断章Ⅱ There's a flip side to everything
第23話 There's a flip side to everything
「あれって、ホントに倒しても良かったのかな?」
五年前。最初の〈セフィラ〉を破壊し終えた、その日の夜のことだった。
人工の光の一切ない暗闇の中、一緒に見張りをしていた
「なに言ってんですか? 〈セフィラ〉はおれたちの国を消した、〈
「それはそうなんだけどさ……?」
疑念の表情を変えない
「……姫様は、なにがそんなに気がかりなんですか」
〈
しばしの沈黙ののち、
「レンくんはさ、『表裏世界説』って知ってるかな?」
「……なんですか、それ」
やっぱり知らないか、と肩を竦めて、
「世界歴史学とか、魔力学とかで度々議論になってた話でね。この世界にはもう一つの世界――つまりは『裏』の世界があるって説だよ」
「裏の世界……?」
なんともオカルティックな話だな、とレンは眉を
超自然的なことを扱う魔力学はともかくとして。なぜ、史料を読み解くのが仕事な歴史学の場で、そんな
魔術で焚き火に薪を投げ入れながら、
「この世界にはエネルギー保存の法則がある。だから、薪を火にくべようがそのエネルギーがこの世界から消えるようなことはないし、逆に全くの無からエネルギーが生じるようなこともない。……ただ、魔力を除いてはね」
「……それが、さっきの話となんの関係があるんですか」
半眼で言うレンに、
「全くの『無』からエネルギーや、時には物質さえも創り出すような力――魔力。そのエネルギーや物質は、いったいどこからやってきているのか。そう思ったことはないかな?」
「た、たしかに……?」
思わず、興味のこもった相槌を打っていた。
力の根源となる何かがなければ、あらゆる物質やエネルギーは発生しない。それは、現在のあらゆる方面の科学研究によって証明されている。
そもそも。魔力というもの自体、いまだ計測すらも実現できていない未知の力なのだ。
自分の趣味を人に話せて嬉しいといった笑みを浮かべて、
「そこで考え出されのが『表裏世界説』だよ。私たちのいるこの世界がいわゆる『表』の世界で、魔力は『裏』の世界から漏れ出したものだっていう説だね」
「でも、それがなんで歴史学の場で議論されてるんですか?」
魔力学でそういう議論がなされるのはまだ分かる。だが、裏表の世界の話が、どうして歴史学にまで派生するのだろうか。
「超古代文明の文献に、こういう記述があるんだ。“正世界の証明たるセフィロトに、私達は
「……えと、」
「あー、急にこんなこと喋られても訳わかんないよね、ごめん。一人で突っ走っちゃうのは、ボクの悪い癖だね」
苦笑を浮かべてそう言うと、
「“正”の世界には“セフィロト”が。“負”の世界には
唯一、〈
「つい長々と喋っちゃったけど……。つまりは、ボクたちの倒した〈セフィラ〉からは、もしかしたらもっと危険なものが出てくるのかもしれないってことだよ。それこそ、世界に
にっと快活な笑顔を向けられて、レンは肩を竦める。
「悪魔って……。そんなの、おとぎ話に過ぎないでしょ」
いくら世界がめちゃくちゃな状態になっているとはいえ、そんなおとぎ話の中の存在まで出てくるわけがない。
爽やかな笑い声を上げる
「でも。どのみち今は〈セフィラ〉を倒していくしか道はありませんよ。でないと、おれたちが〈ティターン〉に滅ぼされるんですから」
レンの言葉に、
「……ま、それもそうだね」
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