があるわけではないけれど、暗黙の了解でそうなっている。



そもそも人間というものは自分より下の立場にある人間を見下して毛嫌いする習性があるため、家畜が平民や神の使う領域に侵入したとなればそれはめんどくさい事になること間違いなしなんだ。



そんな危険を冒してまで毎日毎日顔を見せにこなくてもいいと言っているのに、藍は私が入学してからずっとこの習慣を忘れたことはない。




藍曰く、「お慕いしている方に会いたいと思うのは自然の摂理ですよ」とのことらしいけれど冗談も休み休み言って欲しいものだ。



感情が読み取りにくい従者を持つと大変だなあと何度思ったことか




「それでは本日は失礼します。戸締まりはお忘れなきよう。しっかりと布団は肩まで掛けてくださいね」



「…毎日同じこと言わなくていいわよ」



藍は異性というよりお母さんと言った方が合っている気がする。



フッと笑みを浮かべた藍を玄関で見送り、しっかりと戸締りをした。



そして部屋の1番奥にある窓まで行き、藍が無事に平民寮を出ることができたかどうかを確認する。



今日も無事、黒いブレザーが平民寮を後にするのを確認できたので安心の一息をついたのだった。

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