第13話 作戦開始
作戦当日は、
ざぁざぁと降り注ぐ雨の中、リーナたち第二特戦隊はレインコートを纏って作戦開始の
腕時計が午前四時を指したのを確認して、リーナは決然と告げる。
「これより〈
〈
作戦開始時刻は午前四時。〈ティターン〉の行動前、夜明けと同時に敵地への侵入を開始する。奥地の〈ティターン〉が出払うであろう午前七時頃に目的地――レクス回廊付近の〈
組織的攻勢の要である〈
作戦の内容自体は極めて単純なもので、完了までは一二時間もかからない簡単なものだ。進撃及び撤退に関しても、第一特戦隊が
作戦時間も、当初こそ昼間での攻撃だったものの、昨日の夕方頃に改訂されて午前中へと変更された。この時間帯は丁度〈ティターン〉が防衛線へと攻撃を開始する時間帯であり、後方の監視は比較的手薄な状態だ。奇襲効果を狙うのならば、最適の時間帯になる。
つまり。〈
……まぁ。その〈
『〈
行軍中、通信機越しにイヴが訊ねてくるのに、リーナは答える。
「
研究学者いわく。中央の
正直生物とは思えない見た目の情報ではあるが、これでもれっきとした〈ティターン〉の一種だ。他のと同じく倒せば爆発するし、光の十字架も放つ。
『それと、ヤツは記憶の神の名を冠するだけあって頭がいい。下手に攻撃を避けてると、援護の届かない場所にまで追い込まれちまう』
「なので。みなさんはくれぐれも事前の作戦通りにお願いしますね。……私は、誰も死なせたくなんかありませんから」
静かに、けれども確固たる意志を込めてリーナは言う。
みんなには生きていて欲しいから。危険なのは、いなくなるのは私だけでいい。
『それでも、やっぱり私は反対です』
レイチェルの不安げな声が耳に届く。
『私たち三人は他の〈ティターン〉の掃討にあたって、〈
『むしろそっちの方が危険だ』
レイチェルの言葉を、レンは遮る。
『無意識のうちに窮地へと追いやられてしまう以上、中途半端な腕のヤツは居た方がかえって危険だ』
『それは……』
厳しいレンの言葉に、レイチェルは口を噤む。
言い方こそ悪いものの、事実、その通りなのだ。攻撃しようという意思があるせいで、全力で攻撃を避けるという意思が削がれてしまう。結果、負傷は蓄積し、無意識のうちに味方の援護の届かない、いわゆる“
攻撃と回避を高いレベルで両立できなければ、思惑通りに動かされてしまう。それが、〈
にやりと、笑ったような挑戦的な声音で、レンは言う。
『……まぁ。俺は前の部隊で〈
『……』
「大丈夫です。必ず、全員で生きて帰りましょう」
そう、念を押すようにリーナも伝えて。
『……絶対に、生きて帰ってきてくださいね』
レイチェルが言うのに、二人は決意を込めて応えた。
『ああ。もちろんだ』
「はい。もちろん」
それから数時間ほどを進軍して、腕時計の針が午前七時を告げる頃。激しさを増した雷雨の中に、一同は
雨霧に霞む景色の奥、そこにあったのは巨大な円状の
世界の有り様だけを粛然と映し出すだけの、異界に繋がる鏡の門。それこそが、〈
『アレが〈
フリットが驚愕の声をもらすのに、レンは真紅の瞳をきっと細めて地上の鏡を睨み据える。
この鏡の中で、〈
気を落ち着かせるのに一度息を吐いて。レンはリーナの号令を聞く。
『予定通り〈
『了解。……二人とも、ちゃんと帰って来いよ』
フリットの言葉に、二人は無言の肯定を返して。
直後、二人はそれぞれの魔術式兵器に
鏡の門をくぐると、そこは一面真っ黒な世界だった。前後も左右も、上下の感覚さえも奪い去られるような、深淵の黒色だ。辛うじて感じる風だけが、自分が今前進していることを感覚させる。
視界の先には、
「……あれが、〈
思わず、声がこぼれ落ちる。
資料でその姿は知ってはいたが。こうして実際に目にしてみると、実際の数値よりも何倍も大きく、そして異様な姿だった。
突然、隣でぱちんと音がして、リーナは立ち止まる。音のした方へと振り向いて、そこには魔術の照明弾を展開するレンの姿があった。
「……ええと、ブローディア中尉?」
困惑げに訊ねるのに、レンは呆れに目を細めて答える。
「昨日の作戦会議で言ったろ。鏡の中はあらゆる感覚が狂うし、どこを向いてもおんなじ景色があるだけだ。目印を置いとかないと、脱出に手間取る」
「一定時間内に脱出しないと、出入口が閉じる……んでしたっけ」
ああ、と相槌をうって。レンは〈
「この方法が編み出される前は、間に合わなくてたくさんの部隊がいなくなった」
「……」
その言葉に、リーナは唇を引き結ぶ。
照明弾の展開が完了したところで、レンは振り向いて告げる。
「……行こう」
「ええ」
こくりと、リーナも頷き返して。
瞬間。二人は飛行魔術を全開にして〈
遠近感の狂う深淵の闇の中、
『先に俺が左翼から攻撃する! リーナ、あんたはその隙に右翼から突撃しろ!』
「了解!」
応答して、その直後。四つの
遠ざかる左翼側では、レンが熱線を〈
それからは目を離して、リーナは今一度〈
全高は約三〇メートル、全幅約四〇メートル。その大部分は中央の球体を守る
ゆえに、こいつを打ち倒すにはただ唯一、接近戦での直接攻撃しかない。
右手に握る〈
剣を突き立て、来たる個体防壁の衝撃に備える。〈
確かな手応えと共に個体防壁を突破し、四つの
魔力同士の衝突で
「なっ……!?」
信じられない光景に、リーナは目を見開く。まさか、〈
『リーナ! 下がれ!』
レンの言葉で我に返って、視界の端に見えていた光条を躱してもう一度距離をとる。
……これだけでは、足りない。
〈
今の私の腕では、高速で動く四つの
……もう、
しばしの逡巡ののち、リーナは緩く瞑目する。意識を集中させて、左眼の
『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます